第19話
ダンジョンの攻略は、順調に進んでいった。
パーティは変わらずふたりだけだが、第一層はそれほど苦戦なく進んでいる。
リアの戦力が凄まじいことと、俺も徐々にクラフトの能力を使いこなし始め、さらに知っている魔物だと弱点を突きやすく、危なげなくも戦闘に貢献できているのが理由だ。
魔物を倒し、アイテムを回収し、それを売却し、金を作って、装備を整える。
それを繰り返しているうちに、多少は余裕もできていた。
「そろそろ、本格的にダンジョンを捜索したいわよね」
大きなパンをがぶりと口に入れたあと、リアはそう言う。
冒険者ギルドのテーブルで俺たちは食事をしていた。
飲み食いをしながらパーティとしての作戦会議や情報を集めている冒険者は、ギルドではよく見受けられる。
俺たちも同じように、食事をしながら今後の方針を話し合っていた。
「今までは、本格的じゃなかったの?」
「ぜんぜん。だってわたしたち、いつも日帰りだったじゃない」
シチューを口に含んだあと、「おいし」と一言言ってから、彼女は続ける。
今日の晩御飯は、パンにシチュー、何かの肉をよく焼いたもの。
どれも味付けは簡素だが、おいしかった。
シチューを飲み込んでから、リアはこちらに指を差す。
「ダンジョンはどこまで続いているかわからないし、奥まで進むんなら何日も滞在する装備が必要。そして、滞在に必要な仲間。わたしたちが用意すべきは、そのふたつ。仲間はどうにもならないから、まず装備ね」
リアはそう言ってから、大きな肉をあぐ、と口に放り込んだ。
よく食べる子だ。
俺はふっと掲示板に目を向ける。
そこには冒険者たちが立っており、ふらふらと見てパーティ募集の紙を見て回っている。
俺たちのパーティ募集の用紙もそこには貼られているが、声を掛けられたことは一度もない。
その視線に気付いたのか、リアが静かに言葉を並べる。
「なかなか新しい仲間は見つからないけど。しょうがないわよ、このパーティ編成じゃ。ひとりふたりと決まれば、そのあとはポンポン決まるだろうから今は耐えましょ」
「あぁ……」
俺たちのパーティは剣士とクラフト師の二名。
ほかにたくさんのパーティ募集があるのだから、こんな少人数、しかも尖った編成に加わるメリットは薄い。
本来であれば、俺たちのほうがふたりで入れるパーティを探すべきなんだろうが、やはり俺のクラフト師という職業が足を引っ張る。
リアは俺に恩義を感じていっしょにいてくれるが、そうじゃなければ入ってくれる人はいないというわけだ。
『リアさんの言うとおりですよ。三人、四人になれば、ほかの人も入りやすくなりますから。今だけですよ』
「はい……」
俺が落ち込んでいるのが伝わったのか、女神アリスがそう励ましてくれる。
『まぁ、最初から剣士や魔法使いを選んでおけば、こうならなかったんですが……』
「励ましたいのか、選択を責めたいのかどっちなんですか?」
やわらかい棒で全力で殴るのはやめてほしい。
俺たちがそんなやり取りをしていると、リアは「そういえば」と顔を上げた。
「ついつい、ダンジョンの奥に進むことを前提に話しちゃったけど。クウがダンジョンを潜る目的って何なの?」
それは確かに、話したことがなかった。
ダンジョンに潜る目的も、女神アリスが語ったように千差万別。
ここで利害の一致がなければ、パーティ解散もありえるわけだ。
とはいえ、正直に言うしかない。
「俺は……、ダンジョンの最深部に行ってみたいんだ」
「え、最深部?」
俺の言葉に、リアは目を丸くする。
そしてすぐに、「なんで?」と訝し気な顔をした。
「ええと……、謎の追求っていうか、神秘の到達っていうか……? と、とにかく最深部を見てみたいんだよ。冒険者として、当然だろ?」
まさか、女神様にそうするよう言われたから、とはとても言えず、俺はわたわたと適当なことを言う。
その欲求自体はそれほど不自然ではなかったらしく、「まぁ気持ちはわからないでもないけど……」とリアは小さく頷いた。
「でも、それでクラフト師……?」
「そこは、まぁ、いいじゃないですか……」
リアが眉を顰めるのを見て、俺は彼女に問いかけを返す。
「そういうリアは? 何のためにダンジョンに潜ってるの」
俺の質問に、リアは目をぱちぱちとさせた。
そして顔をそっと逸らし、自分の髪を指ですく。
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