第2話漁業チート?
1543年7月
遅い朝食を砥部焼の器に盛られた料理を見て楽しみそして食べて楽しんでいた時に伝令が来た。
「垣生氏より報せが来ました。殿の指示されていた地引網が完成したとの事です。」
「ありがとう。なら二神氏に引き渡す準備をしておくように伝えてくれ。」
「はっ」
来島村上にもやらそうかと道宣に相談したのだが他の家臣の反感を買うので、まだ止めておいたほうが良いと進言されたので見送った。
本格的に出来るようになれば忽那氏から順次やってもらうことにする予定だ。
二神氏の二神種親を通して弥五郎に来るように伝えた。
この二神家は外から来た一族で二神島に住んでいるのだが二神さんが来たのか二神島に来たのかもう知る者はいないが立派な海賊衆で小さいながらも忽那家にも負けず劣らずなのだ。
その二神家でも若い弥五郎にやってもらいたいのは、ちょっとしたお祭り感覚なのと年も近いし昨年安堵状も出したし親近感がわいての事だ。
何故か弥五郎が父親の重親と一緒にきているのだ。別に隠し事ではなし良いのだが心配なのかね?
「種親殿も来られるとは驚きだがどうかされたか?」
「はっ!昨年は弥五郎に安堵していただいたばかりでし粗相があってはならぬと思い老婆心ながらついてきました。」
そう言うより悪だくみしないかの監視しに来たと言わんばかりの目だった。
「そうか面倒をかけたな許せ。本当に仕事と言うより宴に近いことなので若者が適任化と思ったのだ重親殿を侮っているわけではない。」
「父上の心配性にも困ったものです。それで殿、宴のような物とおっしゃいましたが、どのような物でしょうか?」
「その前に息抜きに、ひとつこれを食べてみてくれ。餅を醤油に漬け込んでみたものだ」
そういうと茶色い餅が運ばれてきた。
二人とも茶色い見た目の餅を怪しみながらも食べてみれば甘じょっぱく美味しかった。
「殿、これは美味ですな」
弥五郎は目を輝かせて言った。重親も同じ感想のようで頷いている。
「ならよかった。多めに作ったのでいくつか持ち帰るといい」
「はっ!ありがとうございます」
ウムとひと頷きし私は話始める
「それで話なのだが地引網についてだ、地引網とは網の両端に縄を付け一方を海岸で固定し、もう一方の縄と網を船に積んで沖合いに向かって船を走らせながら海に網を広げていき、そこから半円状に走りながら網を海岸に持って帰りその網を引き揚げる。と言う具合のものだ、その時にとれたものを島の者達で酒でも飲みながら食べると良い。」
そこまで話すと種親さんから疑問がでる。
「本当に宴のような物に聞こえますがこれにはどういった意図が?」
「ですね。」
と弥五郎も続く。
「最初に成功して魚がどれくらいとれるのか知りたいのだ、それで島の者達が潤うなら本格的に広めようと思う。と言うのが建前で、食べたり下処理をした残り物を農地への肥料として廻して欲しい。そこまで込みで結果しだいでは広めていこうと思う」
「魚の内臓が肥料になるのですか?」
「ああ!しかもイワシなどを使って魚の油をとることができる。その残ったものも農地の肥料になる」
「油…ですか?わかりました。何度か試してみて報告いたします。」
帰り道で二神親子は先ほど晴通からの提案について話していた。
「弥五郎よ、どう思う?」
重親は難しい顔をして弥五郎に聞いてきた。
「私は良い考えだと思います。上手くいけば収穫量も上がります。皆やる気が出るというものではないでしょうか?」
そう答えた弥五郎に重親はあきれ顔で言う。
「だが魚の下処理で出たものや貝などを納めなくてはならん。しかも、それなりの量が確保出来なかったら禁止にするという事だぞ?」
その言葉に弥五郎は驚きと疑問が残る。
「確かに父上が言われた通り下処理の量で決めるとおっしゃいましたな。そこまで重要な事なのでしょうか?」
「何故かは分からぬが殿にとっては重要と言う事だろうな」
「重要な事なら精一杯やってみます。それにしても一時は危険な状態だったと言いますが今では嘘のようですな」
「まことに人が変わったようだ」
そう話しながら親子は二神島へと帰った。
そして弥五郎が主導のもと地引網漁を開始した船で網をひっぱり半円を描き二神島の男衆が引き上げた。
そして捕れたものを皆で分け合いお祭りが始まった。
捕れた数種の魚を女衆が捌き男衆は酒を飲みんでいたら。弥五郎が数人の男衆と太鼓を持ち出した。
何をするのかと人が集まる。
「皆、ここいらで余興として<出陣>と<勝どき>と行こうではないか!!」
ドーーン!ドーン!ドン!と段々と早くなる太鼓の音にまた皆は沸き上がった。
後日、弥五郎が報告に来た。
地引網の結果はイワシ・真鯛やホゴなどが掛かったという。主にイワシが多いという事だった。
2町ほど(200mくらい)の物なのだが50人くらいの男衆が頑張ったそうだ。
「まあ、これくらいだろうな」
弥五郎の報告書に目を通しながらつぶやくと弥五郎は驚いた。
「殿、この結果を殿は予想していたのですか?」
「まあこれくらいじゃないと困るからな」
「困るとはどういう事でしょうか?」
「これを見てくれ弥五郎」
そういうと箱から1冊の本を取り出し弥五郎に見せた。
「これは何かの料理の作り方でしょうか?」
「イワシから油を取る方法だ」
「これがイワシから油ですか!?」
魚から油を作るというのが本当だったことに弥五郎は心底、驚いた。
「ああそうだ。そして煮た後の魚粕は乾燥させて肥料として使うからな」
「本当に驚くばかりです。ですが貝殻を田畑に使う事や魚油・魚肥など初耳の事ばかりです。殿はこの事を海の者でないのに海の者以上の事をどこで知ったのですか?」
そう聞くと少し晴通の口は重くなり弥五郎は不味いことを聞いたのかもしれないと後悔した。だが晴通はゆっくりと語りだした。
「信じられん話だがな病で伏せている時に夢を見たのだ。その夢の中で知った事を試してるだけなのだ。この伊予を発展させる良き知恵を授けてくれたに違いないと思ったのだ。」
弥五郎はあっけにとられながらも「狸に化かされたような話ですな」と答えた。
そんな弥五郎が可笑しかったのか晴通は笑いながら続けた。
「ああ、ただ完璧な知恵ではないのだ。断片的な部分もあり今は全てを試す事ができぬ。だがこの知恵を使い伊予をさらに発展させるためにも弥五郎これからも頼むぞ」
「はっ」
祭りと言いながらも実は重要な役目を与えられていたことに嬉しく弥五郎は気合が入った良い顔をして答えた。
それから数回の地引網漁をやってみてわかったことがある。
「弥五郎。またやられたぞ?」
「またか」
弥五郎の家にやってきた弥五郎の仲間が数人やってきて話している。その内容は太刀魚に網が噛み切られる事態についてだ。補修はしているが腐敗防止のために渋柿の煮汁で染めないといけないのなだから手間がかかる。しかもそこそこの量が引っかかるので大変だ。狙いとしてはイワシがメインになるから太刀魚はお呼びではないのだ。
「毎回、刺身も焼くのも飽きてくるしなぁ」
仲間の言う通り味はたんぱくなため毎回だと飽きてくる。そこで何人かで考えてはいるがいい案はまだない。
「味を変えたいなら面倒だし以前殿様が持ってきた醤油餅をマネして醤油漬けにして焼けばいいんじゃないか?」
仲間内の食いしん坊の言葉に弥五郎はハッとした。
「確かにそれで試してみよう!だがそのままでは食べにくくはないか?」
食いしん坊は続ける
「竹串に巻き付けたらいいだろう?そうすれば移動しながらでも食べれる」
その言葉に納得した弥五郎はさっそく試すことにした。
それから数日後、弥五郎から報告が上がった。
「太刀魚の被害か」
弥五郎のもってきた書状を確認しながらつぶやいた。
どうやら網が太刀魚に嚙み切られ収穫に多少なりとも影響が出ているようだ。
「はい、網を嚙み切られるので毎回補修が必要になり改善案も現状はまだありません。いかがいたしましょうか?」
確かに収量を考えると微妙なラインかもしれんが油や肥料のことを考えればやめる訳にはいかない。食糧事情の改善は出来ることが多くない。利益が少なくてもやり続けないと信長や秀吉たちの四国侵攻に間に合わないからな。
「ふむ、もうしばらく様子を見よう。補修しながら続けるように」
「はっ!」
網は腐敗しないように渋柿で煮る必要もあるので手間がかかるが仕方ない。
「あと太刀魚の刺身は好物だからいくつかまわせ」
「わかりました。担当の者に伝えておきます」
ついでに職権乱用して好物を手に入れれて満足だ。
後書き
地引網は1580年代には広まっていたのでチートっていうほどではないかなぁ?
旧北条地域の漁村について、文献で確認できるのは江戸時代に入ってからで、文化7年(1810年)、安居島付近に二度にわたって出漁してきた芸州方(広島県)の漁業者との紛争解決についての記録が残っている。また、寛政11年(1799年)以来たびたび煎海鼠方(海産物一般の奨励と徴税の役割を帯びたもの)を命ぜられていることからも、江戸時代において、北条地域は豊かな漁場であり、海産物の集散地であったと思われる。このようなことから、瀬戸内海の代表的な漂流漁民である広島県の能地漁民が柳原に定着したり、文化8年(1811年)ころから盛んに移住を始めた越智郡岩城いわぎ村(現越智郡上島かみじま町)の漁民のうちの二人が安居島に入島して漁場の開発に努めたりするなどしている。特に岩城村からの漁民は北条地域の漁村の基礎作りに大きな役割を果たしたとみられている。
醤油餅:松山の郷土菓子。
江戸時代初期に松山藩祖 久松定勝が、家臣の繁栄を願って、桃の節句にしょうゆ餅をつくり、分け与えたのが始まりとされる。
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