第2話 豊胸施術

「さあ、並んで、並んで」


 巨乳に憧れている女性がこんなにいるとはな。

 鏡で自分の顔を確認しながら、施術する。


「さあ、俺様に合言葉を」

「素敵です。ブタキム様、愛してます」

「そうか。【供与】脂肪。金貨10枚払え」

「最初は豚だったけど、今は許容範囲のぽっちゃり系の良い男ね」

「おう、もっと俺様を褒め称えろ」


 おおっ、ギルドに女冒険者が駆け込んできた。


「お願い助けて」


 その後に運び込まれてきた男の冒険者の腹には食い千切られた痕がある。

 ポーションで応急処置したらしい。


「助けてやろう。俺様に掛かれば容易い。その代わり女、一晩付き合え」

「最低ね」


 同様の声が上がる。


「分かった。その代わり死なせたら許さない」

「【供与】生命力」


 男冒険者の顔色が戻る。

 俺はポーションを傷口に掛ける。

 傷は塞がったが、内臓のダメージが酷い。


「誰か、教会に行って大司祭を連れて来い。ファットピッグの名前でな」

「はい」


「【供与】生命力」


 死にそうになると生命力供与で乗り切った。

 そして大司祭がきた。


「治してあげたいのはやまやまですが、今日は魔力がありません」

「なんだそんなことか。【供与】魔力」

「ステータス。十分です。【超回復】」


 えぐれた腹も元通りだ。

 どうやら助かったらしい。


「【供与】魔力、サービスだ」


 大司祭と怪我人と、怪我人の関係者の魔力を回復してやった。


 生命力は問題ないな。

 このぐらいでは枯渇しないどころか、怠くもならない。


 大司祭の払いは俺がした。

 巨乳施術で儲けたからな。


 さて巨乳施術再開だ。

 俺が一晩付き合えと言った女冒険者は怯えている。


 取って食ったりはしないさ。


「素敵です。ブタキム様、愛してます」

「そうか。【供与】脂肪。金貨10枚だ」

「お金持ちの男は好き。一晩付き合うから施術の費用をただにしてくれない?」

「これでも女には不自由しない。1年後が空いているからその時に来い。10枚は払え。一年後に会ったらその時には返そう」

「必ず会いに行くわ」


 そして、豚貴族の青年が、とこに出しても恥ずかしくない美青年になった。


「今日はここまで。また太ったら開催する」

「ええっ、残念」


 さてイベントだ。


「ぐへへっ、女、約束を果たしてもらうぞ」


 俺は嫌らしさたっぷりにそう言った。

 レストランに行き、女冒険者と食事する。


「そんなに怯えるな。俺様にも評判というものがある。善行するのは良い事だが、カモに見られる。貴族でそれは致命的だ。食事が終わったら帰って良いぞ。一晩付き合ったからな」

「えっいいの」

「だからもっと美味そうに食え」

「ええ。ありがとう」

「礼は要らない。ただ俺の悪党の評判を落とすなよ」


 贖罪だからな。

 偽善する悪党として生きる。

 善人になるのは赦されないと思う。

 俺のしたことではないが、俺がしたことだ。


 良い夜だ。

 ほろ酔い気分で、騎士学園に帰る。


「うぃー、ブタキム様のお帰りだぞ」

「門限は過ぎている。先生を呼んで来るから、怒られるんだな」


 門番はそう言うと先生を呼びに行った。


「あなたは死んだと報告されてますが。それにその姿は?」

「俺様は無敵だ。ごちゃごちゃいうな。せっかくの酔いが醒めてしまう」

「ブタキムなのですね? 確かに面影はあります」

「おう、正真正銘ブタキムだ」

「何があったか詳しくは後で聞かせて下さい」


 次の日。


「さあ、聞かせて下さい」

「俺様は無敵だ。だから邪竜の討伐の話がきたんだろう。学生なのに」

「ええ」

「死にゃしないさ。邪竜なんか瞬殺だ。殺したらこの姿になってた」

「そうですか」


 先生を適当に誤魔化して、事情聴取は終わった。

 そして、朝の教室に入る。


「おはよう、奴隷共」


「あれ誰? ちょっと格好良い」

「服はぶかぶかね。でもちょっとセクシー」


「俺様の顔を見忘れたか。ブタキムだよ」

「えっ、糞野郎のブタキム」

「生きてたのか」

「あの変わりようはなんだ」


「どうしたみんな。幽霊に会ったような顔をして、俺様は死なないさ」

「くっ、どうやって生き残った?」


 リードが詰め寄る。


「俺様の最強はどんな時も変わらない」

「減らず口を。僕はお前を絶対に許さない」


 それで良いんだ。

 憎まれなきゃ贖罪にならないからな。

 簡単に許されたら拍子抜けだ。


「よう、ライラ。昨夜は可愛がってやれなくて済まなかったな。別の女と一夜を共にしたからな」

「ライラはもうお前の言いなりにはならない。言ってやれ」

「私は貴方の玩具じゃありません」


 憎しみのこもった目が良い。

 それで良いんだよ。


「そうか、俺様に抱かれたくなったらいつでも言え」

「誰が言うもんですか」


 先生が入ってきた。

 パンパンと手を叩く。


「昨日の邪竜討伐はご苦労様でした。王から褒賞金が出てます」

「俺様が討伐したんだから、総取りだな」

「そんなこと許せるか」


「貧乏人はさもしいな、他人の業績を横取りして何が良いのやら」

「今まで僕達から奪ったスキルとレベルで、良い思いを散々してきた奴が何を言う」

「力っていうのは一か所に集中したほうが強いんだよ」

「だが力を実際に出していたのは僕達だ」

「まあ良い。こんなはした金要らない。俺様に感謝して受け取れよ」

「くっ、だれが感謝などするものか」


 そして、座学が終わり、午後は実技だ。

 近接戦闘は別に良い。

 レベルに任せて殴っただけで死ぬからな。

 問題は遠距離だな。


 手とか斬ってダメージを供与すれば良いが、マゾじゃないのでなるべくやりたくない。


 剣に魔力を集中して振ると、剣から半月状の魔力が飛んだ。

 そして案山子を切り裂いた。

 魔力なら腐るほどある。

 とりあえずはこんな物か。


「どうなっている。ブタキムの野郎、弱体化してないじゃないか」

「分からん。どうやって邪竜を倒したのかも謎だ」


 みんな、俺とどう接していいか分からないらしい。

 弱者ムーブはしない。

 そんなのをして虐められてもそれは贖罪じゃない。

 善人は虐めをするのも嫌だからな。

 俺はその気持ちが痛いほどわかる。

 ブタキムのやったことが良心を苛む。

 それには虐めも入っている。

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