第11話
なんなんだ、こいつらは。好き勝手に言い過ぎだろう。
才能がない者に対して、何を言ってもいいと勘違いしてないか?
リアはそれでも、努力でここまでの力を付けたんだぞ。
しかし、ここで俺が反論しても、リアはきっと喜ばない。
「……………………」
だから俺はこっそり、〝観察眼〟でダードリーを見た。
確かにレベルは、俺たちより数段高い。
偉そうにしているだけあって、剣の技術はそれなりにあるようで、それがこの態度に繋がっているようだ。
彼がパーティのリーダーだというのなら、頼りになるかもしれない。
性格は最悪だが。
性格は最悪でも、実力があればやっていけるのがリーダーだ。
だが――、それでも。
リアの破格の才能には、遠く及ばない。
俺はスクッと立ち上がり、彼らの前に立ち塞がる。
すると、ダードリーは何を勘違いしたのか、肩を竦めた。
「あんたに忠告しておいてやるよ。そいつは確かにスカーティアの生まれだが、魔法の才能はカスだ。騙されないほうがいい。俺たちは可哀想な被害者だからよ、もう犠牲者は出したくないんだ。こいつを仲間にしようとしてるなら、考え直したほうがいい。こんなゴミがいても足を引っ張るだけだぜ!」
こちらを慮るようにリアをバカにしたあと、ダードリーは気持ちよさそうに高笑いをする。
なんと醜悪な人間か。
俺は我慢できずに、静かに言い返した。
「――確かにこの人には、魔法の才能はないかもしれない。でも、剣の才能は破格だ。それを見抜けなかったお前のほうが、よっぽどゴミだよ」
「……あぁ?」
「お前なんかより、リアさんは強いって言ってるんだよ! いっそ試してみるか? 剣士としての一騎打ちだ! お前はリアさんをゴミ扱いしてるけど、そのリアさんにお前は万が一にも勝てないぞ!」
「なに言ってるんだ、お前」
「ちょ、ちょっと。クウ。あんた、何言って……」
突然の俺の挑発に、ダードリーは不愉快そうに眉を顰め、リアは慌てて立ち上がる。
俺はそこで、叫んだ。
「アリス様! この世界で、一番相手を挑発するジェスチャーを!」
『はい!』
すぐさま呼応し、女神アリスは己のこめかみに人差し指を当てて、ぐりぐりと動かした。
俺は全く同じ動作をして、ダードリーに叫ぶ。
「勝負だ、節穴野郎! お前なんか、リアさんの足元にも及ばない!」
「こいつ……ッ!」
どうやらこのジェスチャーは、相手をよっぽどバカにするものだったらしい。
ダードリーは青筋を立てて、顔を真っ赤にして怒りをあらわにした。
すぐさま俺の胸倉をつかんで、唾を飛ばす。
「上等だよ、やってやる! 言っとくが、リアの次はお前だ! ボコボコにしてやるからな! 逃げんじゃねえぞ!」
ドスの利いた声で叫ぶダードリーに、俺は「逃げるも何も、お前は今からリアさんにボコボコにされるんだろ?」と睨み返す。
そして、すぐそばで、リアの「なんでそんな勝手なことを言うの!? わたし抜きで話を進めないでほしいんだけど!?」と至極もっともな悲鳴が上がった。
それに関しては申し訳ないと思う。
ごめんね。
リアが抗議したところで、ブチギレているダードリーが止まるはずがない。そして俺も、言葉を引っ込めることはない。
やむなく、リアとダードリーは一騎打ちをすることになった。
ダードリーが集めたのか、それともこういったお祭り騒ぎが元々好きなのか。ギルド近くの広場には、たくさんの人が集まり、俺たちを囲って遠くから観戦している。
「なんか、パーティメンバー同士の一騎打ちらしいぞ」「抜ける抜けないのゴタゴタらしい」とか何とか、いろいろと憶測が聞こえてくる。
そんな中、俺とリア、ダードリーのパーティは離れて戦いの準備を進めていた。
「なんで……、こんなことに……」
真っ青な顔をしているのは、リアだ。
彼女は木刀を握ったまま、小刻みに震えている。
そして、キッと俺を睨んだ。
「どうしてくれんの……。あんたが変なこと言うから……。わたしは、勝負なんてしたくなかったのに……」
「大丈夫だって。リアさんの才能なら、絶対に勝てるから。格が違うんだからさ」
「それはあんたが勝手に言ってるだけでしょ!? わたしはダードリーのパーティに入ってたの! あいつの強さは知ってる! 剣も握ったことがないわたしが、勝てる相手じゃない!」
悲鳴のような声を上げるリア。
確かに、先ほど会ったばかりの俺がいくら言ったところで、実際に戦う姿を見てきたリアが信じられる話ではないかもしれない。
彼女は顔を覆い、項垂れている。
「あいつに全力で打たれたら、大怪我よ……、下手すら死ぬわ……。わたしは魔法使いで、前衛には出ないっていうのに……」
「あっちも使うのは木刀だから大丈夫だよ。そもそも当たらないだろうし」
「当たったら死ぬでしょう!? 木刀だって!」
一理ある。
正直、才覚の差を考えれば一撃も当たらないと思うのだが、彼女は自身の才能を信用していないし、なにより「当たったら死ぬ」という恐怖は身を縮ませるかもしれない。
それはよくない。
たとえどれだけ才能があっても、メンタルひとつで崩れるのも事実だ。
「ふむ」
俺は木刀を手に取り、「クラフト」と告げる。
その瞬間、一本だった木刀は二本に分かれた。
その一本で彼女の頭をパコン、と叩く。
「いたっ……、く、ない?」
リアは目を丸くして、自分の頭を擦っている。
俺は木刀を振りながら、彼女の疑問に答えた。
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