第3話 演習旅行

 騎士学園の恒例である行事。

 演習旅行の始まりだ。

 あれから同級生たちは俺を無視することに決めたようだ。

 リードからは殺意を感じるが。

 まあ仕方ないよな。

 スキルを全部強奪して、レベルが上がればそのたびに強奪してたものな。


 それで弱くても生意気に吠えて来るから、かなりしつこく虐めた記憶がある。

 金も巻き上げたっけな。

 我ながら酷い奴だった。

 今更、俺に謝られてもたぶん何が何やらわからなくなるだろう。

 ヘタしたら行き場のない怒りが他人に向くかも知れない。

 怒りを受け止めるのも俺の役目だ。


 それに俺はブタキム本人とは違う。

 前世かも知れないし、漂ってた魂が入ったかも知れん。

 まあ、ブタキムの記憶はあるが、本人ではないと思っている。

 だから、たぶん謝罪しても心からとはならないだろう。


 そういうのは見抜かれるものだ。

 リードとライラが許してくれたら、その時は謝ろう。

 本当のブタキムは死んだと明かしてから。


 演習旅行は、大したモンスターは出ない。

 出てもせいぜいがオークぐらいだ。


「グギャギャ」


 ゴブリンか。


「任せろ。【斬撃】」


 こんなのスキルを使う必要ないだろう。


「力の配分はしっかりと。今の行為は減点ですね」


 ほら先生に減点された。

 ゴブリン出て来たので、優しく剣を突き刺す。

 10センチぐらいの穴が開いた。

 ゴブリンは即死だ。


「ブタキム君、力の配分と言ったでしょう」

「100分の1も使ってないが」

「強奪スキルは失われたと聞きましたが」

「同じぐらい強いスキルはある」

「説明しなさい」


「手の内は明かせません」

「そうですか。なら減点です」


 減点を食らったな。

 まあいいさ。

 ブタキムだった頃、座学は全滅だった。

 頭が悪いわけじゃない。

 勉強が嫌いなだけだ。


 今の俺は座学は優秀。

 実技も優秀だからな。


 スキル反転を食らって、パワーアップしたと言われている。

 スキル反転の宝珠なんて、滅多にある物じゃないから、誰も詳しい効果を知らない。

 リードの奴、どこで仕入れてきたものか。


 尋ねてもたぶん素直に話さないだろう。

 まあいいさ。

 あれでブタキムの魂は消え去った。

 実に良い事をした。


 だが俺のことを話しても信用はしないだろう。

 ゆっくり行くさ。


「があぁぁぁぁぁぁ」


 吠え声が響き渡る。

 この声はオーガか。

 騎士学園の生徒にはオーガは荷が重い。

 邪竜の巣から帰る時は、忌避剤を使っただろうからな。

 忌避剤はモンスターが嫌がる匂いで、よほど飢えてなければ寄って来ない。


「密集隊形」


 リードが命令する。

 生徒達が集まって方陣を組む。


「忌避剤散布」


 忌避剤が撒かれた。

 これで寄ってこないだろう。

 だがオーガは現れた。

 しかも黒いオーガだ。


 垂らしたヨダレもどす黒く、地面から煙が上がる。

 毒か酸といったところだ。


「みんな俺様を讃えろ。でないと死ぬぞ」

「くっ、あんなのを倒せるなら口では何とでも言ってやる。ブタキム様、流石」

「ブタキム様、最強」

「ブタキム様、恰好良い」


「おう心地いいぜ」

「【封印】」


 何を考えたかリードが俺に封印を掛けた。

 だが何もしないのに封印は粉々になった。

 だよなレベルが違う。


「何かしたか?」

「くっ」


 顔をゆがめるリード。

 俺は拳を構えると、黒いオーガを打ち抜いた。

 手から上がる白煙。


「【供与】、ダメージ」


 木が俺の代わりにダメージを負ってくれた。

 腐り果てる木。

 危ない毒だったな。


「みんな助けてやったんだから金貨1枚ずつな」

「そんなの払うものか」

「リードは黙ってろ。みんなオーガみたいになりたくないだろう」


 同級生の半分が金貨1枚を出した。

 命を助けたなら、お礼に金貨1枚はかなり格安だ。

 ブタキムの記憶でもそうなっている。

 これは正当な報酬だ。


 冒険者なら一人金貨10枚は取るだろう。

 金を出さなかった奴には何もしない。

 小金に固執しても仕方ないからな。

 納得した奴だけ出せばいい。


 リードとライラは俺を殺しそうな目で睨んでる。


 先生がミスリルのナイフで黒いオーガの魔石を採る。

 魔石は真っ黒だった。

 普通は赤なのにな。

 そう言えば邪竜の魔石も黒かった。

 気持ち悪いので捨ててきたが。


「火炎属性の人は集まって下さい」


 先生が声を掛ける。

 生徒が集まり、黒いオーガの死骸を燃やし始めた。

 黒い煙が立ち上る。


 黒い煙は死神みたいな形をとった。

 気のせいか。

 輪郭が歪み、やがて煙はぼやけて散った。


 いや、作為を感じるな。

 誰かの仕業かも知れない。


 そう思うと邪竜もおかしかった。

 邪竜の下に行くときに、途中モンスターにはあわなかった。


 帰りはあれだけいたんだから、あわないわけない。

 それに邪竜はモンスターを根こそぎ食っちまいそうなんだが。


 巣穴に別のモンスターを住まわせるのもおかしい。

 特にオークとオーガは仲がそれほど良くない。


 封印もだ。

 いくらレベルを取り戻したと言ってもリードのレベルでは邪竜は封印できない。

 きっと別の宝珠みたいなのを使ったな。

 ここも臭い。


 何か裏がある。


 それが何なのかは分からない。

 偽善の糧になりそうな悪なら狩る。

 そういう方針でいいだろう。


 帰りに街で見つけた浮浪児に俺は声を掛けた。


「これで美味い物でも食え。騎士学園の生徒達のおごりだ。特にブタキム様には感謝しろよ」


 そう言って同級生から巻き上げた金貨をばら撒いた。


「うん」

「言っておくがただじゃない。いずれ10倍にして返してもらうからな」

「分かった」


 どうせ明日になれば、浮浪児達は忘れるだろう。

 だが、ブタキムのやった罪が少し薄れたような気がした。

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