第10話
「……なに? さっきから……」
ジッと見つめているうえに、ごにょごにょしている俺に、リアは胡散臭そうな顔つきになっている。
俺はもう一度、女神アリスを見てから、彼女が頷くのを見た。
そうしてから、俺はおそるおそるリアに告げた。
「リアさん……、あなたに魔法の才能は全くないんですが……、剣士としての才能が有ります。しかも、ぶっちぎりに……」
「はあ……?」
突拍子もない発言に、リアは眉を吊り上げる。
下手な冗談の類だと思ったのか、リアは手を振りながら鼻を鳴らした。
「剣士? なにそれ。わたし、生まれてこの方、剣なんて握ったことないわよ。ずっと魔法一筋だったんだから」
「まぁ……、それは……、わかるんですけど」
俺もつい、リアの身体をじろじろ見てしまう。
彼女の身体を包むのはローブであり、手には杖を握られている。
どこからどう見ても、魔法使いとしか言いようのない格好だ。魔法使いの手本のような容姿だ。
だが、彼女の剣士としての才能は凄まじい。
〝観察眼〟が俺にそう伝えている。
〝観察眼〟が間違っていないのだったら、彼女はだれよりも強い剣士になれるはずだ。
それほどの才能が、リア・スカーティアには眠っている。
だが、リアは変わらず俺が悪い冗談を言っているように思ったらしい。
呆れたように答えた。
「うちは由緒正しき魔法使いの家系だから。そんな突然変異みたいに、剣士の才能が開花するわけないじゃない」
「でも、リアさんは魔法の才能がなかったわけでしょ?」
「言っていいことと悪いことがあると思う」
思わず反論してしまった俺に対し、リアはジト目を返してくる。
女神アリスは『そういうの、ロジハラって言うんですよ』と続けた。
ずっと思っていたけれど、この女神様はちょっと俗っぽすぎると思う。MMORPGに詳しい女神ってなんだよ。
しかしそこで、リアが「ん?」と顎に指を当てた。
「いやでも……、確かおじいちゃんが珍しくうちの家系じゃ魔法使いじゃなかったな……。剣士として名があった、とか、本人が言ってたような……」
「えっ、絶対それじゃん。むしろ、剣の才能って言われて一番に思いつくところじゃない?」
「おじいちゃん、魔法使いじゃないからって親戚連中からめちゃくちゃ疎まれてて、肩身狭そうだったから……。名高い剣士っていうのも自称かと思って」
「すんごい嫌な話聞いちゃったな……」
そういう親戚関係の胸糞話、異世界でもあるんだ。
俺は咳払いをしてから、持っていた木刀を彼女に差し出す。
「一回、剣を持ってみなよ。君の才能は本物だ。確かめるだけだったら、別に損はないだろ?」
「えぇ~……? 剣の才能~……? 本当に~……?」
おずおずと、リアは俺の木刀を受け取る。
それでも胡散臭そうにじろじろと木刀を見つめるばかりで、実際に振ろうとはしない。
まぁ今まで魔法一筋でやってきたという話だし、突然剣を振れと言われても戸惑うのは無理もない。
しかも才能があると言ってきたのは、わけのわからないクラフト師の男だし。
半信半疑どころか一信九割疑くらいのリアにどう言ったものか考えていると――。
「お。なんだ、リア。もう新しい寄生先を見つけたのか。お前、そういう才能はあるんだよな。魔法と違って」
厭味ったらしい声に、リアはハッと顔を上げる。
視線の先にいたのは、先ほどの戦士の男だ。
後ろにもぞろぞろと彼のパーティメンバーらしき人たちが見える。
「ダードリー……」
リアの表情は曇り、元パーティメンバーを見やる。
ダードリーと呼ばれた男性は、隣にいた少年の肩に手を置いた。
リアとよく似た装備をしているが、先ほどまであのパーティにはいなかった少年だ。
ダードリーは鼻の穴を膨らまし、自慢げに言う。
「こっちも新しい魔法使いを見つけたからよ。お互いよろしくやろうや。今回はお前の件で反省したから、あらかじめ魔法を見せてもらったぜ? お前の何倍も詠唱が早くて、魔法の種類も多い。最高だよ。まぁお前のあとじゃ、どんな魔法使いでも最高に見えるかもしれないけどな」
ひひひ、と下卑た笑い声をあげるダードリー。
リアは唇を噛んで、ぎゅっと木刀を握りしめるだけで、何も反論しない。
それを見た少年は、ふん、と鼻を鳴らした。
「この人が、スカーティアの? ふうん。随分と魔法が貧弱だって話だけど。それなら、スカーティアを名乗るなよ。俺たちからしたら憧れの名前だってのに、変な泥をつけやがって。情けない」
その憎々しい言葉にも、リアは何も言わなかった。
俯いて、ただただ耐えるのみ。
それに対し――、俺のほうがカチンときた。
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