第2話
そう思いつつも、俺は言葉を重ねる。
「ですから、俺は父親みたいになりたくない。その教訓を活かすためにも、俺は人を見る目がほしいんです」
「そんな、個人的な後悔でスキルを選ばれても……。本当にちゃんと考えてます? 大学生のサークルくらいのノリで考えてませんか?」
失礼な。
というか、そんな俗っぽいたとえをする女神様も大概だぞ。
「ですが女神様。ダンジョン攻略だというのなら、仲間が必要でしょう。ひとりでダンジョン攻略はきっと難しい。それが最高の剣士でも、魔法使いでも、仲間が必要なんじゃないですか?」
「それは、まぁ……。そのとおりです」
「そのときに、人を見る目は絶対に必要だと思うんです。必要なのは絶対的な英雄じゃない。信頼する仲間なんです!」
「そんなMMORPGの宣伝文句みたいなことを言われても……」
女神アリスはため息をひとつ。
既に若干面倒くさそうに「なんか変な人を拾っちゃったな……」とぺらぺらと本をめくり始める。
う~ん、としばらく唸ってから、やがて動きを止めた。
「では、こちらはどうでしょう。クラフトの才能です」
「クラフト? マインクラフトの、クラフト?」
「まさしく」
彼女が指を振ると、光の中に見覚えのある映像が映し出された。
マインクラフトのゲーム画面だ。
「本当にマイクラじゃん」
「間違えました……。これはわたしが個人的に遊んでいるものなので……、ええと、こちらですね」
しっかりエンチャントしたダイヤ装備のマイクラ画面から、先ほどの映像に切り替わる。
男性が、鉄の塊を持っている。
しかし、次の瞬間、それが男性の手の中で鉄の剣へと姿を変えていった。
「クラフト師は、こうして材料から完成までの工程を無視して、物を作り出すことができます。マイクラでも材料さえあれば、一瞬でアイテムを作れるでしょう。あんな感じです」
「ですが、女神様。これが人を見る目とどう関係が……?」
「クラフト師には、〝観察眼〟というスキルが備わっています。いくらクラフト師でも、材料なしに何かを作ることはできません。何か作りたいものがあった際、それに必要な材料を見極めることができるんです」
「なるほど。つまりレシピですね」
「わたしが丁寧に説明したものをマイクラ用語三文字に略すのはやめてください」
確かに、何かが作りたいものがあっても、その材料がわからなければ困ってしまう。
工程を無視するクラフト師には必要な技能と言えた。
「ちなみに。今は標準装備ですが、昔はレシピ機能なんてなかったんですよ」
「またまた。女神様、冗談がきついですよ。マイクラにレシピがないなんて、そんなの不便すぎるじゃないですか」
「………………」
何やら微妙な顔をしている女神アリスに、続いて問いかける。
「しかし、女神様。そのレシピ機能がなぜ人を見る目に……?」
「レシピ機能と呼ぶのはやめなさい……。この〝観察眼〟はある程度ではありますが、人を見ることができるんです。その人の才能や簡単な善悪……。信用に足る人間かどうか……。遠藤空さん。あなたが求めているのは、こういった能力ではありませんか」
「! そうです、それが欲しいです! めちゃくちゃいいじゃないですか、クラフト師!」
能力だけでも十分に強力に思えたが、その副産物があまりに大きい。
これなら、うちの父親のように人に騙されることも、信用する相手を間違えることもない。
まさしく、俺が望んだ能力だった。
「俺、クラフト師になります!」
「う、ううん……。ですが、このクラフト師はとても前線で戦える能力では……。素直に剣や魔法の才能にしては?」
「何度も言わせないでください。ダンジョン攻略には仲間が必要だと言ったじゃないですか」
「今、神にだいぶ不遜なことを言いました……? あの、わたし神様ですよ……? あなたを生かすも殺すもわたし次第というか、普通なら死んでるんですからね……?」
女神アリスがジトっとした目を向けてくるので、そっと口を閉じる。マイクラ辺りから、だいぶ油断した態度になってしまった。
女神アリスはため息を吐きながら、腰に手を当てる。
この人もだいぶ態度が砕けてきたな。
「難易度の高いMMORPGで、初心者が『格好いいから!』っていう理由で癖の強い職業を選ぼうとしたら、一言言いたくもなるでしょう……。取り返しのつかない要素なんですから……」
「そうやって、経験者が初心者を型にはめようとするのもよくないムーブだと思います」
「一理ありますが……。大体、そういう人って早い段階で嫌になってやめるんですもん……」
女神アリスは再びため息を吐くと、ぷるぷると頭を振った。長い髪が揺れる。
若干疲れた顔つきになっていたが、本をぱたんと閉じた。
「わかりました。あなたの人生です。あなたの物語です。あなたが望んだスキルを与えましょう。では、遠藤空さん。あなたは、こことは違う世界で新たな命を授けます。それでは、いってら!」
女神アリスは最後まで古のMMORPGプレイヤーのような言葉を告げると、俺の足元が急に光り出し、その光に俺は飲み込まれていった。
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