第2話 承

「あれはイチョウの木だよー。葉っぱの形が面白いし、秋には黄色い葉っぱが綺麗なんだよね!」


 ミキが楽しそうに木の解説をしてくれる。彼女の解説を聞きながら僕たちは歩く。気持ちの良い森だ。


「ミキは木に詳しいんだね」

「私が詳しいっていうか、お母さんがね。こういうことを教えてくれるんだー」

「へえ、そうなんだ」

「君はうちのお母さんのこと気になる?」

「ミキが話したいの?」

「ん、話したいっていうか自然な話の流れって感じかのー」

「あ、またおじいさんキャラ」

「そこはおばあさんでしょ」

「そうだね。でもなんか、昔話のおじいさんみたいなキャラで想像しちゃったんだ」

「こぶとりじいさんとか花咲か爺さんみたいな感じ? 私ってそういうイメージなのかな?」

「ミキがって言うより、ミキが作ってるキャラが、かな」

「花咲か爺さんみたいなんだ?」

「そうだね」

「そっかー。花咲か爺さんかー。本当に桜の花を咲かせられたりしたら面白そうだよね! 君はそう思わない?」

「確かに、そういうことが出来たら面白そうだよね」

「でしょー。私は将来花咲か爺さんを目指そうかな」

「花咲か爺さんって目指すものなの?」

「まあ、なんていうか。枯れ木に花を咲かせるとか現実に出来たら楽しそうだと思って! でも……私の学力じゃ難しいかー」

「どうだろう? 今から本気で勉強すれば科学者にもなれるかもね」

「まーねー。私ってまだまだ若いし、女子高生だし」

「可能性の塊だね」

「そーだよ! そして、私が可能性の塊なように。君も可能性の塊なんだよ!」

「そうかな」

「そうだよ。思うんだけどさ、この世界の人は皆、何かの可能性を持ってるんだよね」

「真面目な話?」

「うん、短いけど真面目な話」

「聞かせてよ」

「思うにね。人間、可能性の塊だから何でもやるのが、やってみるのが正解なんだよ! 終わり!」

「本当に短いね」

「真面目な話はエネルギーを使うんじゃよー」

「あ、またおじいさんキャラ」

「のじゃー」

「……人間は可能性の塊か。うん、ミキは良いことを言うね」

「良いこと言うでしょー。でも私は勉強もスポーツもサボりがちで、理想の私からは遠いんだよねー」

「でも、ミキはいつも頑張ってるよ」

「えへへー。ありがとう」

「将来、枯れ木に花を咲かせる技術が現実になったら、それはきっと綺麗だろうね」

「だよねー」

「今日のここの木々も綺麗だね」

「お、君は草木の良さが分かる口だね。ま、そうじゃなかったら森林浴には来ないか」

「僕もアニメや漫画だけにしか興味がないわけじゃないんだよ」

「そーだね。そりゃそうじゃ。」

「とくに君が好きなものは僕も気になる」

「えへへー。そう?」

「ミキという女の子が気になるんだ」

「そっかー。気になっちゃうかー。私のあふれでる何かが君を引き付けちゃったんだねー」

「そうだよ。だから僕たちは付き合ってる」

「嬉しいことをいってくれるねー。そんな君が好きだよ」

「僕はミキが好きだから、ミキのことをもっと知りたい」

「私も! 私も君のことが好きだから君のことを今よりもっと知りたい!」

「これからもよろしく」

「うん、よろしく頼むよ君ぃ」

「また新しいキャラクターかな?」

「うーん。自分でやってみて、あまりしっくり、来なかったかな?」

「しっくり来なかったんだ」

「そうだね。なんか違った」

「そういうの、あるんだね」

「あるよー。めっちゃある!」

「どういうのがしっくり来ないの?」

「難しい質問をするねー。君」

「ミキのことをもっと理解したいから」

「そう言われると嬉しいから、私もちょっと考えてみよーか! 頑張るよ!」

「頑張って」

「うん! そうだなー。しっくりくるキャラと、逆にしっくりこないキャラの違いかー。そうだなー」

「言語化は難しい?」

「難しいねー。感覚的な話になっちゃうから。思うにね。結局はのれるか、のれないか。なんだよねー」

「のれるか、のれないか」

「そうだよー。それが大切なのじゃ」

「あ、またそのキャラが出たね」

「のじゃのじゃ。おじいさんキャラはやってて楽しいのじゃ」

「なるほど。つまり楽しいか、楽しくないか? が、大事なのかな」

「あー。うんうん! 楽しいか、楽しくないかか。それがベストな表現だと思う!」

「おじいさんキャラは楽しいわけだ」

「楽しいねー。私って楽しいかどうかを物事の中に重視してるんだろーねー」

「僕といるのは楽しい?」

「楽しいよー。君と話してると気が合うしね! 私はさっき世の中には色んな人が居て色んなつきあい方がある。みたいなことを言ったよね?」

「そうだった気がする」

「そうそう! 私たちの場合は気が合うから付き合ってる。でも、それ以上に楽しいと感じてるから付き合ってるんだね! 少なくとも私は」

「なるほど」

「さっき君は私と付き合ってて楽しいか聞いたよね?」

「聞いたね」

「逆に聞かせて。君は、私といるのは楽しい?」

「楽しいよ。でも」

「でも?」

「ミキと居ると癒される。僕にとって重要なのは、そういうところかな」

「私と居ると癒される。それが君にとっては一番重要なんだね」

「なんというか。ミキって妖精とかエルフとか、僕にはそんな感じに見えてるんだよね。君はエネルギッシュだけど、同時に癒しのオーラも持ってる」

「そうかなー?」

「僕はそう思う」

「へえー。そうなんだ。私に癒しのオーラがねー。てか妖精とかエルフって何!?」

「なんか金髪だし、神秘的なオーラが出てる……気がする」

「神秘的!? なんかだんだん抽象的になってない!?」

「言語化が難しいんだ。ミキが素敵すぎて」

「なるほどねえ。私が素敵すぎちゃったかー」

「そうなんだよ」

「嬉しいよ。そう言ってもらえるのは。でも君って私のことをそういう風に見てたんだね」

「嫌だった?」

「いいや、そんなことないよ。新鮮な意見で面白い! 興味深いね!」

「そこまで言うほど!?」

「そこまで言うほど。君と話してると飽きないね」

「僕もミキと話してて飽きないよ」

「それにしても、妖精やエルフかー。これは真面目にコスプレを考えてみても良いかもねー」

「その時は君の写真をとるよ。カメラも、ちゃんとしたやつを買って」

「本格的だー」

「せっかくだから」

「でもカメラって高いんじゃない?」

「そこは、まあ夏のうちにバイトでも始めるかな」

「おーバイト戦士だ!」

「戦士になるつもりはない」

「えー戦士かっこいいのに。やっぱエルフの横に立つなら戦士っしょ!」

「バイト戦士って、そういう戦士ではないよね」

「あはは。マジレスですな?」

「マジレスだね」

「ま、話を戻そうよ。私コスプレする人。君、撮影する人」

「乗り気だね。ノリノリだ」

「うん、ノリノリだよ。で、撮影をするわけだけどさ。私が……例えばエルフのコスプレをするなら」

「そうするなら?」

「私を撮る場所はこういう森が良いんじゃないかな?」

「そうだね。エルフには森が似合う」

「妖精にもね」

「その通り、妖精にも森が似合う」

「もしかしたら」

「もしかしたら?」

「これって僕たちの可能性なのかもしれない」

「そーかも!」


 ミキは近くの木に小走りで寄る。僕はそんな彼女を見ながら足を止めた。


「こういうポーズはどうかな?」


 そう言って楽しそうにいくつかのポーズをとる彼女に向かって、僕は被写体を撮影するように両手の指を構えた。


「実際に撮影したら、どんな写真になるんだろう?」

「きっと素敵な写真になるよ!」


 木漏れ日の中でポーズを決める彼女はとても美しく見えた。


 やがて、僕たちは再び歩きだす。


「森林浴はまだ続くのじゃー」

「うん、行こう」

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