人間ロキ①
人間ロキ
魔王と一緒に消滅したはずの俺は、何故かすぐに人間として生まれ変わり、今は王宮軍部の厩番として元気に過ごしていた。容姿は髪色以外ほとんど魔族の時と同じで、髪は赤髪から黒髪に変わり、体は年齢とともに成長しているが相変わらず痩せ型だ。
「ロキー! そっちのエサやりは俺がやるから隣の厩舎やってくれ」
「分かった」
雇い主であり、孤児院にいた俺を養子にしてくれた男に言われ、エサやりの手を止め移動する。夏は少し動くだけで汗が大量に吹き出し、服や床を汗で汚してしまう。これじゃ着替えが何枚あっても足りないな。今日は朝から雨が降っているせいで余計に暑く感じるのかもしれない。朝のエサやりが終われば数時間の中休みがあるし、そこで一度着替えた方が良さそうだ。
魔族として生きていた時間が長い俺でも、流石に人間として十四年も生きていれば色々慣れてくる。少し寂しいが、今ではもう魔族の時の感覚を忘れつつあった。
俺が前世の記憶を思い出したのは三歳の時、捨て子だった俺はその時既に孤児院にいて、引き取られるまでの十二年間で徐々に人間の体と生活に慣れていった。養子にしてもらってから二年でここでの仕事にも慣れ、毎日充実している。
義理の父は王宮軍部の厩番責任者で広い厩舎の全てを任されていて、俺は義理父と一緒に住み込みで働き、しっかりと給料を貰っていた。まだ手伝い程度の仕事内容なのに、王宮の重要な仕事だからか待遇はかなりいい。物欲が無いのもあり、貯金まで出来ている。ついでに俺は孤児院でキキと呼ばれていたけど、養子になれるタイミングでロキに変更してもらった。
キキでも良かったけど、王宮に行けると聞いたから……もしかしたら、ミツバに見つけてもらえるかもなんて期待して、今思えばかなり浮かれていた。
隣の厩舎に移動して、エサやりを始める。こういう作業の時は考え事をしやすいせいか、どうしてもミツバを思い出す。
(どこにいるんだよ)
俺は消滅する直前にミツバへの気持ちを自覚したが、生まれ変わるなんて想像していなかったせいもあり、あの時は俺が消えた世界で皆に愛されて幸せになってほしいと願っていた。しかしいざ人間として生まれ変わったら、遠目からでもミツバの姿を見たい、声が聞きたい、やっぱり会いたい、もし会えたらどうしよう、自覚した後だと照れるから直接会うのはやめよう、結婚してるかも、俺の事なんて忘れてるかも、会わない方がお互いの為、なんて毎日ぐるぐる悩み、最終的にはせっかく同じ世界に生まれ変わったのだから会いたいと結論を出し、王宮に行ける事になった時は周りが引くくらい喜んだのに、肝心のミツバは既に王宮と魔塔を去って行方不明になっていた。
普通の国民が王族の一員となった勇者の弟に会う事はほとんど不可能だからこそ、王宮に入れるってなった時は運命とやらを本気で信じた。それがどうだ。期待した分かなり落ち込む。
しかも行方不明ってなんだよ。心配するだろ馬鹿野郎。何やら凄い資格を取って優秀な魔法使いとして魔塔に入ったものの、急に消えたらしい。
もしミツバが生きていれば三十歳手前くらいか?早く成長した姿を俺に見せてくれよ。俺の知っているミツバはまだ十四歳の美青年のままだ。大人になった姿はきっと色気が増して更に魅力的になっているだろう。諦めていた姿を見るチャンスを貰ったのに、時間だけが過ぎていく。
(てか、俺も十四なんだな。それにしては……ヒョロすぎだろ)
ミツバが十四歳の時はもう少しがっしりしていたような。自分の成長が遅いのかミツバが早かったのか、きっと両方だ。細い腕を必死に動かしてエサやりを続ける。その間に雨と雷が酷くなり、中休みに入る頃には嵐のようになっていた。中休みは基本的に休憩室や自室で過ごす人が多く天気が良ければ外にも出られる。今日は悪天候のせいで休憩室がかなり混んでいた。どうしようかと悩み、厩舎の見回りに行く事にした。
雷に驚いて馬が暴れたりしたら大変だ。
「ロキ?どこ行くんだ?」
「天気悪いから馬の様子を見てくる」
「おいおい、お前の方が危ないだろ」
「俺は大丈夫」
「出たよ、ロキの根拠のない大丈夫ってやつ。自分の体を大事にしろ」
「でも」
「どうせ止めても行くんだろ。俺も行く」
「え……いいの?」
歳が近く、俺を弟のように可愛がってくれている男の先輩が一緒についてきてくれる事になった。
「その代わり次からはちゃんと俺とか他の奴らに声かけてから行け。可能なら、二人以上で行動しろ。馬が暴れた時一人だと下手したら死ぬぞ」
「ごめん……分かった」
言われてみれば先輩が正しい。また一人でどうにかしようとしてしまっていた。人にお願いしたり頼ったりするのはまだ少しだけ苦手だ。ミツバ相手なら、素直に頼めるのに。ああまたミツバの顔を思い浮かべてしまった。自分に何かあれば周りの仲間に迷惑をかけてしまう。一人行動はやめようと心の中で誓い、先輩と一緒に厩舎の見回りと戸締りの確認をしていく。強い雨風のせいで、屋根の下を歩いていても全身ずぶ濡れになる。それでも先輩が用意してくれたレーンコートのおかげでなんとか見回りを続けられた。王宮騎士達が乗る馬だと調教がしっかりとされているので雷の音が酷くても比較的落ち着いている。これならもう戻っても良さそうだ。その時、厩舎の前にいる男に気付かれ手招きされた。あの男は……。
「あいつまたうろちょろと…… 俺が行くからロキは先に戻ってろ」
「ロキじゃん。タイミングいいな」
「……話なら俺が聞きます」
「そんな怖い顔すんなよ。会ったのは偶然だって」
先輩が遠ざけようとしたのを察したかのように、騎士の格好をした男が目の前まで着てしまう。色黒で体格が良く、ニカッと笑う時に見える白い歯と黒い短髪は一見爽やかだが、俺はこの男に何度も襲われそうになった事がある。その時助けてくれた隣の先輩曰く、男の職場になりやすい騎士や厩番は男色が多く、そうじゃなくても性処理の相手に男を抱ける者が多いらしい。今、目の前にいる騎士がそれだ。貴族の騎士は何をやっても揉み消せるだけの権力を持っているから、俺のような子供相手にも簡単に手を出す。
俺みたいな幸薄そうなヒョロガリなんて対象外だと油断していた時に、一度押し倒された事があったので、さすがに今では警戒している。
いい加減諦めればいいのに、この男は暇さえあればちょっかいをかけてきた。でもいつもは俺が一人の時を狙っていたはず、じゃあ本当にたまたまなのかも。
「酷い雨だよなー。ロキはもう休み時間だろ? お前の部屋で休ませてよ」
雨に濡れて可哀想だけど、誰が襲われると分かってて頷くのか。先輩を完全に無視している態度も気に入らない。
(でも、一応こいつも貴族なんだよな)
人として生まれ変わり、権力の恐ろしさを知った。それだけに今日もやんわりと断るのが一番だろう。怒ってくれる先輩に感謝しながら、言葉を選んでいると、別の騎士が雨に濡れるのも構わず慌ててこちらに向かっているのが見えた。男の名前を必死に叫んでいる。
「――! お前またそこにいたのかよ!」
「ただの雨宿りだって」
「召集命令だ! さっさと大広間に戻ってこい!」
「なんで急に。俺らの班は午後から休みのはずだろ」
何だか大変そうな今のうちに逃げよう。先輩に手を引かれ男達に背中を向けるも、聞き覚えがありすぎる名前を聞いて足を止めてしまった。
「ミツバ様が戻って来られた」
「ミツバ様、って……へー、なんでまた急に。分かった、すぐに……」
(ミツバが……帰ってきた?)
ずっと会いたかったミツバがすぐ近くにいる。俺も大広間に行きたい。振り返りつい男達を見上げてしまい、その顔を見た男がニヤリと笑った。
「何、行きたいの? ミツバ様に興味あるんだ?」
「ぇ……いや、あの」
「それとも王宮の中を見たい感じ? どっちでもいいや。俺と一緒なら中に入れるけど、どーする?」
罠だと知りつつこの誘惑にはどうしても勝てなかった。一瞬だけでも顔を見たい。王宮で仕事をしているとはいえ、俺みたいな下っ端が勇者、王族の家族に会う為にはこうでもしないと難しい。
「先輩、午後の仕事の前には必ず戻るから、行ってきてもいい?」
「行くなら俺も行く」
「こいつも一緒なら駄目だ。ほら、どうする?」
「ごめん、俺だけで行く」
「ロキ!」
俺は結局、心配してくれる先輩に何度も謝りながら、男達について行って王宮の中、正面玄関近くの大広間に入っていった。
「ちょっとだけ離れるけど、柱の影で大人しく待ってろ。もし逃げたら、分かってるよな?」
「……ああ」
頭にタオルを被せられ、目立たないよう柱の後ろに連れて行かれる。男は他の騎士達の元に行き何かを話していた。
「ミツバはどこだ?」
初めて入る大広間はかなり広く、更に使用人や騎士が多すぎて壁になりミツバを上手く見つけられない。もう移動してしまったのか。キョロキョロと見渡すだけでは何も変わらず、少しずつ移動してしまう。どうせこの人混みなら隠れられるだろう。こういう時は小さい体に感謝する。
「まぁ、あのお方がミツバ様? 素敵だわ」
「お美しいわね」
「あら、貴女達は初めて?」
メイド達が盛り上がっているのを確認して、ミツバがまだこの空間にいるのを知った。
(見たい!)
必死に台になりそうなものを探して、見つけた所で周囲がざわついた。一瞬俺の存在がバレたのかとヒヤッとしたものの、彼らの視線が一番奥にある階段に注がれているのを見て、自意識過剰だったと安心する。皆の視線の先にいたのは、階段を上る金髪の男と黒髪の男だった。遠すぎて豆粒みたいだけど、ミツバがいるのはすぐに分かる。
「ミ、ミツバ」
小さく名を呼んでも周りの音にかき消され、俺の声が聞こえた人には、呼び捨てなのを咎めるような鋭い視線を向けられ萎縮してしまう。やっと会えたのに、距離が遠い。
(これが、本来の距離なのかもな)
前世は魔族、今は馬の世話をする一般人、ミツバは昔も今もこの国で丁重に扱われる存在。勇者が王族になったのなら、ミツバもそれに一番近い事になる。立場が違いすぎるのだ。
(でも、少しだけでも、会えて良かった)
遠目からでも成長が分かる。後ろ姿ばかりなのが惜しいが、少し伸びた金髪をジッと見つめて目に焼き付ける。次いつ見られるかわからないし。階段を上りどんどん小さくなっていくミツバを見ながら、唇を噛む。どうしよう、やっぱり寂しい、もっと近くで見たい、会いたい、話したい。
(ミツバ……俺、生まれ変わったんだぞ。また、お前に会えたんだ、元気にしてたか? 今までどうやって過ごしてきたんだ? 教えてくれよ……なぁ、ミツバ、こっちを向いてくれ)
「……なんて……勝手だよな」
置いていくような形で消えた俺を憎んでいる可能性もあるのに、呑気な自分に笑ってしまう。
その間に用事を済ませた騎士の男が戻ってきてしまい、痛いほどキツく腕を引っ張られた。
「っ、い」
「動くなって言ったよな」
「……だって」
「まぁいいや」
腕を掴んだまま頭上から大きいくしゃみが聞こえてきた。きっとさっき雨で濡れたせいだ。俺も少し冷えてきた気がする。
「あー、濡れたままにしてたから風邪引きそう。おい、ついてこい」
「えっ、こっちは違うっ」
厩舎の反対側の出口に引っ張られ慌てて踏ん張ったのに、力が強すぎて引きずられる形になった。
「部屋の風呂に入りたいからさっさと行くぞ。お前も一緒に来い」
「嫌だっ」
「ここまで連れてきてやったのに拒否するのか?」
「でも」
「他の奴らが遊びにきてるかもしれねーけど、皆可愛がってくれるって。でも俺が風呂入った後じゃもうガバガバになってるかもなー。汚ねーから中には出すなって言っとくか」
引き寄せられ体が密着した瞬間、大きい手で尻を鷲掴みされる。流石の俺も六十年以上生きていれば男の言っている意味が分かり、かなり慌てた。一人だけでも嫌なのに複数人に犯されるなんて考えるだけで吐き気がする。
「おい! 暴れんなよっ」
「放せ、放せってばっ!」
「逃げるな! おい! ロキ!」
隙を見て男の拘束から逃れ、厩舎側の出口に走り出す。大声で名前を呼ばれても無視して必死に走るが、大人と子供の体格差ではすぐに追いつかれ、後ろから襟を思いっきり掴まれ首を絞められる形で体が止まった。これだけ騒げば周りも何事かとこちらを気にし始める。俺はその間数秒呼吸が出来ず後ろの男側に倒れそうになった、所で急に楽になり、むせて床に膝をつく。
「っ、げ、っほ、っ、っ、は、っ、はっ」
(死ぬかと、思った)
もう少し早く走っていたら、襟を引っ張られた時首の骨が折れていたかもしれない。それほど衝撃が強かった。でもなんで手を離したんだ? 涙目になりながらなんとか振り返ると、何故か男は俺よりも顔色を悪くさせて床に座り込んでいた。あれ、よく見たら、俺と男の間に誰かいるな。すらっと長い足が視界に入りそのまま見上げて固まる。
(嘘だ。だってあんなに距離あったのに)
そこにはさっきまで階段を上っていたミツバがいた。
「……ロキ……?」
「あ……」
逃げ足の速い騎士の男が消え、ミツバが振り返り俺の名を呼ぶ。昔より低い声、伸びすぎてしまった癖のある金髪、ちらりと見えた瞳は相変わらず綺麗な緑色で、よく見ればうっすら髭もある。背は百八十以上ありそうだな。体格は遠目で見た時よりがっしりとしていて、これでも着痩せしていそうなのが怖い。記憶の中にいるミツバとは違うのに、今俺の名を呼んだのは確実に俺の知っているミツバだ。でも、どうしよう。俺たちの立場はだいぶ変わってしまった。
「あの二人、どういうご関係かしら」
そんな声も耳に入ってくる。今は、他人のフリをした方がいい。注目を浴びているのもあり、俺はミツバから目を逸らした。
「ロキ? ロキだよね?」
そんな俺を逃さないとばかりに同じく膝をついたミツバが顔を近づけてくる。
「えっと……だ、誰?」
「……誰……って……」
ショックを受けたような表情を見て罪悪感で胸が苦しくなり、自分の選択をすぐに後悔した。
「そっか……、僕はミツバ。君の名前は? 立てる?」
「俺は、ロキ……あ、ありがと」
差し伸べられた手を遠慮がちに取り、そのまま引っ張られてミツバに抱きしめられた。
「ロキ、くん。こんなに怯えて可哀想。僕の部屋でゆっくり休んで」
怯えて可哀想だって?むしろ今はミツバに会えた嬉しさで気分はだいぶいい。
(って、これじゃまた噂になる)
危ない。せっかく他人のフリをしたのにこれじゃミツバを悪く思う奴らが出てきても不思議じゃない。貴族というのはかなりプライドが高く繊細で噂好きなので、かなり面倒なのだ。抱きしめられた状態でミツバを追ってきた男、勇者が呆れたような声を出す。
「いきなり消えてビビったぞ。もう勝手にどっか行くな」
「緊急事態だったんだ」
「……その子は?」
「僕の知り合いだよ。前に僕が使ってた部屋はまだ空いてる?」
「ああ。それと、いつ戻ってきてもいいようにちゃんと管理させてたから綺麗だぞ」
「じゃあ先にそこで休んでくる」
「大事な話があるんじゃないのか」
「また別の日にして」
「あのなぁ、俺を暇人だと思うなよ」
「駄目なの?」
「いいけど。じゃ、俺はもう行く」
ミツバの腕の中にいるうちに話し合いは終わり、瞬きをする間の一瞬で、俺たちは別の部屋に移動した。薄暗い室内でも、この部屋がかなり豪華な作りになっているのが分かる。さっきも気になったけど、これってやっぱり……魔法だよな。ミツバが魔法使いになったのは聞いていたもののいざ使っているのを見ると驚く。治癒魔法専門って聞いてたけど、瞬間移動を簡単にやってしまうなんて、魔族だった俺よりも凄い。
「暗いな……これぐらいかな」
息するように魔法を使い、次は部屋が明るくなる。部屋の明かりはミツバを追って慌てて部屋に入ってきた使用人達がやったのかと思ったが、彼らはソファの上で密着している俺たちに驚いているだけだった。
「少し濡れてるね。風邪を引くと大変だからお風呂に入ろうか」
「じゃあ俺は、えーっと、帰ればいい?」
「え? 今ロキくんの話をしてたんだけど。すぐに用意させるから待ってて。あ、僕も帰ってきたばかりだから一緒に入らせてもらうよ」
断って今すぐ厩舎に戻りたいのに、力が強すぎて逃げられない。さっきの男よりも隙がない。
顔は笑っているのに、絶対逃さないという圧を感じて、俺は何故か二人で仲良く風呂に入る事になった。貴族はメイドに洗わせるはずなのに、本当に二人だけで石鹸で泡だらけの広い浴槽に入った。座った状態で後ろから抱きしめられる。騎士の男に誘われた時は死んでも嫌だったのに、ミツバなら素直に受け入れられた。
「ミツバ……様は」
「様はいらない」
(お前だってくん付けのくせに)
「ミツバは、いつも一人で入るのか?」
「ここで入る時はメイド達にやらせてたけど……ロキの体を彼女達に見せるのは絶対嫌なんだ。申し訳ないけど、僕で我慢して」
何が嫌なんだろう。とりあえず好きにさせてみるか。ミツバは言葉通り俺の肌を優しく撫でて汚れを落としていく。魔導具によって自動で足されている綺麗なお湯が勿体無い気もするが、汚れてしまったお湯が浴槽から溢れているのを見て、こういう仕組みなのだと遅いタイミングで気付く。貴族の風呂場には魔導具付きの浴槽があるのかやっぱり世界が違いすぎる。値段を考えそうになってやめた。
「次は髪洗うね」
「ぉー」
もう好き勝手に触ってくれ。指示されたので浴槽のフチに頭を乗せて横になる。
ミツバは一度浴槽を出て俺の頭側に座り、頭をマッサージするように髪を洗ってくれた。
なにこれ気持ち良すぎる。ミツバが真上からこちらの顔を覗き込んできているのを知りながら、うっとりと目を閉じる。
「ロキくんは何歳?」
「十四だ」
「十四……じゃああの後すぐに……そっか……やっぱり……、どこで生まれ育ったの? どうして王宮に?」
聞かれるまま人間ロキの短い人生を語る。ミツバは手を動かしながら静かにそれを聞いてくれた。
「馬の世話もやっと慣れてきてさ、あ、俺、休憩中だからあと少ししたら戻らないと。夕方は寝床を作って、エサも……」
「今日くらいはサボってもいいよ。僕の方から言っておく」
「なんで?」
「……もっと一緒にいたいから。なんて急に言われても困るよね。正直に話すと、ロキくん僕の大切な人に凄く似てるんだ」
「俺は身代わりかよ」
(どうしよう今は二人きりだから、記憶がある事言ってもいいか?)
「そうなるね、ごめん。でも君にとってはいい事しかないよ、多分」
「多分って」
目を瞑ったまま笑えば、泡だらけの手が頬に当たる。懐かしむように顔をガン見されているのだろう。気配と顔にかかる影でなんとなく分かった。
「僕が知ってるロキよりはまだ幼いけど……そっくりだ。髪色だけは全然違う」
「その人は」
「赤い髪だった。僕はその髪をずっと触りたいと思ってて、いつか僕の方が身長が高くなったら、その時触ろうって決めてた。なのに、僕を置いて……行ってしまった」
「あのさ、実は」
「勝手だよ。しかも大事なことを隠してたんだ。それだけ頼りなかったのかもね。でも、言ってほしかった。黙っていた事は絶対許さない、もしロキくんが僕の知ってるロキだったらお仕置きしてたよ」
なにそれ怖い。
(完全に言うタイミング逃したな)
ネタバラシする勇気がどんどん萎んでいく。
「ん?」
顔に水滴が落ちてきてビクッと肩が揺れた。
なんだ、なんだ? ミツバの髪の水滴か?何度か水滴が顔に当たり、ここでやっと目を開くと、目が合う。そして水滴が涙だったと知り、動揺した。
「ごめん、なんだか、勝手に、出てきて、いい大人がみっともない」
「……大人でも、泣きたい時は泣けばいいだろ。その、俺の方こそ、気の利いた事言えなくて。こういう時、どうしたらいいのか」
「ロキくんはそのまま普通通りでいてくれればいい。髪の泡流すね」
急にまた手際が良くなったミツバにされるがまま俺は人生で一番綺麗になり、そして何故か急な眠気に襲われ、風呂の後半でミツバの腕に寄りかかって動けなくなった。
「のぼせちゃったのかな。それとも普段の疲れが出たのかも。綺麗に拭いてベッドに寝かせてあげるから、このまま眠ってもいいよ」
「ん……ごめ」
(変だな、ちゃんと毎日寝てるんだけど、眠い)
ぽちゃん、と水が跳ねた音を聞いたのを最後に、俺はミツバの腕の中で眠ってしまった。
人の話し声で目を覚ましたら、俺は寝室のベッドで寝かされていた。間接照明で照らされているだけの薄暗い室内を見渡し、カーテンを少し開けて外がもう暗いのを確認する。
「結構寝てたんだな」
動くたびに艶々した生地のパジャマが肌に当たりくすぐったい。
「ミツバはどこだ?」
お腹も空いたし、仕事も気になる。名残惜しいけどそろそろ戻らないと。よろよろとベッドから降りて、話し声がする扉の方に歩く。
(そういえば勇者と話があるんだっけ。じゃあ待ってた方がいいのか?)
ここに連れて行かれる前勇者がそんなような事を言っていたような気がして、扉の前で棒立ちになる。ベッドに戻って待った方がいいのか、悩んでいる最中に聞き覚えのある声がしてつい聞き耳を立ててしまった。
「じゃあ前からロキを狙ってたんだ」
「そうです。昔から男色……しかも、あの」
「いいよ言って」
「子供が好みって噂されてたんで……ロキって実際の歳より幼く見えるから、俺たちみんな心配してたんです。実際危ない時何回もありました」
「……そうか……教えてくれてありがとう」
「いえ……えっと、ロキは今どこにいるんですか?」
「怪我をしてしまったから安全な所で休んでもらっている」
「怪我って……くそっアイツ! 騎士だからって調子に乗りやがって!」
「彼の処分はこちらに任せてくれ。いい機会だ、一度騎士の制度を見直して、適性がない者は去ってもらう」
なんの話だ。ミツバと話しているのは声からして先輩、だよな? 騎士がどうとか言っているのはもしかして俺を部屋に連れて行こうとしたあの男の事か?
(俺どこも怪我なんてしてないけど?)
慌てて鏡で確認したら首が少しだけ赤くなっていた。ミツバのあの言い方だともっと酷いのかと先輩達が勘違いしてしまいそうだ。
「ロキくん? 起きた?」
どうやら鏡の前でもたついている間に話し合いは終わったようで、ワイシャツと黒いズボンというラフな格好をしたミツバが寝室に入ってきた。あれ、こいつ……。薄暗い室内でも分かる、俺が寝ている間に髭を剃り、目と耳が完全に隠れてしまうくらい長かった髪も昔のようにすっきり短くなっていた。
「髪……切ったんだな」
「え?ああ、そうだね」
「いいと、思う」
「……ありがとう。切って良かった。そうだ、お腹すいてない? もうすぐ届くから一緒に食べよう」
「でもそろそろ戻らないと」
「サボっていいって言わなかった? 職場の責任者、ロキくんの親には事情を話してしばらく休暇を貰ったから、ゆっくりしていって。おねがい」
俺よりも逞しく成長したミツバに甘えるような声でお願いされても普通は何も感じないはずなのに、俺にはかなり効いた。その顔と声はずるいぞ。ミツバを甘やかせたい病が発症してしまう。
「じゃあミツバが飽きるまでの間だけ」
「……ふぅん、じゃあ飽きるまでは一緒にいてくれるんだ。いい事聞いたなぁ」
次は何やら悪い顔をしたミツバに嫌な予感がして、すぐにその予感が当たった。ミツバと再会してから一週間が経過しても、俺はずっと同じ部屋にいた。基本的にミツバも同じ部屋にいて、外出するにはミツバの許可が必要だ。出ても必ずミツバか護衛という名の見張りがついてくる。彼らは何かを指示されているようで俺との会話は最低限にとどめて、部屋の中でも静かだった。着替えや風呂等の時なら話しかけやすいのに、俺の世話はミツバが全てしてしまうせいでそれも皆無。ここまでされれば鈍感な俺でも気付く。これ軟禁ってやつだろ。
良く晴れた朝、ミツバに着替えさせられた俺は、今日こそはと一人での外出を希望した。
「駄目だよ。熱中症になったらどうするの」
「城の中なら魔法でどこも涼しいし。むしろ今まで暑い所でもやっていけたんだから平気だ」
「……ロキくんを虐めた騎士がまだうろついているかも」
「見たら逃げる!」
「……う〜ん、どうして一人で外に出たいの?」
「そりゃ一週間も部屋の中にいたら体なまるし」
「僕と一緒に乗馬して全身筋肉痛だったのに? 僕が聞きたいのは、なんで一人がいいのって事なんだけど」
いやいや誰だって一人の時間は欲しいだろ。まぁ俺の場合はミツバといられる時間が多いのは嬉しいから今のままでもいいんだけど、やっぱり仕事が気になる。魔物だった時とは違い、俺は今人間として働きその給料で生活している。昔の俺とは違うのだ。仕事が気がかりだから元の生活に戻ると伝えたらいい笑顔で却下された。
「ロキくんの気持ちは分かったよ。そういう責任感がある所も僕は、好きだ。でも、もう少しだけ二人の時間がほしい。飽きるまで付き合ってくれるんだよね?」
「……身代わり、でもいいのか」
これはずるい言い方をしている自覚はある。
「うん。ごめんね。身代わりでも、一緒にいたいんだ。仕事の話は真剣に考えておく。ごめん、本当にごめん」
泣きそうな顔で抱きしめられ、こうなれば俺の負けだ。ミツバがこんなに束縛したがるのは、俺が急に消えたせいだ。俺の責任なんだ。
(謝るのは俺の方だ)
記憶があるくせにないフリをして、今も隠し事をしている。この日も一人での外出は失敗し、ミツバと過ごした。
夜は一つしかないベッドに二人で入り、向かい合った状態で抱きしめられる。夏でも魔法のおかげでどれだけくっついても暑くない。大人五人くらい余裕で寝られそうな広いベッドで、俺たちは毎回この寝方をしていた。最初は、その、触られるのを覚悟していたが、俺が子供すぎるせいか、偽物ロキだからか性的な接触は無く、毎日ただ抱きしめられるだけだ。
そういう意味でミツバを好きだと自覚した俺からしたらちょっと物足りなくて、記憶を取り戻したと言えば昔みたいに手を出して貰えるかもなんて一瞬期待したけど、まだ言わずにいる。
ミツバはもう三十手前、モテるだろうから色んな人と経験したに違いない。俺に手を出してきたのは俺しか近くにいなかったからで、美女を抱いてきた今のミツバからしたらもう勃つものも勃たないだろう。もしそう言われたらかなり落ち込む。そりゃそうだよなと笑うだけで精一杯で、それならまだ偽物ロキだから手を出されないんだと思う方が気が楽だった。
でもこちらもそろそろ体が出来てきて性欲が増してくる年齢だ。好きな人に抱きしめられれば精通前でも多少反応もする。
(落ち着け……早く萎えろ)
下半身をなるべく離し萎えるのを待つ間に俺は眠りについた。
翌日の昼、いつものように部屋のテーブルで昼ごはんを食べていたら、先に食べ終わっていたミツバが何やら資料をテーブルに広げてきた。
「食べながらで大丈夫だから聞いてほしい。仕事の事なんだけど、ロキくんには僕専属の厩番として働いてほしいんだ。住む部屋は……厩舎近くに別邸があるの分かる?」
「そこって、王宮の使用人たちが使う建物だろ」
「そうだね。そこの一部を貸し切ったから、午後から早速そこに移動して、そのまま僕と一緒に住もう」
「……は……?」
「他の使用人達とは鉢合わせしないようにしてある」
「それはどうでもいい。ミツバも住むのか?」
「うん」
「この部屋でいいだろ」
「それじゃロキくんの部屋から遠いし」
結局何が変わるのだ。仕事出来るだけまだいい、のか?てか今更だけどミツバの仕事ってなんだ? ずっと俺といるけど暇人すぎだろ。
(仕事もだけど、今のミツバの事俺あんまり知らない)
何故姿を消していたのか、何故戻ってきたのか、仕事は、恋人は、こんなに時間があったのに、いまだに謎が多すぎる。でもこの様子なら聞くチャンスは沢山ありそうだ。
「分かった」
「……いいの?」
「なんで驚くんだ」
「僕のわがままに付き合ってもらってばっかりだからさ」
「仕事をさせてくれるだけでありがたい。それに、ミツバとの生活は楽しいから一緒に住むのは別にいい。仕事とかは大丈夫か?」
「今は休職中なんだ。これはロキくんと会う前からそうだったから気にしないで。ねぇ、今のもう一回言って」
「ミツバとの生活は……楽しい?」
「うん、ありがとう」
優しい笑みを浮かべてこちらを見てくるミツバの顔があまりにも綺麗すぎてつい顔が赤くなった。こんなの反則だ。俺はこの部屋で食べる最後のご飯を味わう事なく口に詰めて、赤くなる顔をなんとか誤魔化した。
新しい部屋は別館の中で一番いい部屋らしく、ミツバの部屋と広さは同じくらいだった。
暖炉がある小部屋の奥に寝室と仕事部屋、風呂、トイレがあり、一人用の部屋でも十分二人で暮らせそうだ。しかしやはりベッドは一つ。ここのベッドは小さめなのでいつも以上に密着しそうで緊張する。実際二人で寝てみると結構左右に余裕がなくてミツバにすがるような形をとってしまう。
「ベッドだけ変更しないか?」
「ちょうどいいと思うけど」
「狭いだろ。今は良くても、俺が成長したら多分どっちかが床に落ちる」
「成長するの?」
「成長期舐めるなよ。すぐにデカくなってやる」
「大きくなるのは大歓迎だよ。今は小さすぎて……ちょっと怖い」
「何が」
「……壊れそうで?」
「流石に言い過ぎだ」
「本気で言ってるのに。……壊れるのも、死ぬのも嫌だなぁ」
「人間はいつか死ぬんだ」
「……僕もロキくんも……人間だもんね。でも、なるべく長く一緒にいたいな」
うぐ、と声が潰れるほどキツく抱きしめられる。鍛えられた胸板に押されて苦しい今殺す気か。
「一緒にいるから、とりあえず少し力緩めろ」
「ロキくんの一緒にいる、はイマイチ信用出来ないんだけど、今はそれでいいよ」
ミツバが何を恐れているのかを分かっているからこそ、俺は出来る限りそばにいてやりたいと思った。そもそも俺も再会した瞬間から、離れる気はなかったんだけどな。どうせ信じてもらえないみたいだし、態度で示す事にした。
職場は仲間達がいる厩舎とは別で、ミツバ専用の馬三頭だけがいる小さな厩舎になった。
専属厩番の仕事は馬の数が減ってもやる事は同じで忙しい。しかしそれ以外はずっとミツバと過ごせているので、俺たちは昔のように二人の生活を楽しんだ。基本的に厩舎と部屋の行き来だけで、洞窟での生活とほとんど一緒だ。部屋や仕事はだいぶ贅沢になったけどな。ミツバの表情も日に日に明るくなり、最近では白い歯を見せて子供のように無邪気に笑うようになった。ただし、ふとした時、表情が暗くなる。そういう時は決まって右耳のピアスを触るので、きっと昔の俺がその表情にさせているのだ。大事に持ってくれてたのは嬉しいけどさ。
(今の俺を見ればいいのに)
あまりにも大切そうに触るせいで少しもやっとしてしまい、理由をつけてピアスを取ろうとして、普通に避けられた。
「触りたいの?」
「いや」
「これは僕の大切な物だから駄目。ほしいなら他のを買ってあげる」
(元々俺のだろ)
隠しているのは自分のくせに、ハッキリと線引きされて傷付く。でも、それくらい魔族だった俺のことを今でも大事にしてくれているのだ。このやりとりのおかげで覚悟が決まった。やっぱりちゃんと言おう。言って、早くそのピアスを俺もつけたい。
「ミツバ、今日の夜、暇か?」
「どうしたの改まって。暇だよ」
「良かった。じゃあ一緒にご飯食べられるよな」
「……勿論」
いつも一緒に食べてるくせに今更どうしたんだ、と怪しむような目を向けられる。そりゃそうだよな。でもたまに用事で外に出るから一応聞いておいた。
「ちょっと大事な話があるんだ」
「今聞く」
「今は心の準備が、まだ」
個人的に食べながらの方が話しやすい気がして、無理言って待ってもらう。その日の夜、テーブルに並んだ料理がいつも以上に豪華だった。
(てか、フルコース?)
いつもは最初と最後だけ使用人が出入りするのに今日に限ってはフルコース形式のため使用人の出入りが激しい。これじゃ昔の話が出来ない。
(こいつ、まさか嫌な話をされると思ってわざとこうしたのか?)
「どうしたの? 口に合わない?」
「いや、美味しい」
「沢山食べてね」
「お、おぅ」
「それで大事な話って? この生活やめたくなった?」
「……違う。俺はこの生活かなり気に入ってるから、やめるとか有り得ない」
本題に入りたいのに使用人が気になって吃る。
「……その話じゃないなら、いいか……この後の料理もまとめて持ってきて。そのあとは呼ぶまで別室で待機してくれ」
ミツバは自分の不安要素が無くなったからか、急に使用人達を遠ざけるような行動を始め、目の前に後から来るはずだった料理が並び出す。少し待てば二人きりの時間になった。ついに、言うのか。ミツバはどんな反応をするだろう。楽しみなようでちょっとこわい。お仕置きとか言っていた気がするぞ。
変な緊張で食が進み、無駄に口数が増えた。
「この鶏肉柔らかいな」
「本当だ、僕のもあげる」
「いや、それは遠慮する。あと貰ってもこの量は一人じゃ無理だ」
「そうかな」
「ああ。いくら鶏肉が好きな俺でも無理だ」
そういえば昔初めて狩りをした時は鶏肉を食べる前に体調が悪くなったんだよな。
「ミツバの魔法の言葉が無かったら、俺一生鶏肉食べられないままだったかも」
いただきます、ごちそうさま、あの言葉のおかげで俺はかなり助かった。
「……魔法の言葉」
「おう」
「僕が、ロキくんに教えたの?」
「そうだ。お前、忘れたのか、よ……」
「覚えているよ。ロキとの大切な思い出だからね」
「あ」
ミツバはいつの間にか手を止めて真顔でこちらを見下ろしていた。そこで気付く。これは、魔物ロキとの思い出だ。
「僕の真似をして、意味を知らないで言ってるのかと思ってたけど、魔法の言葉って、それに鶏肉って、最初に狩りをした時の話だよね。……いつから、記憶が戻ってたの」
「……その」
「まさか、最初から? どうして、なんで黙ってたんだ」
「タイミングを逃しただけで、ずっと言おうとしてた」
「タイミングなんていくらでもあっただろ!」
ガシャンと音を立てて食器が床に落ちる。ミツバの手のひらがナイフでキレてしまったので慌てて駆け寄って傷の具合を確かめようとした。
「血がっ、早く手当をっ」
手首を掴んですぐ、傷が消えていく。そういえば治癒魔法の専門家だった。
「……ミツバ、ごめん。言い出せなかった理由はいくつかあるんだけど、……俺、消滅する事黙ってて、結果的に悲しませただろ? だから申し訳なくて。立場も昔とだいぶ違うし、俺の事を忘れて、幸せになる方がいいのかもとかぐるぐる考えてさ、言葉がうまくまとまらない……でも、今日ちゃんと、言うつもりだった。謝って、許してくれるなら、この先も一緒にいたい……んだけど」
「わがまま、すぎる。でも、ロキが戻ってくるならなんでもいい。ロキと一緒にいるのが僕の幸せだよ。……愛してるんだ」
掴んでいた手を逆に取られミツバの頬を撫でさせられる。あまりにも愛おしそうに俺の手に自分の手を添えるから、なんとなく分かっていたけどこいつ俺の事好きすぎだろと心の中でツッコむ。半分は俺の願望もあるけどさ。好きな人に愛してるなんて言われたら調子にも乗る。
「ミツバ……今更だけど、会えて良かった」
「ロ、キ」
手を添えたままミツバの唇にキスをする。すぐ離したが二人して驚いた顔をした。
「ぁー、と、失礼……しました」
「ぇ? ロキ?」
「なんとなく、したくなって、っ、うおっ、ちょ、ミツバ」
急に床に押し倒され、頭をぶつけそうになる前にミツバの手が首に周りそのまま深くキスをされた。食事の途中だったから普通に料理の味がするキスだ。でも相手がミツバだからか凄く興奮した。しかしかなり派手な音を立てたせいで心配した使用人達が廊下に集まってしまい、扉を叩かれたせいで一旦動きが止まる。
「ロキが煽ってきたせいだよ」
「だからって急に押し倒すな」
昔のように言い合って、すぐにお互いに吹き出す。
「それはごめん。怪我はない?」
「ああ」
「食事がめちゃくちゃだ。一回セットし直してもらうからソファで待ってよう」
「……え、食事?」
(ここは流れ的にベッド行くやつじゃ)
「もしかして……期待した?」
「てっきり、俺と同じ気持ちなんだと」
「同じ気持ちだよ。でも」
「ん、ん」
服の上から大きい手で股間からヘソまでを撫でられ変な声が出る。
「こんな小さな体じゃ、僕とは無理だ」
「俺と同じ歳くらいの時手出してきたくせに」
「僕とロキじゃ色々違いすぎる。でも、いつか必ず抱く。それまで待ってて」
「だっ……い、今更だけど、お前恋人とかは」
「そんなの作る暇あったらロキを生き返らせる方法を考えるよ」
「冗談はやめろよ……でも、き、気持ちは伝わった、から」
恥ずかしさで先程までの勢いが消え失せ小さい体が更に小さく丸まった。その後本当に普通の食事を再開し、いつも通り風呂に入りベッドに横になった。
「そうだ。ベッドを変更したいとか言ってたけどこのままでいい?」
改めて聞かれてそう言えばそんな事を言ったなと思い出す。小さく頷き自分から抱きつく。石鹸の香りが心地いい。
「狭い方がいい」
「……素直になったロキの破壊力凄すぎる……どうして昔は……ああ僕が子供だったからか」
「何ブツブツ言ってんだ。おやすみ」
「おやすみ」
「……あ!」
「びっ、くりした、どうしたの」
電気を消してさあ寝るぞ、というタイミングでいい事を思いついた。
「今度は俺がシてやる」
「……一応聞くけど、何を? ちょ、っ」
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