第22話
翌日。
リアとふたり並んで、街並みを歩く。
多少はこの世界にも慣れたとはいえ、現地人に比べると全くだ。しかしリアがスイスイと歩いてくれるので、俺はそれについていくだけでいい。
リアは剣士に転向してそれほど経っていないのに、まるで生まれてからずっと剣士だったかのような佇まいだ。
上半身だけの鎧も、俊敏さを重視したスカートも、腰に下がった剣も、どれも似合っている。
以前と違って自信のある表情で前を向いているからか、街を歩いていると男性からの視線をよく感じた。
実際、彼女は美人だった。
『あ~んまりフワフワしたことを考えないでくださいね~』
何かを悟ったのか、本当にフワフワしながら女神アリスが釘をさしてくる。
それを聞こえないふりをしていると、ふっと感じたことがあった。
街にはもちろん様々な建物が並んでいるが、当然空地も存在している。
日本の都会と違って所せまし、という感じではなく、自然も豊かなのがこの街の良いところでもあるのだが……。
「ねぇリア。この辺の空き地ってさ、借りたり購入ってできるの?」
「ん? そりゃできると思うけど。なんで?」
「いや、俺はクラフトの能力があるから。土地さえあれば、どんな建物も建て放題。もしかしたら、そっちのほうが安上がりで、いい家に住めるのかなって」
なにせ、一瞬でいくらでも新築を建てられるのだ。
やはり、住むのなら賃貸よりもマイホームのほうが嬉しい。
リアは「あ~……」と呟いてから、一旦空を見て、改めてこちらに顔を向ける。
「いい案だとは思う。家を借りるより、土地だけ借りるほうが安いでしょうし、購入もそれほど現実離れした考えではないかな。でも、家を建てるほどの材料ってとんでもない量になるんじゃないの?」
「あー……」
そこまでは考えていなかった。
〝観察眼〟の力で確かめようかとも思ったが、途方もない数字になりそうで諦める。
いい案だとは思ったが、なかなか難しそうだ。
『これはエンドコンテンツですねぇ……、途方もない素材を要求されること、ありますよね』
「家を買うのって、割と中盤くらいじゃありません? 何とかなりませんか? こういうのって大体、効率のいい稼ぎ場とかあるもんですし」
『そんなゲームとごっちゃにされましても』
「一番ごっちゃにしてるのはあなたですよアリス様」
小声で言い合っている間に、リアは目的の場所に連れてきてくれた。
俺たちの世界で言う不動産屋のようなものがあり、そこで家を借りる手続きをしたのだ。
いくつか家を見せてもらい、予算と家の広さとの兼ね合いで、一番条件に合った家を選んだ。
毎日の宿代よりは高くなるが、素材を持ち帰れること、帰る家ができることを考えれば、安いくらいだった。
拠点が欲しい、というのは俺のわがままだったし、家賃も俺が支払うつもりだったが、リアが「半分出すわよ。当然でしょ」と言ってくれたのが嬉しく、なによりありがたかった。
冒険者が宿の代わりに家を借りることもそれほど珍しいことではなく、この家も元々冒険者たちが使っていたらしい。
家具は随分前から置きっぱなしで、今日からでも住めるということで、そのまま住まわせてもらうことにした。
二階建ての木造建築だ。
部屋は二階に四つで、下は大広間になっている。
なんとも過ごしやすそうな家だった。
俺たちは宿に荷物を取りに道中を戻っていると、リアがこんなことを言い出した。
「ん~、家を借りたのなら、奴隷を買うのもアリかもね」
「ど、奴隷!?」
頼りになる仲間から、あまりに刺激が強すぎる言葉が出てきて、声がひっくり返ってしまう。
リアはきょとん、とした顔をしながら、俺を見た。
「うん。奴隷。別に自分でやりたいのならいいけど、身の回りの世話をしてくれる人がいたほうが楽じゃない? まぁダンジョンに潜っている間は必要ないけど、家にいてくれたら防犯にもなるし」
「そ、そうなんだ」
「?」
あまりにも普通のことのように話すから、びくびくしてしまう。
すると、女神アリスが気まずそうに耳元に飛んできた。
『この世界では、奴隷はごく普通の価値観なんです……。身寄りのない少年少女を売買して労働力や家事手伝いとして使うことは……』
「そ、そうなんですね……」
『あからさまに引かないでください……。ほら、日本でも奉公っていうのがあったでしょう。あんな感じと思ってもらえれば……』
「う、ううん……。あれも結局人権侵害でしたからね……。わ、わかりました、お手伝いさんとかメイドさんみたいな感じのノリで聞いておきます……」
『奴隷とメイドさんじゃビックリするくらい違いますが……。まぁ扱いはそんなに悪くありませんから……。宿屋にも、奴隷として働いている方がいましたし』
そうなんだ……。
改めて、異世界であることを認識する。
まぁでも、宿屋でも「この奴隷め! ぐひゃひゃ、逆らうんじゃないよ!」みたいな扱いを受けている人はいなかったし、言葉の響きほどひどい扱いではないんだろう。
……たぶん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます