第7話 兄から最愛の妹へ . 1
「ん? だが、ちょっと待て。覇王、お前に妹がいたなんて話聞いてないぞ。お前ほどの強者、弱点となりうるものを無理やり作らされることも多いが、隠し通していたのか」
「そうね。あの時はワタシも若かったからいろいろしてたけど、弱点となる親族家族はワタシにはもういなかったわよ。11歳になる前には両親は流行り病で死に、祖父母は老衰でなくなったわ。兄弟はいなかったし、育ててくれる人もいなかった。知ってる? ワタシ、『覇王』と呼ばれる前は、町では『狂犬』って呼ばれていたのよ。一日の食事を求め争い奪い、力がすべてのスラムで頭を取っていたわ。冒険者とも何度もやりあったわ。優しい人もいてね、弁当を作ってスラムで与えている人がいて。でも、そんな人にもワタシはキツく当たり、人を信じれなかったから、差し出された弁当をはたき落としたこともあったわ。でもその人は地面に落ちた弁当を拾い、毒がないことを表すように食べ始めた。その時に人を信じるってことを覚えたのかもしれないわね。それで、ワタシは『再誕の儀』の前に働きだした。スラムにはワタシを慕う子もいてね、ワタシより小さかった。上に立つ者として付いてきてくれる子をしっかり育ててあげたい、って。でも、子供一人では一日分の路銀を集めるのも精一杯。そんな時にまた弁当をくれる人がやってきたわ。おばあさんとおじいさん、ん、おじいさんより、じいさん、ばあさんって呼んでたかしら。その二人がワタシたちスラムの子供を育ててくれたわ。毎日の食事を与え、一人でも生きていけるように戦い方と勉学、お金の価値、物の価値、料理、そして魔法。
二人は大きな屋敷に二人で暮らしていたわ。何をしてる人か知らないし、名前も知らないから本当になんで、どこからそんなお金があったのかわからない。でもワタシは5年間、あの人たちに育ててもらったわ。その年にワタシは『再誕の儀』を受け、冒険者になり、旅を始めたわ」
「いい育ての親だったんだな、その二人は。『狂犬』の名が似合わな過ぎて笑えるほどだ。それで? 勇者とはどう繋がるんだ?」
「ええ。まだ続くわ。ワタシは旅に出る前にじいさんに一冊の分厚い本を預かった。何重にも金属の鎖がされている本を。不思議にも思ったし、荷が重くもなる原因だった。そして、ばあさんからは一振りの剣と魔術発動用のこの指輪をもらった。じいさんの本が『預かった』のは正式にじいさんがくれたものじゃないからだ。じいさんは『儂の遺品じゃ、お主が預かってくれ』と渡してきたんだ。親であるじいさんの頼みだし、ばあさんの贈り物だし、持っていかないわけにはいかない。三つの贈り物を持って旅に出て、一カ月がたった時、突然じいさんの本が光りだして、鎖が切れてしまった。何が起きるのか慌てたが、一人の男が目の前に現れた。突然のことで剣先を向けてしまったが、気づいたんだ。目の前に現れた男がじいさんの面影を感じるのを。じいさんはその本を『遺品』と言った。瞬時に悟ったよ、じいさんが死んだということを。そして男は泣くワタシを見て言ったんだ。『大丈夫、勇者の意思は消えないわ。あなたが継いで、そこからも続くんだから』。じいさんは勇者だったんだ。先代の魔王を倒し、世界に平和をもたらしてくれた大英雄。現れた男は変なしゃべり方だったけど、じいさんと同じように俺に稽古をつけてくれた。2年、いろいろな場所を旅し、魔物を倒し、冒険の書を更新し、勇者が『最後の試練』と言って消えたあの日。ワタシは『覇王』と呼ばれることになったわ。そして、勇者が消えた場所にじいさんから預かった本が落ちていたわ。鎖がまた巻かれていたけど、なぜか本を開かなければならない気がして、ワタシのすべての力で鎖をちぎり、本を開けたわ。そしたら、目の前に5歳ほどの少女が現れたの」
「……もしや、それが?」
「ええ、ワタシの最愛の妹のエレンちゃんよ」
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