第39話

アルはボートを漕ぐ手を止めて目を瞑る。

「私がいいというまで目を開けたらダメですからね?」

ボートが揺れたたかと思うとおでこに柔らかい感触を感じる。

ほんの少し触れただけだ。

また、ボートが揺れる。

「もう、目を開けてもいいですよ」

「今のは・・・?」

「ふふ。乙女の秘密という奴ですよ」

どうやら教えてはくれないようだ。

フランの顔を見れば赤いような気がする。

それは、夕日のせいだけではなさそうだ。

「急いで戻らないと皆さんに心配をかけてしまいますね」

そうだった。

完全に暗くなる前に城に戻るべきだろう。

「少し急ぎますね」

アルはそう言ってボートをなるべく揺れないようにしながら浜まで運ぶ。

だが、待機していた使用人からは怒られてしまった。

「ずっと戻ってこないので何かあったのではと・・・」

「ごめんなさい」

ずいぶんと心配をかけてしまったようだ。

自国の王族だけでなく他国の王族もいるのだ。

悪いことをしてしまったな。

後でフォローをしておこう。

帰りの馬車に乗り込み林を抜けて城まで戻ってくる。

その間に、日は沈む1番星が見えていた。

湯の用意ができているとのことでフランとはすぐにわかれた。

潮風は髪を痛めるとのことなのでケアも大切なのだろう。

アルも湯を部屋に運んでもらい軽く体を拭く。

それが終わってから食堂に向かった。

食堂ではマーカスとエルドラにトーマスが席に着いていた。

「お待たせしてしまいましたか?」

「いえ。私達が早く来すぎてしまっただけだから」

「それより、フランちゃんとのデートはどうだったのかしら?」

エルドラがそうぐいぐい聞いてくる。

「デートって・・・。僕にはまだ早いですよ」

「そうかしら?報告は聞いたけど例の場所にも行ったのでしょう?」

「行きましたけど・・・」

「アルには伝えていなかったけど伝承があるのよ」

「伝承ですか?」

「洞窟に男女で訪れた場合、結ばれるって」

「そんな迷信みたいな話・・・」

「アルよ。そう馬鹿にした話ではないぞ?」

「お父様。どういうことですか?」

「何を隠そう私とエルドラが結ばれたからな」

「そうねぇ・・・。私の両親は王家に嫁入りなんて大反対してたものね」

仲が良い2人であるが結婚に至るまでには色々あったようだ。

当時のマルコシアス王国は落ち目であり、何かあれば王族が真っ先に排除される可能性があった。

そんなところに、娘を嫁には出したくないだろう。

そういった事情もあり、エルドラの両親は結婚に反対したのだろう。

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