第26話 ヒュドラ

Side:コラプ

 ゴブリンとオークの集団は全滅してしまった。

 毒浄化装備は役に立たなかったのか。

 なぜだ。

 カラクリを解かない限りブタキムには勝てない。


 遠くから斥候に監視させたのだから、毒が使われたことは間違いない。

 斥候は鷹目スキル持ちだ。

 ただ、無色透明の毒だと言った。


 匂いすらしなかったと。

 大規模に毒を撒けば遠くまで匂いが届くはずだ。

 無色透明でおまけに無臭だと、そんな毒があれば無敵ではないか。


「未来予知を」


 予言スキル持ちに俺は尋ねた。


「【予言】。指を消費すべき時が来ました。ヒュドラが確認されましたので、ヒュドラに邪気を与えるべきです。ヒュドラは毒の塊。どのような毒にもやられないでしょう」

「たしかに。ヒュドラは毒のモンスターだ」

「ただ、成功確率は10%にも満たないと思われます。相手の使う毒がどんなものか分からないですから。未来予知は与えられた情報から推測しているに過ぎませんので、絶対はありません」


 くっ、10%か。

 そろそろ当たりが出ても良いはずだが。


 ヒュドラの住処は毒の霧が渦巻いていた。

 毒浄化装備が無ければ俺も死んでいたところだ。

 ヒュドラに触り邪気を与える。

 指の1本が腐り落ちた。

 残り3本。


 邪神様の下へ行けるなら恐怖などない。

 ヒュドラは俺に邪気を与えられ喜んでいるようだ。


「王都まで進軍しろ」


 俺が王都の方向を指差すと、ヒュドラが俺の言葉に応えたように思えた。

 ゆっくりと王都に向かって進み始めた。

 これで良い。


 指を使わない小細工をしておくか。

 ヒュドラの接近を悟られないような物が良い。


「武器を与えてやる。とにかく暴れろ」

「そういう依頼は願ったり叶ったりだ」


 盗賊を動かすことにした。

 そうすれば、その騒ぎでヒュドラの接近を探知され難いかも知れない。


 ただ嫌がらせぐらいにしかならないかもな。

 それぐらいでも別に構わない。


「どうだ」


 アジトに帰って予言スキル持ちに俺は尋ねた。


「【予言】。やはりヒュドラを使った企みの成功率は12%ほどです。盗賊の攪乱で2%上がったようです」

「何が成功率を下げさせている?」

「相手の使う毒が分からないことですね。現場の土を採取して調べましたが、毒の痕跡はありません。毒感知にも掛かりません。もっとも、毒感知スキルも知らない毒は感知できません」


 土を採取しても駄目か。


「痕跡すら残さない毒。まるで邪気みたいだ。邪気を毒化したのか」

「【予言】、その場合のこちらの企みの成功確率は0%です」


 くっ、邪気は毒ではない。

 腐らせる力だ。

 それを毒にするなど、どんな方法を使ったのだ。


 邪気毒など作られたら、おそらくどんな方法を使っても勝ち目はない。

 神さえ殺せるような気がする。

 だが、そんなことが可能か。


「ブタキムの能力で邪気毒の生成が可能か」

「【予言】、ブタキムが成功する確率は0%です」

「待てよ。邪竜をブタキムが殺せる確率は?」

「【予言】、成功する確率は0%です」


 不可能をことごとく可能にする男か。

 Sランクスキル、強奪を持っていた男はひと味違うというわけか。


 そう言えば、騎士学園で、ダンスパーティがあるな。

 集めたチンピラで嫌がらせしてみるか。


Side:リード


 ジャスティスの活動が思いのほか良くない。

 人は楽しい事や快楽に向かう。

 ブタキムのエロ教団が流行ると認めないわけにはいかない。


 正義も楽しくて快楽だろう。

 その証拠に僕は正義を成すと股間が熱くなる。


 まずはライラをジャスティスに入れよう。

 友達をジャスティスに入れられずに他人を入れられるわけない。


「ライラ、ジャスティスに入ってよ」

「ええと、言いたくないけど、正義ってみんな違うのよ。リードの正義と私の正義が違うように」

「何で分かってくれない」


「リードはブタキムを軽蔑しているけど、彼はたぶん正義を行っていると思っているんじゃないかしら」

「あいつは悪だ」

「お金を取らずに治療することのどこが悪なの」

「くっ、人気取りのために違いない。外面対策だ」


「確かにエッチな面では私も眉をひそめるわ。でも知っている。騎士学園の生徒の性犯罪率が激減したわ」

「みだらな行為を肯定するのか。見損なったよ」


「私もやり方は良くないと思っているわ。でも効果が出ているのは認めないと。それに知っている? ジャスティスのメンバーになった生徒は暴力事件や性犯罪を犯しているわ」

「いや、かれらは正義を行っている。正しいんだ」

「私はそうは思わない。ブタキムも正解だとは思わないけど、あなたも正解だとは思わない。私は自分で自分なりの正義を貫くわ。群れたりせずに」


「数は力だ。ブタキムの強大な力に対抗するには組織が必要なんだ」

「あなた変わったわね。昔は私もあなたの言葉に慰められたわ。でも今は……」

「今は何だ?」

「みんな変わっていくのね。悲しいけど」


 そう言ってライラは立ち去ってしまった。

 ライラはひょっとしてブタキムに未練があるんじゃないか。

 レイプされて好きになってしまったのか。


 所詮、メスということか体で考えているのだな。

 くだらん、そんな奴はジャスティスに相応しくない。


 コプラさんに相談したら、こう言われた。


「リード君、人を説得するということは難しいことだ。一度の拒絶で諦めたりしてはいけない。考えても見たまえ。正義の神髄が二言三言で伝わるわけないだろう」

「そうですね。僕も正義を極めたとは思ってません。ブタキムを倒してないですから」

「少しずつだよ。焦らずにゆっくりだ」


 ライラをメスなどと考えて済まないことをした。

 彼女は傷ついている。

 繊細なんだ。

 ゆっくりと説得しよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る