第3話2人目
そして10月にある人物を呼びつけた。垣生盛周の子で盛国である。
その理由は盛周の愚痴から始まった。
「清月は順調とはいえんが砥部焼をなんとか売っているようだな」
俺は盛周からの報告書に目を通しながら盛周に確認する。
「はっ!なかなか商品として売るのに手間取っていますが徐々に人脈もできてきているので軌道に乗り始めるのも時間の問題かと思われます。ただもう1品目玉になるような商品の取り扱いがあればと言っておりましたが、いかがいたしましょう」
盛周から見ても大丈夫そうなら心配ないだろう。ただ、砥部焼も今は物珍しさでそこそこ売れているが、これ一本でいつまでも売れ続けるのは難しいだろう。確かに取り扱い品を増やすことが、できれば良いのだが俺の知識の中にはスグに成果を出せそうなものがない。
「ふむ。砥部焼を主軸にもうしばらく待つように伝えておけ。二神の魚油も売るほど大量にはないからな。あと、とれた魚で売れそうなものは、おかかさんに売らしているから清月にまわすほどはない。」
「やはりそうそう上手い話はありませんか」
盛周も期待していたのか少し残念そうに肩を落とす。
「あと1・2年もあれば売れるものも一気に増えるんだがな」
米も今のやり方では違いがはっきり分かるまで、もう数年はかかるだろう。木炭も生産量はいきなり多くはならない。徐々に増やしつつ売るのがいい。西園寺領などは楠がないから良質な木炭が手に入りにくいというのがあるから行商をうまく使えば薄利だが売れるだろう。ハゼの木はまだ見つかってないからロウソクは作れてない。食糧事情が改善しないことには綿も作れん。
「やはり米がうまくいかんと始まらんな」
「米ですか?確かに収量が増えればいいですが盛国のやっていることで増えれば苦労しないのですがな」
なんだ?盛国は何か米作りで工夫をしているのか?
「どういうことだ?盛国に何か変わったことがあったのか?」
盛周はしぶしぶ語り始めた
「はっ!気でも触れたのか可笑しな事ばかりしております。1枚、田を自由にさせて欲しいと言い出したかと思うと貴重な種籾を選別して軽い物を取り除くと言い出し植える数を減らしました。その後、田は撒くのでなく植えるものだと言い出し小さな箱で種籾を育ててから植え付けておりましたが、大量に植えればいいものを隙間は作らないといけないといい見た目はきれいですが手間をかけてスカスカです。あれで収量が増えるとは思えません。やはり熱が出てから人が変わってしまったのです。石手寺に厄払いをしたのですが効果がなく程々に困っております」
かなり気をもんでいたのだろう一気にはなした盛周は溜息をつき遠い目をする。だが俺には聞き逃せない情報ばかりだ。
「盛周よ。盛国は実践しておるのか?」
「はい。あまりにも、しつこく言うので好きにやらしております」
「よしっ!」
俺は歓喜してガッツポーズをとると盛周はビックリして目を丸くしている。何が起こっているかわからないからだろう。だが俺が言葉としての知識しかないことを盛国は実践しているということになる。これなら一気に米問題を改善できる。
「盛周よ、その農法は成功するぞ。来年からは盛国の農法に切り替えることになるだろう。今からでもひろめる段取りをしておくとよい」
「殿?まことですか?あっ!いえ、殿がおっしゃるなら従いましょう」
盛周にしてみれば信じられないことだろうが信じてもらうしかない。
「盛国の言葉がまことなら、殿に報告しておくことがあります」
真剣な顔の盛周を見て俺は気を引き締めなおし話を聞くことにする。
「わかった。なんだ?」
「はっ!伊予川についてです。川底を掘り土手を高くするだけでなく伊予川をまっすぐに改修する必要があると申しておりました。そうすると氾濫だけでなく多くの新田が手に入るというのです」
ふむ。重信川としての河川の改修だな。
「俺もその通りだと思う。だが今の伊予の状況では人を割くことができんから5年は先の話になるし7年はかかるだろう。その時には今の湯築を取り壊し勝山に城でも建てるか」
俺がそう言って笑って見せれば気分が晴れたのか盛周も笑顔を見せた。
「殿もご冗談を。さすがに城がたてば大事ですぞ」
「まあ盛国しだいではあり得るということを覚えておいてくれ。盛国のコメの出来は良し悪しに関わらず報告してくれ。頼んだぞ」
シイタケが見つかれば確定なんだがな
「はっ!」
そんなやり取りの結果、盛国を呼びつけることになった。
米は収量も品質も盛国の方が上だったという。そこで出来たのを全部、来年の種籾に使うらしい。だが周りの反応は冷ややかで伝統が~とか今までのやり方でも税は収めれるし食うに困らないので相手にしない人などで好意的な意見は一部の農家と税を取る側の人間だ。
この結果からもわかるように盛国も知恵を授かったに違いないことは分かった。しかも俺の知らないものをもっているとなると他国に行かせるわけにはならない。忠誠を誓えなければ最悪、死んでもらう必要もあるだろう。
俺は自分の部屋を出て盛国を待たせている部屋に入り座る。
「盛国よ。こたびの成果は見事だった来年からは本格的にお前の方法で進めることにする。そして、その米を売るのは清月に扱わせる。よいな」
「はっ!その、殿に進言したい事がございます」
盛国は頭を下げたままいうので許すことにする
「言ってみよ」
「河川の改修をさせてください殿。」
コイツ元服してすぐだから周りからどう見られているのか、そして元服してすぐの若造に河川の改修など指名したら他の家臣がどう思うか分かってないな。
「知恵はあっても経験がないか。・・・まずは、お前のやり方を推奨する為に盛国のやり方なら収穫量が増えるという実績を作れ。そのやり方で効果が見込めるなら6公4民にしても良い。それでも税収は多少は今より上がるだろうしな。それから関所の数を減らしてその分で職が無くなる者は足軽になってもらう。関所が減って質のいい米があれば商人が喜んでやってこよう。その分の税収で兵士を賄う。だから上手くいっても河川の改修は当面は無理だ。」
「殿?申し訳ありませんが河野家は無くなります。なればこの土地を住みよくして自分の田を多く持ち後は信長でも秀吉でも家康でも誰にでも権限はくれてやってもいいと思います。」
晴通は盛国を鋭く睨みつけながら言う。
「今、お前は首を切られても、おかしくない発言をした自覚はあるか?」
そう言われて気づいた国盛は慌てて謝った。
「不吉なことを、言い申し訳ございません。」
「今回は許してやるだが次はないぞ」
「はっ。ありがとうございます」
晴通は改めて考えた。盛国の話は未来の話だ
「やはり若いな。土地の開墾もやり過ぎれば織田信長や豊臣秀吉らの目にとまり辞められなくされるぞ?しかも安く買いたたかれ社畜?だったか?のようになる。だがある程度の戦力や領地があれば交渉ができるのだ。だからこそ、この「戦国の世で」成り上がらなくてはいけないと考えている」
これは今の俺の本心だ。歴史通りの必要性も歴史通りに時も進んでないのだならば少しでも余裕があったほうが良いのだ。
河野家が火薬を買い集め過ぎれば、もしかしたら信長が負けるかもしれない。もしかしたら秀吉の大返しも我らが毛利との都合の上で邪魔をするようになるかもしれん。もしかしたら石田三成なるものが勝つかもしれん。それを見極め失敗しても巻き返し、もしくは被害を最小に出来る方法は多いほうがいいのだ。
そこまで話して盛国は気づいた。自分は織田や豊臣とは言ってないことのに殿は知っているという事を。盛国は聞かずにはいられなかった。
「殿まさか……殿も未来を体験したのですか?」
晴通は盛国の目を見てこたえる。
「ああ、俺の知らぬ知識もあるようで、お前と同じ内容では無いようだがな。だからお前の気持ちはわかるが今はその時ではないという事だ。」
そういわれては、もう盛国には言う言葉が見つからなかった。
「……分かりました。」
しょんぼりとしている盛国に晴通は声をかけることにした。
「どちらにしろ、お前の働き次第で河野家の内政面は決まるのだから頼んだぞ。」
「はっ!!」
まずは石高が上がらんことには何も始まらんから本当に頼んだぞ!
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