第6話佐礼谷の戦い

曽根が動いたか・・・。




お互いに陣を築きにらみ合いとなって数刻、動く気配が無い曽根を見て安堵する友直であった。


数こそお互いに300ほどであったが大野は連戦で先の戦いで軽傷者にも出てきてもらっていることもあり下手に動けないからであった。


お互いが時間稼ぎの為にいるとは知る事もなかった。




津々喜谷延行つつきたに のべゆきが友直のもとにきて呟く。


「このまま何事も無ければよいのですが」


「まことに」








「今度の河野家の当主は兵法を知らぬのか?」


宇都宮豊綱うつのみや とよつなは目の前の光景に唖然とした。


日が傾き夕日に照らされる目の前の河野の陣は見るに500ほどが良いところだろう。森に伏兵がいたとしても双海にも兵を割いているのだから100も居れば良いとこだろう。


「兵力の分散とは愚かですな。これなら伏兵がいても100ほどでしょう勝ちましたな。」


水沼は笑顔できた。


「念の為、行き交う者にも話を聞いたのですが、やはりあれで全部のようで他に兵は見ていないそうです。」


と祖母井もやってきた。


宇都宮軍の全員が思った「勝てる」と。




「向こうはもう勝った気でいるのか騒がしいな」


晴通は呆れた様に言うと平岡も続いていう。


「そのようですな。油断してくれるというのは有難いことです。。」


確かにパッと見では1000対500だが伏兵300に虎の子の炮烙玉も使うのだ油断して真正面からくれば簡単にひっくり返るだろう差でしかないことに気づかないのは策が上手くいっているという事なのだが。


「思ったより宇都宮の兵が多いのは困りものだが今更、作戦の変更もできん夜に二神と大野に使者をだして念の為早めに来てくれと頼んでおいてくれ。」


「はっ!」


返事をしたら足早に平岡は去っていった。




翌朝、宇都宮軍は陣に200を残し祖母井の指揮のもと1000の兵は突撃して来た。


祖母井「行け!突撃!!伏兵がいても構わぬ前へ進めぇー!!」


河野「動いたな?」


平岡「はい」


河野「相手が100mまで来たら太鼓を鳴らし手筈通りに行くぞ」


晴通は迫りくる宇都宮軍を睨みつけながら言う。


「100m来ました!!」


「太鼓!!」


と晴通が叫ぶのと同時に太鼓の「ドン!!」と言う音が何度も鳴り響き左右の山から矢と石に炮烙玉が降りそそぎパニックを起こした一部の兵士は太鼓の音なのか炮烙玉の音か分からなくなって一気に足が止まり軍は混乱状態まで陥った。


宇都宮軍は自分達は、もう勝ったと思っていたので予想以上に混乱は大きかったのだ。


「落ち着け!一時後退する!!引くのだ!!」


祖母井は何とか軍を立て直そうと必死だったが混乱が思った以上に長く立て直すのに時間がかかり立て直した時には兵は700ほどまで減らされていたのに対して河野軍は、炮烙玉こそ使ったが、700近く残っていた。しかも宇都宮は二晩しか曽根に足止めを依頼してないので、陣に残した200と合わせても900で大野と双海の軍が合流してきたら宇都宮は逃げ道すらなくなる。そう宇都宮は考えた。


「まさか予想以上に伏兵がおる上に炮烙玉まで使ってくるとはしてやられました。」


祖母井は陣まで引いて宇都宮に頭を下げた。


「うむ。ただ、これ以上は被害が大きくなるばかり・・・か。仕方ない金は諦める撤退戦だ!被害の少ない水沼が殿を務めよ。」


(宇都宮もここまでか。だが、まだ諦めぬぞ。伊予を支配する大名はこの俺だ!)


直之は1人で気づかれぬように宇都宮軍から抜けていった。


河野軍は、勢いのまま山から駆け下り一気に宇都宮を追い立てる


「今こそ勝機!突撃せよ!!」


「「「「おおぉぉぉーーー!!!!」」」」


河野軍は勢いに乗り宇都宮を喜多郡まで追い立て100の兵を打ち取った。


そして宇都宮は曽根城まで後退して河野は離れた位置で陣を敷いた。


そこに二神の部隊300が到着(村民含む)曽根も曽根城に入り大野も合流部隊200が到着し包囲していた。




豊綱はこれ以上の損害を出さないために敗北を受け入れるしかなかった。


「和睦の使者を出せ、こちらの負けだ」


条件は賠償は領地の割譲と直之の引き渡しだったが直之はどこかに姿をくらませていた。


ここに佐礼谷の戦いは河野家の圧勝で幕を閉じた。




ただ戦場で炮烙玉も使ったので戦場だった佐礼谷の平野はボロボロになっていた。


二神と双海村の人達が翌日には復興作業を始め炮烙玉の穴は埋め田畑も復興していき亡骸も埋葬していく。


その中、平岡は晴通に会いにきて礼を言った。


「この村の税を免除していただきありがとうございます。しかも冬を越すように施していただいたとか。」


「気にするな。この有様にしたのは俺なんだから当然のことだ。」


「ありがとうございます。」


「それよりこの後の話がしたい。良いか?」


「はっ!」


「友直は曽根に足止めされていたらしいな」


「はい。清月の情報によりますと何でも鉱山があるらしく大野の前で二晩、睨み合えば金がもらえるという話だったそうですが負けたせいで宇都宮は支払ってないそうです。」


「友直が言っておったが、それは使い道の分からん金に似たものだそうだ」


「なんと、それは曽根は損ですな。」


「そこで曽根を抱き込もうと思う。今回の補填を河野が行う。」


「それだけで引き込めますか?都合が悪くなれば簡単に寝返りそうですが」


「なに、盛国米をくれてやればいい」


盛国米、読んで字のごとく垣生国盛の農法で作った米である。


「何も知らないであの米を食べるともう粟など食べれなくなりますな」


と笑顔になる平岡も被害者の1人で農民に盛国の農法を学ぶように熱心に説得して廻っているらしい。


「本当は種茂にしたかったんだが使えるだろうと取って置いたのがあるのでな。そうすれば農法が浸透する数年は裏切れんだろうからそれで裏切られたら俺に魅力がなかったと諦めるから使者として頼んだぞ平岡。」


「はっ。」


そうして平岡は曽根城へと行き曽根高昌そね たかまさに会いに来ていた。


(曽根の領地はハゼの木が多いな。)


「行き違いで、この前は危うく衝突してしまうとこでしたがお互いに何もなくてよかった。」


と白々しい物言いの曽根に対して平岡は自分の領地は荒らされたので腹は立ったが堪えた。


「そうですな。曽根殿も何もなくてよかったです。」


と暗に何ももらえないで兵を二晩無駄にしたことを指摘するが、お互いに冷静を装い話を続けた。


「それで平岡殿、此度はどのような用件でしょうか?良い話とは先に聞いてはおりますが。」


「その事ですが主君の河野晴通様が今回の戦で失った食料の補填をしたいと、また今後、臣従を誓ってくれるなら金に勝るとも劣らないものを与えるとの事ですが曽根殿いかがでしょうか?」


「その金にも劣らぬものが何か分からんとまた騙され損は嫌ですよ平岡殿?」


「確かに。それはこちらの米です。1俵持ってきたので皆で一口、味わってみて欲しい」


「その米ですか?まあ味見なら致しましょう。誰かこれをスグに炊くように。」




炊かれた米を見て曽根はその粒の大きさ、艷やかな色味、食欲をそそる匂い早く食べてみたくて、たまらなくなった。


「それでは、早速いただこう。」


言うが早く一口食べれば同じ米とは思えないほどに甘味があり食感も良い。


これは確かに金にまさるとも劣らない。


「これは凄いですな。むしろ、この農法は教えていただけないだろうか?」


「主君から農法なら補填は無しなら良いと確認しておりますので曽根殿がそれで河野家への臣従を誓約書に誓ってくださるなら私が湯築城に戻りましたら入れ替わりで邦三郎なるものが農法を教えに来ることになっております。」


「河野殿はそこまで見越しておいでか。だが話が早くて助かるスグに誓約書を書いてこよう。平岡殿まだ暫く時間をいただく。」


「こちらは大丈夫ですのでよろしくお願いします。」




こうして曽根は河野家に臣従を誓った。


後書き

戦が短くない?と思った貴方!私も思ったけどこれ以上、膨らませれなかったんですm(_ _)m


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る