第37話 代償
「強くなりたい」
ライラがそう言ってきた。
「何で俺に頼む?」
「フラッチェさんと、ディータさんは、レベル60超え。シャリアンヌさんも、短期間のうちにレベル30を超えてる」
「カラクリを明かすとエッチなことをして強くなる魔法がある。3人ともそれを使っている」
「ゲスね」
ライラの目つきが険しくなった。
「すぐに強くなる方法なんて邪道も良い所だ。犠牲の上で成り立っている。ライラ、俺に体を差し出すか?」
「あんたに相談するんじゃなかったわ」
「警告しておくが、リードもやめておけ。奴の正義は危うい」
「あなたが言うことじゃないわ」
「地道に強くなるのが正道だ」
ライラは悩んでいるな。
リードに比べれば危なくないが。
さて、今日はシャリアンヌのパワーレベリングだ。
「【性魔法】、無重力です」
「いくわよ。【性魔法】、念動」
「【性魔法】、風よけですわ」
うん、空の旅も快適になった。
前は飛んでいる時に虫が顔に当たって不快だった。
シャリアンヌが風よけを出しているので、虫はそこに当たって顔には当たらない。
今日の獲物は、ドラゴンだ。
シャリアンヌがドラゴンスレイヤーになりたがったからだ。
着いたな。
「好きにやれ」
「行きますわよ。【性魔法】、二酸化炭素収集」
ドラゴンの巣穴に二酸化炭素が送り込まれる。
やったかとか言うとフラグになるから言わない。
しばらくして、暴風で空気を送り込んで中に入った。
獣臭いな。
骨が散乱している。
ドラゴンは眠るように死んでいた。
大きさから考えるにレッサードラゴンだな。
ワイバーンより弱いと言われる俺達にとってはザコだ。
「シャリアンヌ、今レベルはいくつだ?」
「38ですわ。意外と上がりませんわね」
「しかし、この死骸を持って帰るのは骨だな。やっぱりネジル教徒に頼むべきだったか」
ドラゴンの巣穴は山だから、大変だろうとネジル教徒には声を掛けてない。
フラッチェと、ディータはレベル60超えだから、レッサードラゴンの死骸ぐらい無重力で持ち上げて念動で飛ばすのだろうけど。
あれっ、卵があるぞ。
しかも死んでない。
二酸化炭素に耐えたのか。
この卵はどうしよう。
孵化しても使い魔とかにはできない。
ドラゴンだからな。
レベル60ぐらいのテイマーなら別だが。
捨てて行くという選択肢はない。
死骸と一緒に持ち帰った。
卵を持ってライラの部屋に行く。
ノックすると、ライラの険しい顔が覗いた。
「何?」
「ドラゴンの卵を持ってきた。これを殺してレベルアップしろよ」
「そんな残酷なことはできない」
「前にも行ったが、代償なしに強くはなれない」
「人でなしになるぐらいなら、強くなれなくても構わない」
「俺はたしかに人でなしの人殺しだ。だから代償である罪は背負って生きていくつもりだ」
「あんた、ブタキムなの? 罪を背負うなんて言葉が出て来るとは思わなかった。誰を殺したのよ?」
俺は邪竜と共にブタキムを殺した。
糞な奴だが罪は罪だ。
「殺したのは糞な奴だ」
「あんたに糞だなんて言われるのは相当ね」
「殺すしかなかった。でないと世界が滅びたと思う。だから罪は罪として後悔はしてない」
「意外ね。ひとなんか殺しても平気って奴だったのに」
「ブタキムは小心者だぞ」
「他人みたいに言うのね」
「怖いから暴力を使った。そして支配した」
「いま、暴力を振るわないのは怖くなくなったってこと? 良いわね、恐い物がないなんて。そして暴力の代わりにセックスね」
「まあ、そんなところだ」
ライラの所から帰って卵をテーブルに置いて考えた。
卵はどうしよう。
殺さないなんて選択肢はない。
こいつが成獣になればきっと被害が出る。
そう言えば、邪神教の幹部は、邪気でモンスターを従えていたよな。
だが、邪気は怨念に近いような気がするんだ。
モンスターに与えたらきっと破壊衝動にとらわれる。
ああ、モンスターをネジル教徒にしちまえ。
俺は卵に手を置いて、邪気を与えてネジル教徒にして下さいと祈った。
卵が黒く染まり、ひびが入って、黒いレッサードラゴンが生まれた。
「ぴいぴい」
レッサードラゴンは俺の指を噛んだ。
「ぴーっ!」
レッサードラゴンは痛かったのだと思う。
悪い事をすると痛みが走る。
これなら調教は容易いな。
名前を付けてやらないと。
タールで良いか。
アスファルトよりましだと思う。
「お前はタールだ」
「ぴい」
「可愛いですわ」
タールの声を聞いたのか、シャリアンヌが来て優しい目をした。
「すぐに大きくなるさ。可愛いのは半年ぐらいだ」
「邪気を感じるわ」
フラッチェは鋭いな。
邪気を感じたのか。
「ネジル教徒になってもらった」
「なら安心ね」
「世話したいです」
「ディータに世話を頼むか」
ええと、ドラゴンが成体になるには30年掛かるのか。
毎日2キロぐらい体重が増えるらしい。
餌代も大変だな。
タールを騎獣として届けた。
10年後ぐらいにはドラゴンライダーだなと、うらやましがられた。
シャリアンヌがドラゴンライダーになりたがった。
親を倒したのはシャリアンヌだから、その罪はシャリアンヌが背負うと良い。
自分の子供みたいにしっかり教育してくれ。
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