第9話最初の火縄銃

1546年3月




「ついに完成しました!殿これを見てください。」


不意に友直が湯築城までやってきたのだ。


「これは?連弩というやつか?」


「はっ。その通りでございます。ただこれは太い1本の矢を放つための物でしてその威力や鎧ごと貫かんばかりですので見てください。」


と言うやいなや庭で4男の直昌が準備していた。相変わらず色々と使われているようだ。


そして放つと板を3枚抜き4枚目まで刺さっているのだ。なんという威力だろうか。ただ・・・。


「これから鉄砲や大砲の時代になるのに連弩・・・か?やっていけるのか?」


「殿?現状では1丁も手に入らぬ物よりも少しでも戦力の増強に繋がるものが大事なのです。


いくら火薬の精製が上手く行きそうとはいえこの四国では時間をかけて最大でも2000丁も集まればよい方で1回300丁も売ってもらえれば良いというのが清月の見立てですので、それを埋める為のものは必ず必要になります。ですので無駄にはなりません。」


「友直がそう判断したならそうなのだろう。分かった量産してくれただそれは山では使いにくそうだな?」


「はい、その通りです。ですので主に城での守勢時や関船に付けようかと思います。」


「海で使うのか?揺れながらでは命中精度は当てになるのか?」


「流石に鍛錬は必要になるかと思いますので忽那氏でお願いしようかと思います。まだ村上海賊に武装を渡すのは厳島の合戦後にしようかと思います。毛利に手の内を晒したくはないので。」


「そうだな、わざわざ見せてやる必要はないな。」


村上海賊の戦い方は小早を主軸にした戦いで瀬戸内海の荒波を渡り敵へと肉薄するというものであって今の晴通や友直が考えているのは大砲を1丁、積んだ関船なのだ。後は棒火矢による面制圧や合間に連弩を使った火矢などで対処する予定だ。


あと相手を沈める為にラムを付けた関船も数隻製造されている、これは二神氏に渡されて日夜、相手の舟を沈める為の訓練を行っている。


ただ防御面での不安があるのは薄く伸ばした銅板を船体に上手く貼り付ける事だ。薄いので大砲には無力だが火矢を抑える程度の事はできるし維持するのにも藤壺などが付きにくくなるので楽になるのだ。


「ええ、貨幣も各地の物を取り揃えないといけませんしあまり使いすぎることは出来ません。」


「貨幣?・・・何か忘れているような?」


「殿?」


「そうだ!度量衡を統一しようと考えていたんだ。」


「確かに、未来では統一された貨幣・長さ・重さ・体積でしたな」


そう思ったら忘れないうちに垣生盛周を翌日に来るように使いを出した。








翌日


盛周と盛国がやってきた。


「盛周よ奉行職として長く担ってきた垣生氏にやってもらいたい事がある。度量衡の統一だ。すべてにおいて温泉郡の物を使うようにしてくれ。」


「はっ!ですが急ですが何か不都合がありましたでしょうか?」


「うむ。越智郡の貨幣では高く売りつけたりまた収める税も本当の意味で統一されてないと、おかしい下手したら安い税のところに移住とまでは行かなくともありもしない田をでっち上げ安くすましている奴もおるかもしれん。そういう意味では検地も改めてやる必要があるな。」


「はっ!畏まりました。農民から不満が出ますがよろしいですか?」


「払うべきものを払ってなかったのを今まで見逃していたのを正すのだ納得してもらうしかないな。」


「分かりました。」


こうして垣生盛周はぶ もりちか主導のもと度量衡と検地が同時に行われ始めた。


ただ税が軽くなる者もいるので収入として直接的には効果は少ないが河野家の領地内での統一は商人にとって有難いもので、より人が集まるようになるが両替の都合上1年の歳月がかかった。


そして税で収めた米を今までは蔵に入れていたが一部地下室を作り保存するようにした。


生鮮食品の米なので少しでも冷暗所が良いとの事を盛国に指摘されての改善案なのだ。


知恵があっても上手く使いこなせてないこともあり気づいた時にはもっと早く取り組んでいればよかったと思う事もあるのだが仕方ない。この大きな変化についてきてくれる者達の為にも挑戦するしかないのだから。






シイタケが少量ながら栽培に成功したおかげで火縄銃を2丁手に入れることもできた。これを重見通継と大野友直に1丁づつ渡し火縄銃に慣れて行ってもらう事にした。


「二人ともよく来てくれた。」


「「はっ!」」


「この火縄銃に関して直だがこれは素晴らしい物だこれからの時代この火縄銃が主力の合戦へと移っていくことだろう、だからこそ大野・重見の両氏でこの火縄銃に慣れておいて欲しい。毎年、買うにあたって二人を中心に集めて行こうと思う目標は500丁づつの合わせて1000丁を考えておる。これもシイタケの栽培に成功した大野氏のお陰、礼をいう。」


「勿体無いお言葉、ありがとうございます。」


「また鍛錬に必要な火薬は心配するな十分に用意しておる。日本一の鉄砲集団になろうぞ!」


友直と盛国が集めてくれた火薬だけどね。あと鉄砲集団は結構、本気だったりする。


その気持ちが伝わったのか二人とも真面目な顔で答えてくれた。


「「はっ!!」」


「また鍛錬するにあたって定期的に交換しないと脆い部分なども確認しておきそれを領内で賄えるようにして欲しい。頼んだぞ!」


「「畏まりました!!」」






重見が帰り友直が部屋に戻ってきた。


「殿、お疲れ様です。」


「おお疲れたから成果を期待してるぞ。」


「はっ、お任せを。」


と答えると晴通の前に座る。


「重見は扱えると思うか?」


「こればかりは初めての事ですし長い目で見る必要があるかと。ただ重見氏もやる気はあるのでしょうかなりの意気込みようでしたので私は期待しても良いかと思います。」


「お前が言うのなら安心だな。」


「有難き言葉。」


「して、もう一つの火縄銃だがこれをどうするのだ?」


「職人に分解させ構造を理解したら青銅砲を作ろうかと思います。」


「青銅なら鉄より入手しやすいし加工もしやすいらしいな?」


「はい。ですので銅なら売るほどあるので上手く量産を出来れば青銅砲を主力に出来るかもしれません。」


「分かった研究を頼む。ちなみに誰に任すのだ?」


「直昌には硝石を任しているので津々喜谷殿にお願いしようと思います。」


「分かった覚えておこう。」








1546年7月




ではこの麦で試してみます。


木の板に足を乗せて右足を踏み込むと左側の板が上がってくる。


左足で左側の板を踏み込めば右側の板が上がってくる。


それに繋がっているドラムは踏み込むたびに回転していく。


少しづつ早く交互に踏み込んでいくとドラムはそれに合わせて早く回りだす。


そのドラムに麦を当てればガーっと音がして下に麦が落ちていく。


その様子を見つめる3人は一斉に声を上げた。


盛国「やったー!」


カナ「おめでとうございます。」


邦三郎「おめでとうございます。坊ちゃん」


垣生盛国は邦三郎とカナの3人で喜びを分かち合っていた


ついに脱穀機が出来上がったのだ。


千歯扱ぎを発展させたものでより効率よく脱穀できる。足踏み式脱穀機だ。これは動力を使ってないので今の戦国の世でも再現できると思って試行錯誤してつくられたもので。


盛国の知恵の中に答えはあるが製作手順が抜けていたため時間が掛かったのだ。


構造は簡単で前に立った作業員が足踏板を上下に動かしその動きをスポークに変えドラムの回転運動に変えるのだ。


ドラムには逆部位の字に針金を埋め込んで置きドラムが回転する時に稲や麦を上に置くと、針金によって身がこそぎ落とされていくので千歯扱ぎのようにギリギリの幅にしなくても大丈夫なのである。


これを大量生産しても既存の千歯扱ぎもあるし持て余すだろうから村に1つ置いていれば十分だろう。


だがそれでも農業の効率化が進めばその分を違う事に回せるのだから大事な事だ。


この出来上がった試作品と設計図を友直に送れば盛国の仕事は一つ終わったことになる今年の借り入れまでに生産は間に合えばいいのだがそれは友直しだいなので祈っておく。


そして完成を祝って3人は軽い宴をするために今出いまず村でタコ飯を食べながら酒を嗜む。


邦三郎「流石は今出のタコ、弾力があり旨いですな。」


盛国「本当ですね。流石は名産品のタコですね。美味しいです。」


「ありがとうございます。村の物がお口に合い安心しました。」


カナ「盛国様どうぞ。」


と酌をする。


盛国「ありがとう。・・・カナさん実は伝えたい事がある。」


邦三郎「・・・」ニヤニヤ


カナ「はい。何でしょう?」


と言いつつもカナの顔は期待に満ち溢れている。


盛国「嫁に来て欲しい!もちろん父上にも許可を貰っている。」


カナ「はい、喜んで。」


邦三郎「良きかな良きかな!今日は誠に目出度い日ですな。盛国様おめでとうございます。」


盛国「ありがとう邦三郎さん。これからは今まで以上に頑張るよ。」


そしてその日は大いに盛り上がった。


翌日


盛周「事前に相談もあったことゆえ特に言う事はない。伊予絣の功労者ならば村娘でも周りに対して下に扱われることも少ないだろう。ただ多少は軋轢が生まれるだろうが、それを二人で超えていくのだ。」


盛国「はい。」


盛周「カナさん息子の事を頼む。」


カナ「はい。」




湯築城


盛国「殿、カナと夫婦になれました。」


晴通「そうか!おめでとう!これからは二人で河野家を支えてくれ。頼むぞ。」


友直「盛国、おめでとう。何かあれば相談に乗るから困ったらいつでも訪ねてくれ。」


盛国「ありがとうございます。あと清月の事ですが中山栗も販売してよろしいので?」


晴通「よい。なかなかの出来であった、試食もしたが甘味もあり確かにうまかった。あれも良い商品になるだろう。それにしてもスグに仕事の話とはもう少し惚気ても良いのだぞ?」


盛国「ご・ご冗談を」


と慌てふためく盛国をしばらく友直と二人で揶揄って遊んだ。






ちなみに現在清月が売っているものは


・盛国米


・砥部焼


・中山栗(new)


・伊予絣


・菊間瓦


・青石のお守り


・楠の木炭


買い集めているもの


・硫黄


・鉄


・香川土(菊間瓦用)


・鉄砲


・青銅


・錫


が主だったものだが鉄の買い付けは鉄製の農機具を製作してくれているので年々、効率が上がっている。


しかも清月のもう一つの役目の情報機関としてだが行商人やお遍路さんになって四国内の情報を集めるべく動いているとの事で伊予領内は十分に情報網が確立されているらしい。


諜報機関としても商人としても立派なものだ。


その清月を使い情報収集しつつも農法・農具での成功もある垣生氏とシイタケの栽培、火薬の精製や連弩の開発などの軍備に対する進展が多い大野氏と二人並べて「晴通の2本刀」と呼ばれ始める。




その事が気に入らない者が居た。久米郡岩伽羅館主の和田道興わだ みちおきである

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