第50話

ジェイクに殴り飛ばされたウェスカーがのろのろと立ち上がる。

「な、何をする・・・」

「貴様ことなんてことをするんだ。神聖な決闘をけがしよって」

ヒンメルン王国では決闘を重んじる。

それは軍隊化が進んだとはいえ元々騎士の国であったからだ。

決闘の結果は王家ですら受け入れるそういう暗黙の了解があったのだ。

故に決闘を見守っていたジェイクの逆鱗に触れることになった。

「王とはいえ、サーキス王国の王族である私に手をあげてただで済むと思っているのか?」

「貴様こそ馬鹿にするな。本気で我が国とことを構える覚悟があるのか?」

それは王としての最後通告だった。

「ぐっ・・・。絶対に後悔させてやる」

そう言ってウェスカーは配下を連れて足音荒く出ていった。

いつの間にかマーカスも近くにやってきていた。

「よろしかったのですかな?」

「あぁ。構わん。あいつには何の権限もないだろう。それに、本気でやりあおうと言うのならとことんまでやるまでだ」

それは全面戦争になっても構わないとの宣言だった。

「我が国も全力で協力いたしましょう。元を正せばうちのアルフレッドが原因ですからな」

「こんなことになり申し訳ありません」

アルはそう言ってジェイクに頭を下げる。

「頭をあげてくれ。アルフレッド殿は武術にも優れていたのだな。いいものを見せてもらった」

そう言ってジェイクは先程とは違い笑みを浮かべていた。

「アルフレッド様。お怪我はありませんか?」

そう言ってフランがかけつけてくる。

「はい。僕は無事ですよ」

「よかった・・・。アルフレッド様。格好良かったですよ」

そう言ってフランは頬を染める。

「ありがとうございます」

「さて。無粋な客も帰ったことだし今後のことを話さなければな」

「そうですな」

ジェイクとマーカスは仲良く訓練場を後にした。

「私達も行きましょう」

フランに促されアルも訓練場を後にする。

残された騎士達はアルの話でもちきりだった。

「あの歳であれほどの腕前をお持ちとは・・・」

「少々歳は離れているが姫様のあの様子・・・」

「マルコシアス王国は小さな島国ということだが相手としては悪くない」

「我が国の弱点を補い支えあえる相手か・・・」

この一件は騎士達に尊敬の念を頂かせるのに十分な出来事だった。

元々、大事な国賓ではあったがそれ以降、騎士達は心を込めて歓待するようになった。

ジェイクとフランはその変化を感じ取っていた。

重臣の中にもマルコシアス王国との関係を不安視している者もまだいるが、騎士達が賛同してくれるなら説得材料になるだろう。

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