第8話
「……座ったら」
「あ、はい……」
俺は隣にちょこんと腰を下ろす。
すると、彼女はこちらに手を差し伸ばしてきた。
「え、あ、よ、よろしくお願いします!」
俺はすぐさま、その手を握り返す。
パーティ成立だ!
「……いや、違う。ギルドカード。見して」
「あ、そっか……、うっす……」
はずかし。違ったわ。
その瞬間、女神アリスが『共感性羞恥!』と叫んで目を覆ってしまった。うるさいですよ。
俺はそそくさとギルドカードを取り出し、彼女に差し出す。
彼女にギルドカードを渡す中、俺は自分の妙案に喜んでいた。
何も、張り紙から自分の合ったパーティを探す必要はない。
こうやって、営業を掛けていけばよかったのだ。
俺の職業であるクラフト師はどうやらレア職業のようにだし、こうして声を掛けてまわるほうがパーティ成立の目途が見える気がした。
「ん」
彼女は俺のギルドカードを受け取る代わりに、自分のカードを差し出してきた。
俺はそれを受け取り、目を通す。
名前はリア・スカーティア。
職業は魔法使い。
レベルは俺より少し高いが、そこまで離れているわけではなかった。
組む相手としてはお互いいいのではないだろうか。
するとそこで、彼女の頓狂な声が聞こえてくる。
「く、クラフト師!?」
彼女――、リアは顔を上げ、こちらをまじまじと見つめてきた。
唖然とした表情に、俺はついあれを言ってしまう。
「また俺、なんかやっちゃいました?」
『だから使うタイミングが違うんですよ。あなたは何もやってないです。やらかしてはいるかもしれませんが』
辛辣な女神アリスの声は聞こえないふりをしておく。
無言でギルドカードを返してくるリアに、俺も彼女のカードを返す。
小さく首を振りながら、彼女はギルドカードを仕舞った。
「あなた――、クウだっけ? どこにも入れるパーティがなくて、仕方なく声掛けしてる感じ? 残念だけど、それでもあなたが入れるパーティはそうはないと思うわよ」
気の毒そうにリアは言う。
俺はそれに首を傾げながら、その問題に言及した。
「なんで、クラフト師ってそんなに人気ないの? そりゃ、剣士や魔法使いに比べれば、需要がないっていうのはわかるけどさ……」
ほかの職業は一定の需要があるのに、俺が見た限り、クラフト師はゼロ。
需要の多い少ないはあるにせよ、そこまで必要ない! と断言されるような職業とは思えなかった。
俺はクラフト師のセールスポイントを挙げていく。
「便利じゃない? 材料さえあれば、武器も防具も道具もその場で作れる。壊れても、その場で作り直すことができる。それに、ダンジョン探索は長丁場になるんだろ? その際に、いろんなものを作れるクラフトってすごく便利だと思うんだけど……」
それこそ、マインクラフトだってそうだ。
長距離の移動をした際、その場で材料を調達して物を作って、簡易な拠点を作ることができる。
足りないものがあっても、物によってはその場で調達できる。
それはダンジョン探索において、非常に有用なスキルではないのだろうか。
俺の主張に、少女は頬に手を当てて呆れたように答えた。
「そうね。確かに〝クラフト〟はすごい魔法だと思うし、便利。とっても。ダンジョン探索にクラフト師がついてきてくれれば、きっと有用だわ」
「なら」
「でも、便利であって必須じゃない」
ぴしゃりと言い切る。
彼女は指を振りながら、すらすらと言葉を並べていった。
「いれば便利、あれば便利、はダンジョン探索ではそぎ落とすべき部分よ。必要不可欠なものがほかにたくさんあるんだから。前衛職、後衛職、補助職……、クラフト師はこの補助職に当たるんでしょうけど、罠回避や鍵開けに必須の盗賊に比べても、必要性は何段階も落ちる。よっぽどの大規模パーティだったら出番はあるんでしょうけど、そのレベルのパーティだけよ。ダンジョン奥深くに潜れるような、レベルの高い大規模パーティね」
「…………………………」
……それ、詰んでない?
俺が入るようなパーティにはクラフト師は必要なくて、需要がある高レベルパーティには、低レベルの俺は入ることができない。
じゃあ俺は、どうすれば……?
俺は慌てて、女神アリスを見る。
彼女は小さい身体をいっぱいに使って、『だから! 需要のある! 職業に! すればって! 言ったじゃないですか……!』とアピールしていた。
ごめんなさい。
ここまで人気のない職業だとは思わず……。
女神アリスが言っていたように、上級者向けの職業選んだ挙句に途中で投げ出す人になってしまいそう。
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