第36話 試験再び

 騎士学園は試験期間。

 座学と実技だ。


 今回もサクっと1位になった。

 さすがに2度目なのでカンニングの疑いは掛けられなかった。


 もっとも、魔法妨害の結界の中での筆記試験だった。

 魔法妨害は、実用まで行くには高等技術だ。

 ただ、弱い出力なら、結界魔法が使える者なら誰にでもできる。

 出力が弱いと、簡単に破られる。

 だが、魔法妨害を掛けた側は破られたことが分かるのだ。


 だから、カンニング防止なら出力は低くても良い。

 そんなに便利なら毎回試験で、使っておけよと思う。


「ちょっと待ちたまえ」


 廊下を歩いていたら、先生に呼び止められた。


「はい」

「今回もリード君が難癖を付けてね。だが魔法妨害の結界を破らずに無効化できるのなら、これはもう勲章物だよ。本当の所はどうなのかな。もし、そんな手があるのなら、正直に喋ればカンニングも不問とするどころか、表彰させてもらおう。卒業資格を与えても良い」


 ちっ、疑っているのか。

 うん、できるのか。

 できるよな。

 例えば邪気だ。

 腐らせる効果を上手く使えば文字も書ける。

 ただ、悪いことに邪気を使うと体が腐る。


「魔力以外の力を使えば出来るかも知れません。俺は使ってないですが」

「魔力以外の力か。どんな?」


「神の力です」

「それは教団の幹部が持つ聖力ではないか。君は教祖だから使えるのでは」


「使えますが、制約があるんですよ。悪い事には使えない。他の教団もそうだと思います。神の力を悪用したら天罰が下りると思いますから」

「悪人が魔法妨害を仕掛けて来たら突破できるのだね」

「そうですね」

「ふむ、どこかの教団に入って修行すべきなのかも知れないな」


 この先生は好奇心旺盛だな。

 そう言えば、避妊に邪気を使うのは悪い事じゃないのか。

 前世でも中絶の是非の考えがあったな。


 避妊で教徒が痛みを訴えたなんてのはないから、神的には避妊はありなんだな。

 人工爆発はゆゆしき問題だからな。


 中絶は何となく罪深い気がする。

 ただ場合にはよるような気もする。

 レイプとかされて妊娠したら可哀想だよな。


 この論争を起こしたら宗教戦争に発展しそうだ。

 突かないでおこう。


 それにしてもリードはしつこいな。

 カンニングなんかしないってのに。


 いっそのこと、次の王命で、卒業資格を頼んでみるか。

 試験も怠いからな。

 それが良いかもな。


 ネジル神殿に行って司祭を捕まえた。


「確認のために訊くが、邪気で中絶はしてないよな」

「してませんね。避妊だけです」


「安心したよ。微妙な問題だからな」

「ただ、他の教団では薬を使っての中絶はあるかも知れません。噂がありますから」


 闇は深いってことか。

 まあやむを得ない中絶はあるよな。

 この話題にはノータッチで行きたい。


 なんかダークな気分になった。

 ネジル教徒がやっている露店のみたらし団子を食う。

 少し心が晴れた気がする。


 楽しいことを考えよう。

 腐敗の力で出来ることと言ったら、エッチングだな。

 名前はエッチだけど、酸で金属とかを削る。

 印刷や、芸術、幅広く使える。


 印刷は革命が起こせそうだ。

 物作り担当の教徒を集めて、エッチング版画を教えた。

 邪気を使えば簡単だ。


 絵が美味い奴のは実に見事だ。

 文字を刻むのも思いのまま。


「ネジル教の経典を作るのに使えそうです。魔力写真との合わせ技みたいなことができませんかね」

「頑張ってみろよ」


 邪気と魔力は別物だから、難しいと思うがな。

 魔石の粉と塗料を混ぜるのではなくて、酸化しづらい物と混ぜて、形を作れば良いか。

 それを邪気か何かで酸化させる。

 できそうだな。


 上手くいくかは教徒の頑張りかた次第だろう。

 風景画のエッチング版画をいくつかお土産にもらった。


「今度、教徒がこれを売り出す」

「エッチング版画ですわね」


 エッチング版画は邪気による物ではない物もある。

 仕組み的には簡単だからな。


「ディータ、どうした?」

「楽しそう」

「やってみるか」


 ディータは陶器のカップを手に取ると邪気でカップに絵を刻んだ。

 金属以外も腐るのか。

 まあ、石とかも酸で溶けるからな。


 エッチング版画より陶器に刻んだ方が売れるかもな。

 驚いたことに邪気はガラスも腐食させることができた。

 地味に便利だな。


 邪気による工芸品が開発され始めて、ネジル教徒の良い小遣い稼ぎになった。

 ネジル焼き、ネジル切子は流行った。


 ネジル教徒は増えた。

 未亡人とか浮浪児とかが多いのは仕方ないんだろうな。

 邪気、表向きは黒気だけど、小遣い稼ぎに良いからな。

 ただ悪いことをして、痛みを覚える教徒も出た。

 そういう奴には司祭が説教する。


 一度ネジル教徒になったらもう二度と悪いことはできませんと。

 話が違うとかいう浮浪児が出たが、邪神と契約するということはそういうことだ。


 美味いだけの話なんてこの世にはない。

 何かをするには代償は必ず伴う。

 そういう物だろう。


 エゴ神の像がガラス製になった。

 邪気で削って作ったらしい。

 壊れたりしないよな。

 ちょっと怖いんだが。

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 本日は一日に2回投稿です。

 これが2本目です。

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