人間ロキ⑤
この日も俺たちは最後までせず、しかし何時間もお互いの体を求め合った。
♢♢♢
古城に引きこもっているうちに俺は十八歳になった。身長も体格も魔物だった頃と同じくらいになり、それなりにたくましく成長したと思う。むしろ食生活が良くなったおかげか前よりも健康的な体になった。適度な運動も、古城を出ない条件ならなんでもしていい約束なのだが、それは性生活のおかげでなんとかなっている。
(あいつ、いつになったら最後までするんだ)
今年の夏も無理なのか。じゃあ今年の秋は? 冬は? 営みは相変わらず挿入手前で終わってしまい、今朝もお互いのを擦っただけで終わった。
「今日って食材届く日だよな? ちょっと取りに行ってくる」
「僕が取りに……あれ、ロキ?」
シーツを綺麗にしているミツバに声をかけて、返事を待たずに古城横にある食材専用の倉庫に向かう。あそこも建物自体が冷えているから、夏でも食材を腐らせずに済む。今日はミツバが好きな肉料理を作ってあげたくて、ミツバより早く材料を手に入れて朝から仕込みをするつもりだ。セックスの疲労感でぐったりしているうちに家事全般を先回りされてしまう失敗を何度も経験している。小屋のような倉庫に入り、カゴの中に目当ての食材を入れていく。肉の塊を掴み、流石にデカいのを頼み過ぎたかもと少し後悔した。
(でもミツバ結構食うし)
少食の俺とは違い、ミツバの食事量はかなり多い。しかし、多すぎだ。昔からよく食べる方だったけど、最近は適量を忘れてしまったかのように大量に食べてしまう。きっとこの十人前はありそうな肉のほとんども一瞬で食べるだろう。最初は高度魔法を使う時に魔力を消費するから当然だと流していたけど、違和感は他にもある。時々、ミツバから匂うのだ。気配と言えばいいのか、匂いなのか、とにかく馴染みのあるナニかを感じる時があった。勇者を倒した時に強く感じたそれはミツバが気を抜いた時に微かにもれているような気がする。どうにもはっきりしないな。それに俺は普通の人間だから、感じる事が出来るのは本当の体臭とかその程度のはず。一瞬一つの可能性を考える。
(まさか、な。あいつ汗とかせ、精液とか体液出るし……でも昔の俺は魔力が少な過ぎたせいでそうだったわけで、上のレベルの奴らは性欲が普通にあった。飯はどうだった? 俺たちは魔王様の魔力が飯だったから、レベルに関わらず食べなくても生きていけたよな? でも魔王様はどっかからエネルギーを得る必要が……)
「っ、は、っくしゅ! やべ、出ないと」
寒い所でジッとしていたせいでクシャミと鼻水が出た。慌てて渡り廊下に出た所で持っていたカゴをミツバに奪われた。
「先に行っちゃうなんて酷い」
「今日は俺が料理したかったから」
拗ねたように眉を下げる顔がかわいい。
もう三十歳は過ぎているはずなのに可愛い。というかこいつ見た目も変わらない。たった三年されど三年、どこかしら変わっていても良さそうなのに、ミツバだけずっと再会した時のままだ。カゴの中を見ただけで俺がしようとしていた事を察したミツバが嬉しそうに手を握って、その後少し肩を揺らした。
「何か探してたの。この食材を取るだけでかなり冷えてる」
「……ちょっと考え事しててさ」
「僕には話せない事?」
「話しても笑われるだけだから」
「余計に気になる」
言って否定してもらった方が楽だな。頬を指で掻きながら、もやもやから出た仮説を本人に告げた。
「ミツバから魔王みたいな気配を感じるから、魔王になったのかもとか変な妄想したんだよ。笑えるだろ」
「なんだ。バレちゃったか」
「だよな……っ、え?」
せっかく握った手が離れていく。
(今、なんて、言った?)
「僕は魔王だよ、ロキ」
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