第36話

「アル。トーマス殿の相手は私がするからフランソワ様の相手を任せてもいいかな?」

「わかりました」

アルが使用人にフランの居場所を訪ねるとエルドラとお茶をしているとのことだった。

余程、エルドラと話が合ったのだろうか?

アルは扉をノックして反応を待ってから入室する。

「お邪魔します」

「あら。アル。いらっしゃい」

「お母様とフランソワ様は短期間でずいぶん仲良くなったのですね」

「そうね。共通の話題で盛り上がってしまって」

「共通の話題ですか?」

「乙女の秘密よ。聞き出すようなことではないわ」

エルドラはそう言って教えてはくれなかった。

「そうですか・・・。お母様、よければフランソワ様をプライベートビーチに案内しようと思うのですが」

「あら。それはいい考えね。どうせなら若い2人でいってらっしゃいな」

「プライベートビーチがあるのですか?」

フランは驚いてみせる。

ヒンメルン王国では港町はあってもビーチは存在しなかった。

それをプライベート用として所持しているのは羨ましい。

「こじんまりとしたところですが、綺麗なところですよ。どうでしょうじゃ?」

「是非行ってみたいです」

「わかりました。馬車を手配しておきますね」

そう言ってアルは指示を出すために退室した。




フランが現れたのは話をしてから1時間ぐらい経ってからだった。

装いも変わっており動き回るのに支障はなさそうだ。

「お待たせしました」

「いえ。それでは行きましょうか」

アルはフランをエスコートしつつ馬車に乗り込む。

馬車はゆっくりと走り出した。

馬車は街に向かう道ではなく林の中に入っていく。

林の中の道もしっかりと整備されており馬車が大きく揺れることはなかった。

30分ほど馬車で揺られていると目的のプライベートビーチに到着した。

「うわぁ。本当に綺麗なところね」

小規模ではあるものの綺麗な砂浜に打ち寄せる波も透き通るほどに透明度がある。

「はい。我が王家の密かな自慢なんですよ」

「風も気持ちいい?もっとちゃんと見たいわ」

「よければ散歩でもしてみますか?」

「よろしいのですか?」

「好きなだけ付き合いますよ」

「ありがとうございます」

馬車から降りて2人で砂浜を歩く。

日差しはやや強いが今日は心地よい風が吹いている。

絶好の散歩日和だった。

アルはちらりとフランの顔を盗み見る。

フランは笑っており楽しんでもらえているようだ。

安心すると同時にどきりとする。

それぐらいフランの笑顔はインパクトがあった。

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