ハズレ職業のクラフト師、最強の仲間たちとダンジョン探索する!
西織
第1話
「はっ……」
俺はガバリと身体を起こす。
目の前に広がっていたはずのトラックは、綺麗さっぱり消えていた。
代わりに、なんとも不可思議な光景が広がっている。
真っ白な世界に、俺は横たわっていたのだ。
「ここは……」
俺はきょろきょろと辺りを見渡す。何も見えない。
白一色の世界には音も一切ない。
さっきまで俺は道路を走っていて、目の前にはトラックが迫っていたのに。
次の瞬間には、この世界で横たわっていた。
かといって病院ではなさそうだし、身体の痛みもない。
勘の鈍い俺でもわかる。
「俺は……、死んだのか……?」
「そのとおりです。遠藤空さん」
ぽつりと呟くと、女性の声が突如響いた。
振り返ると、いつの間にかそこには玉座のように立派な椅子が配置されていた。
そこに座っていたのは、髪の長い女性。
人間離れした美しさを持った、若い女性だった。
白い羽衣に身を包み、長い金色の髪は床に届くほど。
やわらかな表情は笑顔を作っているが、直感的に人ならざる者だとわかるオーラを放っていた。
名乗ってもいないのに、俺の名も知っている。
「あ、あなたは……?」
「わたしは、女神アリス。死後の世界で、あなたを導く者です」
目の前の美しい女性――、女神アリスはそう言った。
死後。
実際に口にされると、実感が強くなってしまう。
「俺は、死んだんですか……」
「はい。ガッツリと」
「あんまり死に対してガッツリって言わない気はしますが……。……あの、これは、もしかして。よくある、なろう小説とかの……」
おそるおそる、女神アリスに問いかける。
このシチュエーションには見覚えがあった。
死んで、死後の世界にいって、神と名乗る存在と出会って。
俺の知っている話だと、このあとは……。
すると、女神アリスはこくりと頷く。
「話が早くて助かります。そうです。わたしは、あなたをこことは違う世界に転生させるために、あなたの前に現れたのです」
「おお……。本物だ……」
俺はつい感嘆の声を漏らしてしまう。
小説でよく見たやつだ! という興奮が俺の息を弾ませていた。
「そして、転生先の世界であなたにやってもらいたいことがあります」
「やります」
「早いです。ちゃんと話を聞いてください」
女神アリスは呆れた声を作る。
ごほん、と咳払いし、女神アリスは指を振った。
そこに光が浮かび上がり、四角を象る。
光の中に、まるでゲームのような光景が映った。
ファンタジーの世界だ。
「こことは、別の世界。この世界には迷宮、ダンジョンと呼ばれるものが存在しています。その中には恐ろしい魔物が徘徊しておりますが、様々な宝が眠っています。人々はその財宝や神秘を求めて、このダンジョンに降りていくのです」
「おお……、剣と魔法の世界だ」
光の中には、薄暗い洞窟のようなものが映っていた。
化け物じみた生物が闊歩しており、人間たちがその化け物と戦っている。
それは鎧を身に着けた剣士だったり、杖から炎を作り出す魔法使いだったり。
ファンタジーRPGのような光景が広がっていた。
「この迷宮の奥底には、あるものが眠っています。それが眠りから覚めると、世界の均衡が崩れるほどのことが起きてしまいます……。なので、あなたにはこのダンジョンに潜ってもらい、最奥に辿り着いてほしいのです」
「やります」
「即決即断すぎる。人の話、ちゃんと聴いてます?」
女神アリスは再び呆れた顔を作り、こちらをじっと見つめてくる。
俺はそんな女神アリスに対し、胸を叩いた。
「だって、きっと断ったらこのまま死ぬんでしょう? それならなんだってやりますよ」
「前向きなのはいいことですが……、いえ、この場合は前のめり、でしょうか……」
女神アリスは不安そうな表情で、顎に指を置いている。
俺にはどうせ現世に未練はないし、かといってこのまま死にたくはない。
なろう小説を読んでいたおかげで、「もしも俺が死んだら」なんて普段から考えていたのが功を奏した。
そしてなにより、重要なことがひとつある。
「それに、転生ということは何かチートスキルをもらえるのでは……?」
俺が期待した目を女神アリスに向けると、彼女はこくりと頷く。
指を振ると、彼女の元に大きな本が落ちてきた。
それをぺらぺらめくりながら、いつの間にか掛けた眼鏡を動かし、女神アリスは口を開く。
「はい。あなたには、たったひとつになりますが、才能を与えましょう。その力で、ダンジョン攻略を目指してください。ええと、何がいいかな……」
女神アリスが本から光に目を向けると、光の中の映像が切り替わる。
そこには、いかにも格好いい剣士が剣を振るう姿が映っていた。
勇敢そうな男の人が、凄まじい剣捌きを見せている。
「たとえば、剣の才能はどうでしょうか。あなたは最強の剣士になることができます。もしくは、魔法の才能。歴代最高の魔法使いになることだって、あなたには可能です。頑丈な身体を手に入れて、仲間たちの盾となるのもいいでしょう……」
映像の中では、派手に戦う英雄じみた人の姿が目まぐるしく切り替わっていく。
俺はそれらに目もくれず、大声で主張した。
「それなら、俺は人を見る才能が欲しいです! 人を見る目!」
「……人を見る目?」
女神アリスが怪訝な顔になる。
俺は構わず、自分の主張を続けた。
「はい。相手が善人か悪人か、その人の良し悪し、嘘を見抜き、素質を見られるような……。そんな目が欲しいんです」
「いえ、言葉の意味がわからなくて聞き返したわけでは……。え、人を見る目? なぜ? ダンジョン攻略だと言いましたよね? やっぱり、人の話を聞いていないのでは?」
女神アリスが困惑した表情を作るので、俺は手を振って答えた。
「俺の父親は、人を見る目がありませんでした。信用しちゃいけない人を信じ、騙され、借金だらけになって家族を破滅へと導いたんです……。俺は、借金取りから逃げる途中で道路に飛び出し、トラックに轢かれて、この様です」
「えぇ、可哀想……」
「可哀想でしょう……」
「いえ、飛び出したあなたを轢いた運転手が……」
そっち?
いや確かに俺としてもだいぶ申し訳ないけど、俺は命を落としてるんですけど?
もう少し同情してくれてもよくない?
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