第21話

「回復術師は、あとはもう待つしかない。ただ、もうひとりのほうはそうでもないわ。必要なのはね、荷物持ち」


「荷物持ち?」



 聴いたことのない職業に眉を寄せる。なんだそれは。


 しかし、どうやら特別な意味があるわけでもなく、本当に純粋な荷物持ち、という意味らしい。



「長期間ダンジョン内を探索するならば、荷物はそれだけ増えていく。それを自分たちで抱えながら戦闘をするのは、魔物が強くなっていくダンジョン深層では難しくなるの。かといって、毎回荷物を投げ捨てて戦うのも現実的じゃない。だから、最初から荷物を持ってくれる人を用意して、わたしたちは戦闘に集中するってわけ」


「なるほど。確かに今の状況でも、素材が重くて戦闘も大変だもんな……」



 俺たちは背負い鞄を背負っているけれど、そこに敵が落としたアイテムを詰めていくとどうしても重くなってしまう。


 リアはその俊敏さを武器にしているし、俺は万全の状態でもいっぱいいっぱいなのに、そこに荷物の重量が加わると戦闘は厳しかった。


 もし最初からそれらを肩代わりしてくれる人がいるのなら、ありがたい。


 リアは指をうにうにと動かしながら、説明を続けた。



「荷物持ちを用意するのはそれほど難しくないわ。雇えば済む話だから。ほかの職業と違って、こっちは供給のほうが多い。ギルドの紹介なら信用できる人を雇えるだろうし、大丈夫でしょ」



 そういうことなら、問題なさそうだ。


 深層に挑む際に必要な面子はわかった。


 だからというわけじゃないが、俺も自分が必要だと思うものを口にする。



「一個相談したいんだけど、いい? 俺も欲しいものがあってさ」


「ん? なあに?」


「拠点が欲しいんだ」


「拠点……?」



 リアは意味がわからなかったようで、小首を傾げる。後ろでくくられた髪が、さらりと揺れた。


 言葉が足りなかったと思い、俺は続ける。


 


「アイテムを保管できる場所っていうのかな。もっと広い場所が欲しい。俺の力は素材があればあるほど発揮できるってことは、リアも知っているでしょ? 魔物が落としたものを使えば、もっと装備を整えたり、金を稼ぐこともできる。今は宿を借りているけど、素材を持ち帰るにしてもあそこじゃ限界がある。いくつか諦めたものもあるんだ。素材を集めることはつまり、戦力を整えることになるから、そのための場所が欲しい」



 俺のクラフトの能力は、本当に便利だ。


 魔物の牙や皮を使えば、さらに強い武器や防具をクラフトすることも可能なのだが、今はそもそも素材を集めることができない。宿に


 持ち帰るには限界があるからだ。



 ……ちなみに。


 お金が手に入ってからは、宿屋ではきちんと二部屋取っている。あれ以来、気まずい夜は過ごしていない。



「だから、家を借りることってできないかな」



 それが俺の提案だった。


 この世界の賃貸の相場はわからないし、そもそも賃貸があるかどうかもわからない。


 でももし、宿に泊まり続けるのと家を借りるのがそれほど費用に違いがないなら、家を借りることも視野に入れたかった。



 リアはその発想はなかったようだが、顎に手を当ててゆっくり頷く。



「なるほど? 大きなパーティは家を借りて、そこを拠点にしていることも多いわ。装備や人数も多いから。わたしたちにはまだ必要ないと思っていたけど……、確かにクウの力を考えれば、必要かもね。わかった、考えましょう」



 どうやら、それほど現実離れした提案でもなかったようだ。



『あぁわかります! ゲームでマイホームが手に入ると、テンション上がりますよね!』



 女神様もこう言っていることだし。


 そしてリアは小さく笑った。



「別に宿暮らしで十分だけど、家があると安心するわよね。賛成。それなら明日、早速見に行く?」


「ほんと? じゃあそうしようか」




 実を言うと、俺もワクワクしていた。やはり、ホテル暮らしは落ち着かないものだし、女神アリスの言うことはもっともだ。


 ゲームで家が手に入るとワクワクするよね。

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