森の妖精みたいなギャルと一緒に森林浴で癒される話
あげあげぱん
第1話 起
「到着!」
そう言って僕の彼女は楽しそうに笑う。
高い木々に囲まれる金髪の彼女は妖精かエルフかのようにも見える。
「君はどこに居ても映えるね。ミキ」
「北欧系のハーフだからかな。コスプレしたらファンタジー世界の住人みたいに見えるかも!」
「それは良い考えかもしれないね」
「でっしょー。コスプレ楽しそう。そうしたら君が撮影してよ」
「僕が?」
「妹に頼んでもいいけど、面倒くさがりそうだし」
「確かに、そうかもしれない」
「まー実際にやると大変そうだけどねー」
「そりゃ大変だろうね。今日、休息を求めている僕らには遠い行為だ」
「うん。今日は森林浴に着たからね。たくさん癒されよー」
「普段、勉強ばかりの僕らには休息が必要だ」
「うむ、必要なのじゃ!」
「それってなんのキャラ?」
「今、私が考えたキャラ。どうかな?」
「良いんじゃない? うん。よいと思う」
「やったー! じゃ、このキャラときどき使おーっと」
「うん、そろそろ行こうか。ミキ」
「そうだね。そんなに長くはないコースだから、ゆっくり歩いていこう」
「森林、とは言っても公園だからね。一本道だから道に迷うこともない」
「安心設計だね!」
「そう、安心設計だ」
僕たちは森林の中を歩き始める。
「ミキが森林浴に行こうって言ったときは驚いたけど、町中にこんな自然豊かな公園があったんだね」
「私たちが暮らしている町から数駅離れたところには、驚くべき大自然が存在したのだよ!」
「……大自然かな?」
「いいのっ! 私はそういう気分なんですー!」
「君はいつでも元気だね」
「元気すぎて癒されない?」
「そんなことはないよ。君と話してると楽しいし」
「えへへー」
「この場所の効果が込みかもしれないけど」
「えー」
「君と居て楽しいのは本当だよ」
「そうでしょう。そうでしょう。ミキちゃんは一緒に居て楽しい女の子なのです」
「ちょっと面倒くさいかも」
「ひどーい。そんなことないよねー?」
「からかっただけさ」
「ま、私は良いけどね。心が広いからね」
「うん、ミキは心が広い」
「ねー。そんな私になんでも懺悔してみたまえ。きっと心が軽くなるよ」
「懺悔することなんてないよ」
「ほんとー? それはつまらにいにゃー」
「つまらないって言われても……また新しいキャラ作ってるし」
「ふふふ。私のキャラは変幻自在なのだよ君ぃ」
「それってキャラがぶれてるって言われない」
「ぐさー! はい、功罪ポイント一点。功罪ポイント一点ですよ君ぃ」
「功罪ポイントってなんなの?」
「私が罪だと思う行動。それをすると功罪ポイントがたまるのです。私が法というわけじゃ」
「あ、さっきのキャラ」
「うん、さっきのキャラ。のじゃキャラ?」
「のじゃキャラって言うんだ」
「言いますね。ともかく、君には功罪ポイントが一点。これを取り除くには私の懺悔を聞くしかないね!」
「僕が懺悔を聞く側になるんだ」
「なってください。私の懺悔を聞きなさい」
「いいよ」
「じゃあ言うね」
「うん」
「最近……妹が冷蔵庫にとっておいたプリンを食べました」
「ギルティだね」
「待って待って。あれは事故だったの。名前を書いてなかったからフリーなやつだと思って食べちゃったんだよぅ」
「フリーなやつだと思ったんだ」
「反省はしてるんだよ。ただ、妹とは喧嘩になっちゃって」
「喧嘩になっちゃったか」
「まあ、私も妹も高校生だし、私が謝って丸く収まりはしたんだけど」
「したんだけど?」
「それって今朝の話なんだよね」
「本当に最近だね」
「だからさ、実はちょっと家に帰りづらくて。後ろめたさってあるじゃん? 悪いことしたとは思ってるからさ。帰りに何か買って帰ろうとは思ってるのよ」
「僕も選ぶの手伝うよ」
「ありがとー。君って優しいね」
「大したことじゃなくない?」
「いや、私にとっては大したことだね。だから話を聞いてくれただけでも嬉しかった」
「そうなんだ」
「心も楽になったかな。お礼に好きなお菓子を買ってあげようか」
「いいよ。気持ちだけ受け取っておく」
「謙虚だねぇ。そういう君も好きなんだけど」
「謙虚かな?」
「君は自分の美徳にもっと気付くべきだね。ミキちゃんが言うんだから間違いない!」
「そうなんだ。ところで僕の功罪ポイントはなくなったかい?」
「バッチグー。なくなったよ。君の罪は許されました」
「それは良かった」
「うん、ところで、君は知っているかな?」
「何を?」
「この公園は桜が綺麗でね。春になるとピンク色の花をつけた木が並んで、それはもう綺麗なんだぁ」
「へぇ、知らなかった」
「今は季節的に桜は咲いてないけどね」
「そうだね。夏だからね」
「桜が咲いたらまた来ようよ。お花見、きっと楽しいよ」
「ミキはここでお花見をしたことはあるの?」
「私? あるよー。家族と一緒に来たことがある。あれは中学生くらいの時だったけどねー」
「そうなんだ。毎年来てるってわけではないんだね」
「うん、毎年いろんな所でお花見してるよ。私も妹も、桜は好きだから。家族の恒例行事ってわけ」
「さっきは喧嘩したって聞いて少し心配したけど、妹さんとは仲良いんだ?」
「別に仲悪くはないよ。むしろ逆。喧嘩するほど仲が良いってやつかな」
「それは良いね」
「自慢の妹だよ。勉強できるし、スポーツもできるし、美人だし」
「君も美人じゃないか」
「まーね。でも、うちの妹は私より凄いよ。どんな道に進んでも、きっとあの娘は大成するね」
「それは凄い」
「うん、凄い。だから私も頑張らないと!」
「でも今日は休息の日だよ」
「そうだね。分かってる。結果を出すためには休息も必要だもん。今日は君からたっぷり癒しのエナジーを吸収するよー」
「エナジーは森林から吸収してほしいな」
「あはは、そうだねー。君、エナジーとか信じる?」
「深く信じてはないかな。あったら面白いと思うけど」
「私もそんな感じ! やっぱり私たち気が合うね!」
「気が合うから、僕たちは付き合ってるんじゃないかな?」
「そうかもね。でも、気が合わなくても付き合ってる人って居るんじゃない?」
「居るかな?」
「世界は広いんだもん。きっと居るよ」
「そっか。そうだね」
「世界には色んなカップルが居て、私たちの場合は、オタク趣味がきっかけで付き合い始めたって感じかな?」
「確かに、僕たちはそういう出会いだった」
「君が高校の休み時間にスマホでゲームしてて、私が見たそのゲームは、たまたま私もやってるゲームだった」
「うん」
「それから私たち話をしたりするようになって、時々君に勉強を教わったりして、そうしているうちに私たちは付き合うようになってたね」
「ミキと付き合うようになってもう一ヶ月だね」
「うんうん、付き合い始めて一ヶ月。順調に記録は伸びていってます」
「何の記録が伸びてるの?」
「私たちの交際記録です。交際期間って言うべきかな?」
「ああ、なるほど。その記録は伸ばしていきたい」
「きっと来年。一緒に桜を見ようね」
「ミキとの約束だ」
「うん、約束」
僕たちは一度足を止め指切りを交わした。彼女の指は白くて、細くて、スベスベしている。指先だけでも、彼女と触れ合うと嬉しくなる。心が高揚した。
「いっぱい、色んなことしたいね」
「色んなこと?」
「今日みたいに森林浴をしたり、他にも色んなところに行って、君と一緒に色んなことがやりたいの」
「それって特別なこと?」
「特別なことじゃなくても、何でも!」
「何でもか」
「君はどんなことがしたい?」
「そうだな……とりあえず」
「とりあえず?」
「今日は散歩を楽しんで、帰りは一緒にお菓子を買おう」
「そうだね。それは楽しいよ」
「うん」
僕たちは再び歩きだす。
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