第34話

王宮に着くと、エルドラが暖かく迎え入れてくれた、

「お母様。ただいま戻りました」

「おかえりなさい。怪我とししてない?」

そう言って全身を確かめるようにペタペタと触ってくる。

「お母様?恥ずかしいですよ。それにお客様もいますし・・・」

「あらあらそうだったわね」

「うふふ。その気持ちわかります」

「あら、貴方とは気が合いそうね」

どうやら女性陣は女性陣で何やら仲良くなっている。

「うむ。こちらの方はヒンメルン王国の第一王女フランソワ王女だ。お前が城の中を案内してやるといい」

「わかりましたわ」

そう言ってエルドラとフランは仲良く城の中に入っていた。

「アル。すまないがトーマス殿を客室に案内してくれないか?」

「わかりました」

アルはトーマスを連れて城の中に入る。

「アルフレッド様が直々に案内してくれるとは・・・」

「いえ。うちは小国ですからね。城内の人員も最低限しかいないんですよ」

「そうですか・・・」

これはアルが生まれたときからそうだった。

島国であるがために閉鎖的で見栄をはる必要がなかったというのもあるのだろう。

使用人を雇うのにもお金がかかる。

そして、そのための財源は税金だ。

見栄のためだけに税金を投入する余裕がなかったという現実的な問題もある。

そして、実際に暮らしている自分達がこの環境で満足していた。

今後のことを考えれば人員はもう少し確保したほうがいいのかもしれない。




アルは普段は使われない部屋にトーマスを案内する。

部屋の中はしっかりと掃除がされていて問題ないようだ。

「何か困ったことがあったら気軽に言ってください」

「お世話になります」

「食事の時間になったら呼びにきますね」

「はい」

慣れない船旅で疲れているだろう。

アルは早々に部屋を出て自室に戻ろうとした。

だが、お茶会を開いていたエルドラとフランに捕まりお茶会に強制参加させられていた。

そして、前の席は空いているのにエルドラとフランに挟まれる形で座らされていた。

「あの・・・?」

「なにかしら?」

「いえ・・・。なんでもないです・・・」

アルとしては大人しくしている以外に選択肢がなかった。

結局、上機嫌な2人に解放されたのは夕食の時間だった。

「アル・・・?何かあったのか?」

マーカスは心配そうにそう声をかけてくれる。

「大丈夫です。少々予想外なことがあっただけですから」

「そうか・・・?」

二人に玩具にされていたとは恥ずかしくて言えなかった。

自分の犠牲で上手くいくなら安いものである。

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