第3話
そして、目を開けた次の瞬間、俺が見たのは何ともファンタジーな世界だった。
がやがやと行き交う人の声に目を動かすと、いかにも中世ヨーロッパ的な街並み(中世ヨーロッパがどんな光景かは知らんが)が広がっている。
いや、この場合はナーロッパ、と呼ぶべきかもしれない。
もしかしたら、外から見れば、例の街をぐるっと塀で囲った円形のあの景色が見られるのかもしれない。
み、見たすぎる……。機会があれば、絶対見に行こう。
どうやら大きな街のようで建物は多く高く、どの建物も窓の数が多い。
広い道路はきちんと整備されており、馬車で食物を運ぶ姿も見受けられた。
たくさんの人が行き交っており、その賑やかさにワクワクしてくる。
「ここが、異世界かぁ~……!」
俺はキラキラした目を周りに向けていた。
周りの人たちはいかにもファンタジー世界に登場するような服装をしている。
簡素な布の服に、女性は頭に衣をかぶせている人も多い。
様々な髪の色が目に入った。
そして、それは俺も同じ。
「お、おお……。格好いい……」
俺の格好は、すっかり様変わりしていた。
ケープのようなものを羽織り、下は軽い布の服。腰にはナイフが帯刀されている。いかにも冒険者然とした姿だ。
クラフト師というよりは、どこか盗賊っぽい見た目だが……。
格好いいから、良しとしよう。
「さて……」
俺がこの世界に呼ばれたのは、ダンジョン攻略をするため。
そのために何からすべきか……。
『まずは、冒険者ギルドに行くのです』
「わっ」
突然、耳元で囁かれて、驚いてそちらを見る。
なんとそこには、小さくなった女神アリスの姿があった。
見た目はあの死後の世界で見たままだったが、そのスケールが小さくなり、背中には白い翼が生えている。神様というより、天使のような容姿だ。
俺の肩の近くでふわふわと浮いており、髪をなびかせている。
「アリス様……。ついてきてくれたんですか?」
『はい。あなたはまず何をすべきか、わからないと思いますので。わたしがナビゲートしましょう』
「チュートリアルって感じでしょうか」
『わたしの親切を最近の標準装備として語られるのは癪ですが……。あそこまで親身にはなれませんが、そんな感じです。まずは、冒険者ギルドへ』
女神アリスが、ピッと指差す。
その先に、きっと冒険者ギルドがあるのだろう。
しかし、やはり俺はうずうずしてしまう。
「アリス様。先にダンジョンを見に行っちゃダメですかね?」
『めちゃくちゃチュートリアル無視するじゃないですか。別に隠し要素とかはないですよ……?』
「心理の穴を探したいわけじゃなくて……。やっぱり、一度はこの目で見ておきたいんです。ダンジョン! やっぱりロマンがあるじゃないですか」
『別に構いませんが……。ひとりで攻略できるようなものではないですよ?』
「それはわかっています。でも、見学というか。視察というか。ダメですか?」
『……まぁいいでしょう。気持ちはわかりますからね。わたしもチュートリアルで一時間くらい隠し要素ないか探すタイプですから』
「あんまりなくないですか?」
『ないんですよね、これが……。では、わたしがダンジョンまで案内しましょう。ちなみに、わたしの姿や声はあなたにしか感知できないので、注意してください』
「早く言ってくださいよ!」
どおりでさっきから、通行人にチラチラ見られていると思った!
なんかやべー奴いるじゃん……、っていう視線は、万国共通なんだな……。
前を飛んでいく女神アリスを追って、俺は異世界の街並みを歩いていく。
ほどなくして、ダンジョンにはたどり着いた。
俺の印象だと、ダンジョンというのは洞窟や古い遺跡であり、街から遠く離れた場所にぽつんとあるイメージがある。
それは半分合っていて、半分外れ。
ダンジョンの入り口は、古い遺跡のように石造りの門だった。今は開かれていて、地下に続く石階段が見える。思ったよりも大きく、同時に何人も入れそうなくらいだ。
この奥がダンジョンなんだろう。
そして、ダンジョンの周りにはたくさんの人々がおり、建物も並んでいた。
ダンジョンを中心にして広場のようになっているが、その周りを所狭しとばかりに店が乱立しているようだ。
先ほどとはまた違った空気で、いかにも武装したファンタジーな格好の人もよく見かける。
巨大な剣。全身を覆う鎧。
古ぼけた樹でできた杖。マントと大きな帽子。
弓と矢筒を携えた軽装な男性。
ここは賑やかだった。
『この街は、ダンジョンが発見されてから発展していった街です。冒険者が集まり、その冒険者を対象とした商売人が集まってくる。そうして栄えていった街なのです』
「なるほど……」
女神アリスの説明に、俺は小声で相槌を打つ。
さらに女神アリスは、くるりと空中で一回転してから、ダンジョンとは別の方向を指差した。
『そして、あそこが冒険者ギルドです。たくさんの冒険者があそこに集まっています』
指差した先を見ると、ひときわ大きな建物が幅を利かせて建っていた。
普通の民家や飲食店に比べると、一回りも二回りも大きく、威風堂々と門扉が開かれている。
そこに全身鎧の剣士が入っていくのが見えた。
女神アリスはまずはあそこに向かうべきだ、と言っていたが……。
「よし。ダンジョン見学だ!」
『そんな観光地みたいなノリで行くところじゃないんだけどな~……』
女神アリスの呆れた声を聴きながら、俺はダンジョンへと足を踏み出す。
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