第2話 お兄ちゃん、家で一人ボッチになる


 翌日。

 この街の教会支部からお迎えが来た。来てしまった。

 今の街から山を越えた先に王都があり、そこに教会本部がある。

 片道2週間かけ王都まで行き、そこからまた5日後に任命式があるらしい。

 お兄ちゃんは行けないみたいです、(´Д⊂グスン

 

 エレンちゃんは綺麗で高性能な馬車で移動するみたいだけど、二週間の長旅で疲れると思うから、疲労軽減のブレスレットと疲労回復のネックレス、そして眠瞼羊スリープシープの毛をふんだんに使った高級クッションと毛布、体温調整のできる羊毛(角付き)パジャマ、普段エレンちゃんが使っている安眠枕と目元を自動で温めるアイマスク、エレンちゃんの好きなカモミールの香りのアロマオイルを異空間袋(高性能)に入れて渡す。

 これで旅の疲れも取れるといいけど、不安で夜も寝れなくなりそう(お兄ちゃんが)。

 夜は恐ろしいからコッソリ奥底に二重に袋に入れたお兄ちゃん特製『悪意反応器』も入れた。


 一週間分のお弁当も別の異空間袋(空間時間停止機能付き)に入れて渡す。

 装備は丸ごと収納&一括装備可能な指輪を作り装着させる。


「エレンちゃん、準備は大丈夫?」

「はい。にい様が過保護なせいで王都までは安心して過ごせます」

「……そう。嫌になったらすぐ戻ってきてもいいからね」

「はい。ですが、わたしは勇者ですので最後まで人類のために戦います」

「……。エレンちゃんは優しい子ね」

「んふ。ええ、優しいにい様の妹ですので」

「あら、嬉しいわ。……エレンちゃん、これからの旅は時にきつく、時に大変で精神んも身体も疲れることが多くなるわ。休めるときに休み、自分の体を大切にしなさい。これは兄としてのお願いよ」

「はい、にい様。少し、長い間、一人分家を空けることになりますが、にい様もお体を気を付けて過ごしてください。妹のお願いです」

「ええ、ええ。わかったわ」


「それでは、にい様。いってきます」

「ええ、いってらっしゃい」



 エレンちゃんの乗った馬車がどんどん離れていく。

 引き止めちゃダメ。

 あの子が決めたことよ、尊重してあげなくちゃ。

 馬車は遠くへと見えなくなっていく。


 引き止めはしないけど、最後にお見送りは盛大にしなくちゃ。


 盛大に。


「我、乞い示す。我が思い、我が最愛の妹を送る。この世のすばらしさ、美しさを忘れぬよう、思いを込める。人の思い、世界の思いに、押しつぶされぬよう、思いを込める。我が灼熱なる思いは紅蓮に人類の栄華を示す。七色の花は最愛たる思い。空を照らすは我が願い。混沌たる世へ進む最愛への道しるべとなるよう、思いを咲かす。

道を照らせ『七色に輝き導く最愛に送る花火セブンライト・ファイアワークス





~~~~~~~~~~~~~~


 にい様のいる我が家からだいぶ離れた。

 もう家は見えない。

 にい様に見栄をはったけど、少し寂しくなる。

 にい様が悲しんで死んでしまわないだろうか。

 急ぎの出になってしまったけど、にい様は一週間三食分のお弁当を作ってくれた。

 わたしの体を案じて高級なものをたくさん用意してくれた。

 お礼が言い足りてない。

 やっぱりにい様と離れるのは寂しい。

 今になって視界が滲んできた。


 サアァァ……………


「……ん?」


 馬車の窓から見える空がお昼の時間なのに暗くなった。


 ヒュンンン……………


 外の護衛してくれる教会騎士の動きも慌ただしい。

(なんだ!! なにが起きた!!)

(わかりません!! 突如、空が暗く!!)

(わからんが警戒態勢!!)

(警戒!!)


ド、バアァァァァァァァン!!!!!


「わァ……」


 突如暗くなった空に一条の光が緩やかに昇り、爆ぜた。


 赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の七色に光る特大な花火。


 胸で芽生えた兄と離れることへの不安と寂しさ。それが一気に晴らされた。

 最愛の兄によって。

 自分の決意を兄に背中を押してもらった。

 もう寂しさなんてない。

 もう不安なんてない。

 

 自分はやるべきことをやるだけだ。


(警戒態勢を解除するな!! 敵がいつ攻めてくるかわからんぞ!!)

(警戒態勢維持!!)


まずは


「騎士様がた、大丈夫です」


「勇者様、まだ外に出られては危険です!! 中にお戻り下さい!!」

「勇者様、馬車の中へ!!」


「大丈夫なのです、騎士様がた」

「なにを」


「あれは兄です。兄が私を見送ってくれているのです。素晴らしい花火でしょう」

「まさか」「そんな」「大きい」「綺麗だ」


「素晴らしい魔法ですな、勇者様の兄上の魔法は」


「ええ、私の最愛の兄ですもの。騎士様がた、改めて道中、よろしくお願いします」

「「「「「はっ!!!!!!」」」」」」




~~~~~~~~~~~~~


 いっちゃった。

 家に一人。

 二人でも十分な広さの家を建てたが、一人になると静かで、なぜか暗く、寂しく感じる。


 エレンちゃんは『勇者』といえど、一人の少女。ある程度は戦えるように育てたが魔族が相手となると。

 ならまずは王都で特訓と勉学を学ぶことになるでしょう。これに最低でも4年。

 それでも、上級の魔族を倒せるかは不明。

 

 ……無事に帰ってこれるかも、不明。


「そんなこと考えても切りがないわ」


 どうしたらエレンちゃんが無事に帰ってこれるか。



「それなら……」


「わたしが『魔王』をエレンちゃんより先に倒してしまえば問題ないわね!!」


 エレンちゃんも早く帰ってこれるし、『魔王』が倒されれば『勇者』のジョブも消えるでしょう。

 そうすれば、エレンちゃんはわたしと一緒にここで住めるわ。

 わたしがお金は稼げばいいし、エレンちゃんは家から出ないようにすれば不安もないわ!!


 

 さあ、それでは魔族を倒しに修行がてら、わたしも旅に出ようかしら!!


 

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