第17話村上武吉の決断

晴通が海路を制するためには、村上海賊の協力が不可欠であった。村上武吉は、能島村上海賊の当主としてその力を示していた。なので晴通が大内氏に対抗するためには、村上武吉の協力が不可欠であった。




能島村上家、武吉の館


夜も更け、月明かりが静かに波間を照らしていた。村上武吉は一人で館の縁側に座り、海を見つめながら考え込んでいた。河野家からの提案は魅力的だったが、能島村上家は来島村上家と違い独立性を失うことに対する不安が大きかった。




武吉は河野晴通が示した新型の小早と農地は漁村がメインの我々には喉から手が出る程に欲しいものだそれをポンと出す器量もだがそれだけ能島の力を買っているという事にもなる、彼の未来を見据えた波止浜の開発計画にも感銘を受けていた。成功すれば大いに賑わい波止浜が第二に堺になる可能性すら秘めている、そうなれば能島水軍の役割は重要という事になる。ただそれだけで決断するには重すぎる問題だった。まだ開発は始まったばかりなのだから波止浜が成功するか失敗するか分からない状態だが成功してからでは遅い。波に乗り遅れてしまう。決断するなら今が一番いい時期だろう、やれる仕事も増えるし開発中の防衛力として安心できるからというのも理解できる…だが




「河野家に従えば、確かに我が家の安全は保障され、しかも甘い蜜を吸う事もできるだろう。しかし、それで我らの誇りはどうなる?」




武吉は自問自答を繰り返した。村上海賊の誇り高き歴史を背負う自分にとって、河野家の傘下に入ることは一抹の抵抗を感じさせた。しかし、現実を考えれば、河野家との協力は避けられない道かもしれない。最悪、実力行使に出られたら対抗できないのが現状だ。能島を滅ぼし来島なりに領地を与えておけば海上での治安には問題は無いのだから。


「小早改か……確かにあれは強力な武器だ。しかし、それを持つことが我らの自由を奪うことになるのか?」


武吉は自問自答しながら月を眺めていた








決断に迷った武吉は、信頼する相談役であり、幼い頃からの友である村上隆重を呼び寄せた。隆重は、武吉の心の内を理解し、的確な助言を与えてくれる人物であった。




「隆重、急に呼び出してすまない。」




「いえ、武吉様のためならいつでも駆けつけます。河野家との事ですかな?」




「まさにその事で悩んでおる。来島の様に家臣になったはいいが冷遇される危険性も考えれば今の独立した勢力を保つ手段が欲しい。だが波止浜の開発が上手く言ったら河野家は我々に従属を要求してくるだろう。そして従わなかったら滅ぼされるだけだ。ならば来島の様に従えばいいのかとも思えてくるがそれは能島村上海賊としての誇りが許さぬ…という具合で困っておる」




「武吉様、確かに河野家との協力は一大事です。しかし、それを拒むことが能島村上家の未来にとって本当に良いことなのでしょうか?」


「誇りを捨てよと申すか?」


武吉は隆重からそのような意見が出るとはまさか思ってなかった為、驚いた。


「いえ。誇りを捨てる必要はございませんお互いに良き塩梅で交渉はまとめればよろしいのです。相手の要求を入れるか入れないかだけで判断しては視野が狭くなってしまいますぞ。お互いに歩み寄れる妥協点を探してみてはいかがでしょう?」




隆重は静かに言葉を続けた。




「河野晴通殿は我々の力を認め、家臣として召し抱えようとしておりますが本心からとは思えません。本当に家臣に召し抱えるなら役職などもつけてきているはずです。それがないということは共に未来を切り拓こうというのではないでしょうか?これは単なる従属ではなく、対等な協力関係を築くチャンスだと思います。小早改の技術も、我々の力を一層強固にするものです。なので従属ではなく同盟として提案されてはいかがでしょう?」




「ふむ、それなら我々の独立性は保たれたうえで河野家とも協力体制は取れるな。ただ一部の税収を河野家に納めなくてならなくなるがその為の田畑なのだろう。そう考えれば納得がいくというもの」




「確かに、それは一抹の不安を感じさせます。しかし、晴通殿を見る限り一度は牙を向けた来島家を重用する辺り冷遇される心配は無いかと思います。我々の誇りを失うことなく共に歩むことができるでしょう。重要なのは、私たち自身がどのようにその関係を築いていくかです。」




武吉は深くうなずいた。隆重の言葉は的を射ており、彼の心に響いた。




「分かった。河野家との協力を基本的に受け入れよう。ただし従属ではなく同盟としてな。我々の誇りを失わず、対等な関係を築くことを条件にする。」




「その決断、私も支持します。共に未来を切り拓きましょう、武吉様。」




武吉は決意を固め、隆重と共に未来の戦略を練り始めた。能島村上家と河野家の協力は、これからの戦乱の世を生き抜くための大きな一歩となるだろう。





翌朝、武吉は来島通康に返事を伝えるため、早朝から動き始めた。能島村上海賊の新たな船出が、静かに幕を開けようとしていた。大きな変革をもたらすことだろう。




来島城


「急な来訪申し訳ない。今話している事の結論が出たので至急知らせに来てしまった」


武吉は通された部屋で通康に会うなり頭を下げる


「いえ。私も重要な用件ですので早い方が助かります。それで能島水軍として結論は出ましたか?」


「ああ。我々は従属は出来ないが同盟なら可能だ。それで手を打ってもらいたい」


「分かりました。それで大丈夫ですよ武吉殿」


余りにあっさりと言うので狸に化かされてるのではないかと思ってしまう。そんな武吉を見て通康は種明かしをする。


「実は殿からは友好的な条約であれば構わないと仰せつかっています。ですので我等としては同盟なら十分な成果なのです」


「なるほど初めから従属は無理だと踏んでいたのですね」


武吉は力がふっと抜けるのを感じた。これで協力関係を気付いつつ海賊としての誇りも保てるという事が分かり安心したのだ。


「波止浜の開発計画も同盟内の話なので軍事条約と違って色々とやってもらう事になりますがよろしくお願いします。勿論それでも受けた一部は河野家にも分配していただく事になります」








湯築城、会議の間


能島村上家との同盟が正式に締結され、湯築城ではその報告を受けた晴通、友直、盛国の3人が集まっていた。彼らは武吉との同盟がもたらすであろう未来に期待を膨らませていた。




「これで、我らの海軍力は一層強固なものとなる。村上武吉が加われば、大内や毛利に対しても牽制できるだろう。」


晴通は満足そうに言った。


「そうですね。武吉殿の知略と武勇は、我々にとって大きな戦力です。これで伊予の海はますます安全になるでしょう。」


友直も笑顔で答えた。


「ええ、そしてこれを機に、さらなる発展を遂げることができます。農業技術の向上や交易の促進にも武吉殿の協力が得られれば、経済的な基盤も強化されるでしょう。」


盛国も嬉しそうに付け加えた。


同盟の祝い


晴通は立ち上がり、二人に向かって提案した。「さて、この吉報を祝うために、ささやかな宴を開こうではないか。今日の成果を皆で喜び合おう。」




友直と盛国も賛成し、すぐに宴の準備が進められた


「今日は我らが新たな同盟を祝う日だ。能島村上家との同盟により、我らの力は一層強固なものとなった。これからも共に力を合わせ、伊予の地を守り抜こう!」


晴通は高らかに宣言した。


「乾杯!」友直と盛国も声を合わせ、杯を掲げた。




未来への展望


宴が進む中、晴通、友直、盛国の3人は今後の展望について語り合った。




「武吉殿との同盟が実現した今、次に目指すべきは宇都宮領の平定かもしれませんな。」


友直が提案する。


「確かに。だが、その前に内部を固め、兵の訓練を怠らず、万全の体制を整える必要があります。」


盛国が慎重に答えた。




「そうだな。我々の力を最大限に発揮するためには、内政と軍備の両面での準備が不可欠だ。だが、今日の同盟がその第一歩となったことを忘れず、着実に進めていこう。」


晴通は二人の意見をまとめた。


喜びと決意


三人は、それぞれの杯を再び掲げ、未来への決意を新たにした。


「これからも共に力を合わせ、伊予の地を守り抜こう。そして、我らが築く未来のために、全力を尽くそう!」晴通が声を張り上げた。


「「おお!」」友直と盛国も力強く応じた。


こうして、武吉との同盟を喜ぶ三人は、さらなる発展と繁栄を目指して、新たな決意を胸に抱いた。伊予の地には、新たな希望が満ち溢れていた。

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