第38話

アルとフランは2人っきりでボートに乗って海に繰り出した。

今日は波も穏やかでボート日和と言える。

アルは細心の注意をしつつボートを目的の場所に進ませる。

見えてきたのは洞窟のような場所だ。

「ここは・・・?」

この場所は浜から見えない位置にある。

「驚くのはこれからですよ」

アルはそのままボートで洞窟の中にはいる。

内部がきらきらと輝いている。

その正体は、水晶やクリスタルだ。

「綺麗ですね」

「気に入っていただけましたか?」

「それはもう・・・。このような景色を見せていただきありがとうございます」

「喜んでいただけたようでよかったです」

ここを代々のマルコシアス王国の王族が秘匿しているデートスポットというやつである。

過去には財源を確保するために採掘して輸出すると言う話もでたようだが、思いでの地ということで保護され続けてきた。

フランの満面の笑みを見て代々の王族に感謝を捧げたい気分だ。

「アルフレッド様はどうしてここまでしてくださるのですか?」

風景を楽しんでいたと思ったら真剣な顔をしてそう切り込んでくる。

これが、王族としてのフランの顔なのだろう。

「そうですね・・・。下心がないと言ったら嘘になります。ヒンメルン王国との関係は我が国に取って重要です。ですが、フランソワ様に少しでも楽しんでほしかったんです」

「私に楽しんで・・・?ふふ。そうですか・・・」

フランは薄暗い今の状況に感謝した。

今、顔を見られたら赤くなっているのがばれてしまうから。

年下の男の子にここまで手玉に取られるとは思っていなかった。

ジェイクは冗談のように婚姻を提案していたが、本気で考えてみてもいいのかもしれない。

自分の方が歳上でアルは嫌がらないだろうか?

そんなことを考えていた。

「どうします?もう少しここにいますか?」

「そうですね。しっかりとこの風景を目に焼き付けておきたいです」

フランは心を落ち着けるためにそう提案する。

時間稼ぎの意味もあるがこの風景をもっと見ていたいのは本当だった。



楽しい時間はあっという間に過ぎ去っていく。

もう少し楽しませてあげたい気持ちもあったが、暗くなりすぎると安全を確保できない。

名残惜しいがアルはボートを操作して洞窟を出る。

洞窟を出るとちょうど夕暮れ時だった。

夕日が海に反射して幻想的な風景を作っている。

「綺麗ですね・・・」

「そうですね。今日は雲もありませんし」

「アルフレッド様。少しだけ目を瞑っていてもらえますか?」

フランは唐突にそうお願いをしてきた。

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