第27話

「……ルーニャ。君、もしかして、力持ち?」


「……は?」



 俺の言葉に、リアのほうが頓狂な声を上げる。


 ルーニャは首をこてんと傾げたまま、「どう、でしょう……」と静かに告げる。


 だが、彼女の力の才能は飛びぬけている。


 俺の〝観察眼〟はそう言っていた。



「そうだな……、ちょっと待って……」



 俺は部屋から、鉄の塊を探し出し、クラフトをして鉄球に代える。


 野球ボールくらいの大きさだが、材質は鉄のためにずっしりと重い。


 それをせっせと運んで、彼女の元へ降りて行った。



「この鉄球を、外でちょっと投げてみてくれない……?」



 ルーニャに鉄球を渡すと、彼女はそれでも不思議そうにしていた。


 三人揃って家の外に出る。


 家の裏は林になっていて、大きな木々が並んでいた。


 そちらに指を差し、俺は説明する。



「ルーニャ。その球を思い切り、木に向かって投げてみてくれ。思いっきり!」


「は、はい……」



 困惑したまま、ルーニャは言うとおりに木に向かった。


 彼女はただ言われたとおりに、振りかぶり。


 力の入っていないフォームで鉄球を目の前に投げる――。


 その瞬間。


 ぶわっと風が吹いて、俺たちの元へ駆けていく。


 それは鉄球から巻き起こった風だった。


 凄まじい速度で吸い込まれるように突っ込んでいき、いともたやすく木を貫通する。バギッ! と轟音が響き、いくつもの木々をなぎ倒しながら、どこかに消えていった。


 ぱきぱきぱき……、と静かに木々が折れる音を聞きながら、俺たちは呆然とその様子を眺める。


 なんという、怪力。



「えと……、これで、いいんでしょうか……?」



 不安そうに、ルーニャは振り向く。


 俺とリアは顔を見合わせて、呟いた。



「これは……」


「パーティに入ってもらう……?」




 俺たちのパーティに、荷物持ちとしてルーニャが加わった。


 魔物の血を引いているからか、ルーニャの力は凄まじい。あのあと荷物を持ってもらったのだが、ひょいと簡単に抱えられ、「ぜんぜん大丈夫です。これの何倍でもいけます」としれっと言われてしまった。


 


 荷物持ちは当然、力があればあるほどいい。


 うってつけの人物と言えたが、彼女の怪力は魔物の血由来のものだ。


 おそるおそる、ダンジョン探索についてきてくれると嬉しいけど、無理はしないでもいい……、という提案をしてみると、ルーニャは目を輝かせて、「行きたいですっ!」と返事をしてくれた。



「わたしのツノと血は……。いつも人に疎まれてきました……。ですが、それで人の役に立てるのなら……、こんなに嬉しいことはありません……」



 そう言ってくれたのだ。


 思えば、彼女はすべてをたやすく壊せるほどの力を持っているのに、あんな扱いに耐えてきたのだから、本当に強い子なんだな、と思う。


 そうなってくると、いっそルーニャを戦力と数えたほうがいいのでは……? と思わないでもなかったが、さすがに子供に戦わせるのは絵面がヤバい、というのと、彼女には武器の類を扱う才能がまるでないことから、荷物持ちをやってもらうことにした。


 彼女としても、家にいるよりも俺たちについていきたいらしく、初めてのダンジョン探索ではとても嬉しそうにしていた。



 というわけで。


 初めての三人パーティ、初の本格的な探索である。


 数日は滞在できるよう、食材や寝具、様々なものを鞄に詰め込んであるため、今までの比ではなく荷物が多い。


 もし、俺とリアのふたりだけだったら、動きはおそろしく鈍くなっていたはずだ。


 しかし、それらはすべてルーニャが肩代わりしてくれている。


 してくれている……、のだが……。



「ルーニャ、重くない?」


「全く問題ないです。何個でも持てそうです」



 リアが若干引きながらルーニャに声を掛けるが、ルーニャはどこ吹く風だ。


 しかし、絵面がヤバい。


 彼女はツノ以外は普通の女の子で、帽子でツノも隠している今、ただの少女にしか見えない。


 それが三人分の荷物をまとめたクソでか背負い鞄を背負っているので、絵面がめちゃくちゃ悪いのだ。


 なんというか、俺たちが虐待しているように見える。



「ダンジョンに入るまでの視線、ヤバかったよな~……」


「あんな小さい子にこんなことさせる? って視線がね……。ルーニャ、わたしたちよりよっぽど力持ちなのに……」


「はいっ! 全然平気です!」



 ルーニャは元気よく、背負い鞄を揺らしていた。


 まぁ街の中では白い目で見られようとも、ダンジョン内では関係がない。


 そもそもあまり人がいない場所だし。


 

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