第5話 お兄ちゃん、魔族が恐れる快進撃 . 3


 一階はなんかバカ騒ぎしてうるさいが、それを横目に受付嬢と若いギルマスと地下に下りてゆく。

 

 長めの階段を下りたあと、こちらも重厚な扉が現れる。

 

 少し空間の温度が下がり、肌がピリつくような感じがする。


「ねぇえ、ここって表よりも空間魔力が多いのかしら」

「ええ、正解です。さすがは『覇王』様。ここはお預かりした素材が痛まないように空間魔力が高くなるように作られているのです。寒く感じることもありますが、実際に温度も冷やしております。生の素材も多くありますので、できるだけ腐らず品質を落とさず価値をそのままに保存するような仕組みとなっています」

「おう、魔族の特殊部位も体の一部だからな、魔力濃度を上げないと腐っちまう。もしも少ない場所に放置しちまうと、すぐにボロけて塵になっちまってな、使えるもんも使えなくなっちまう」


「ふぅん、ちゃんと工夫してあるのね」


 扉を軽くギルマスが開けて中に入る。

 中はどうとない、大きめの作業部屋のようだ。

 端には作業道具がおいてあり、一番奥に鍛冶場が別の部屋に作られている。

 真ん中は空いており、おそらくそこに大きめの魔物を置くのだろう。

 作業が得意で空間魔力もなんのそのなドワーフの従業員が多い。

 体は小柄だが、体からあふれるような筋肉を服の上から見せつけている。

 

「おう!! ガルド!! 『覇王』の担当してやれ!!」


 あら、懐かしい名前。


ドタドタドタドタドタ!!!!!!!!!!


 赤色の筋肉が走ってくる。

 空間は少し肌寒いのに、こいつが来ると一気に熱く感じる。


「おう!! おんどりゃあ!! 今までどこほっついとったんじゃ!!! こりゃあ!!」


 涙が滝のように流れてるわ。


「もう、ガルドったら、前にも言ったわよ、うるさいと」

「第一声がそれか!! こっちわなぁ!! お前が消えた後の処理を丸投げされたんやぞ!! お前の狩ってきた『炎獄竜王・グシャノバルド』の素材を分解するのに何年かかったと思っとるんじゃ、ボケェ!!」

「迷惑かけたわね」

「あとなんじゃ!! そのじゃべり方は!! 先代勇者みたいで気持ち悪いわ!!」

「あら、私の師匠をバカにしないでもらえる? 先代勇者はいないけど、ワタシの口調は意思の引継ぎよ、自慢なんだから」

「くっ!! もういいわ!! はよう素材よこさんかい!!」

「ふふっ、せっかちね」


「ギルマス、ガルドさんって泣くんですね。男が泣くのは恥ってお仲間さんに教えてられましたけど」

「おう、そんだけ旧友が心配だったってことだ。10年来の再会だ、積もる話もあるだろ。おれらは上にあがるか」


「で、今回はなんの素材じゃ」

「ん~、ここにあなたがいると思わなかったからここに来る道で会ったモノしかないわよ。あなたがいるならもうちょっと張り切って加工しづらい素材集めたのに」

「ほう、雷麒麟に双刃イタチ、グーロ、オルトロス、フレースヴェルグ、怪塵鳥、刺突鉄蜂、花毒姫アルラウネ、こいつちょっと燃えとるな。で、上級魔族3に低級が10か、集落でも作っとったんか?」

「群れてはいたわね、焚火してたわ」

「むぅ、基本魔族はそれぞれ別に生きとるからな、やはり魔王は誕生しとるみたいじゃ」

「レッドエンドウォールを越えてくる魔族は多いの?」

「いや、魔王が生まれる前より格段に減っとるわ、おっ、こいつの腕は武器に最適やな。おっ、こいつは足が硬いの。しかし、低級の比率は増えとるわ。よっしゃ!! 良い武器が思いついたわ!! おい!!! 仕事始めるぞ!!!」


『『『『おおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!』』』』


 ガルドに熱が入った。こうなったらテコでも動かないわね。

 邪魔しちゃ悪いわ、私も上に上がりましょう。




「戻ったわ」

「おう、ガルドとは話せたか」

「ええ、変わってなかったわ」

「ドワーフは人間の倍は生きるからな、精神が変わることは少ないだろう」

「ええ、それでガルドから現在の状況は聞いたわ。上級魔族は減ってるが低級魔族は増えてるって」

「ああ、魔王が誕生したという前兆は1カ月前からあった。数日だけ魔族の目撃情報が0になり、そのあとの魔族の目撃情報は低級の魔族が増えだした。それも個体で生きるあいつらが群れとなって見られている。恐れく人界の偵察だと考えられる」

「ええ」

「だが、一週間ほど前から目撃情報の位置が魔界側に後退してきているんだが」

「……ちょっと派手にやりすぎたみたいね」

「いや、いいことだからいいんだが、いまだ『覇王』は健在か」


「じゃあ、これからも倒してくるわ。お金が必要だからね」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る