第6話
ダンジョンから何とか脱出し、俺は冒険者ギルドに向かった。すぐ近くだ。
ダンジョンの近くに冒険者ギルドがあるのはなんとも合理的である。
ダンジョンの外は、ダンジョン内の静けさが嘘のように賑やかだ。ダンジョンから脱出した瞬間、人の声にほっとする。
その喧騒にまぎれるようにしながら、俺は女神アリスに話しかけた。
「アリス様。冒険者ギルドって具体的に何をする場所なんですか?」
『冒険者ギルド自体は、冒険者のダンジョン攻略をサポートする施設ですね。ダンジョン内で手に入ったアイテムを引き取ったり、場合によっては魔物討伐の依頼をかけたり。そして、パーティの募集活動なんかが頻繁に行われています』
「なるほど」
確かに、最初に行っておくべきかもしれない場所だ。
思えば、ウィザードリィ系のゲームも最初はパーティ組むところから始めるし、ソロでダンジョン行くこともないもんな。
『……………………』
女神アリスがニコニコとしながらこっちを見ているが、なんとも視線が痛い。
それを振り切り、俺は冒険者ギルドの門を開いた。
活気に満ちた空間だった。
ギルド内の空間を大幅に占めているのは、テーブルや椅子。居酒屋のようにたくさんのテーブルが並び、そこで冒険者らしき人たちが腰かけ、人によっては飯を食い、飲み物を飲み、何やら話し込んでいる様が見える。
カウンター内にはギルドの店員――、店員という呼び方でいいんだろうか? 職員さんか? とにかくギルドの人が何やら忙しそうに動き回っている。全員同じような服を着ているから、あれは彼女たちの制服なのだろう。
壁際には掲示板が用意してあり、たくさんの張り紙が貼ってある。その前には冒険者の姿が大勢見えた。
外を出れば町民と冒険者が混じっているが、この中では店員さん以外はすべて冒険者なんだろう。
ダンジョンに潜るための装備を固めた人たちばかりだ。
「おお……」
さすがにワクワクしてくる。
この中に、これから俺とともにダンジョンを潜る仲間がいるかもしれないのだ。
『ちなみに。冒険者として依頼を受けるときや、身分を証明する際は、ギルドカードを提示すればいいです。そこには簡略化されたその人の能力が刻印されていますので』
女神アリスの声に、俺は振り返る。
「ギルドカードって、どこに?」
『ここに』
パタパタと女神アリスは羽を動かすと、素早く俺の服のポケットに身体を突っ込んだ。くすぐったい。
そこから取り出したのは、小さな板切れだった。
どうやったのか、そこには俺の名前、「エンドー・クウ」と、クラフト師であることが記載されている。俺のレベルもそこに刻印されていた。どうやらこの数字は、様々な総合値から算出しているらしい。
「これ、どうやって数字は変更されていくんですか? カードを打ち直す機械があるとか……?」
『昔のポイントカードじゃないんですから……。本人が成長すれば、カードの数字も変わっていきます。それは本人のデータと直結している魔道具ですから』
「へぇー! すごいですね!」
『本来、作るのには時間が掛かるので、こちらで用意しておきました』
「何から何まで準備してくれてすみません」
『チュートリアルですからね』
皮肉で答えられる。女神様って皮肉言っていいの?
とにかく、そのカードを持って俺は早速、掲示板のほうに向かった。
パーティ募集の張り紙でいっぱいだ。
それらは掲示板に無造作に貼ってあるように見えて、ある程度はゾーニングされているらしい。
女神アリスがパタパタと飛んで、ある周囲でくるりと円を描く。
『この辺りは、初心者向けのパーティですね。クウさんのレベルで入れるのは、ここまでだと思います』
「わかりました」
俺は頷き、自分のギルドカードと照らし合わせながら、良さそうなパーティを探していく。
『魔法使い募集! レベルは5以上ならば可。当方、剣士、治癒術師、盗賊、格闘家』
『欠員一名、補充募集。剣士、魔法使い、戦士のいずれか。レベルは3以上』
『前衛職二名募集。魔法使い、治癒術師、呪術師、揃っています。レベルは最低7』
『急募 治癒術師。レベルは不問』
『募集。盗賊。当方、六人パーティ也』
「ふんふん……。なるほど……」
自分たちの募集職業を書き、自分たちの構成を示し、それに合った人同士がマッチングするようだ。
隣で見ていた戦士っぽい男の人が、一枚の張り紙を剥がして、カウンターに持って行った。カウンター内にいた女性としばらく話したあと、男性はテーブルで話し込んでいた四人組の元へと歩いていく。
俺がそれを見つめていると、女神アリスが補足してくれた。
『パーティはギルド内にいる場合もありますし、いなければ後日顔合わせということになります』
「なるほど。じゃあすぐにダンジョン内に潜る可能性もあるってわけですね」
採用即「君、今から出られる?」も可能性としてはあるわけだ。
そういう意味では、先ほど下見をしておいたのはいいかもしれない。
何はともあれ、俺は自分が入れるパーティを探さないといけないわけだが――。
「……あれぇ?」
俺は首を大きく傾げる。
さっきから、何枚も何枚も募集の張り紙を見ているのだが……。
「クラフト師の募集、なくない……?」
探せども探せども、『募集・クラフト師』の文字が見えない。
ほかの職業はたくさんあるのに、クラフト師は一切見掛けないのだ。
本当に一枚もない。
「なんで……?」
『だから……、言ったでしょう……』
女神アリスの呆れた声が聞こえてくる。
いやいや。
さすがに、これはおかしくない?
パーティに入れないなら、俺ずっとソロでやらなきゃいけないってこと?
そんなことある?
さっきの人たち、七人パーティだったのに俺ソロ?
俺が冷や汗をかいていると、突如、騒がしいギルド内でもひときわ目立つ声が聞こえきた。
「リア! お前をパーティから追放する!」
「え!? 追放!?」
『追放っていう言葉にここまでテンション上がる人初めて見ました』
あまりにも心躍る声に振り返ると、なにやら口論をしている数人の男女の姿が見えた。
テーブルを囲んだ八人の男女が、何やら言い争いをしている。
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