第34話:人手不足・佐藤克也視点

「ここは開墾しちゃダメなの?」


 まだやり足らなくて、もっと開墾したくて、イワナガヒメに聞いた。

 広くて厚みのある森が残っているから、開墾しても良いように思った。

 元から住んでいた魔獣や魔神は黄泉国に移住したから、だいじょうぶだと思った。


「はい、ここはこれ以上森を切り開いてはいけません」


「どうしてなの?」


「ここは隣国との国境にある森です。

 ここを開墾し過ぎると、隣国が攻め込みやすくなります。

 我が国が隣国を攻め込みやすくもなります。

 お互いを疑って戦いにならないように、手をつけないようにしています」


「それは話し合って決めた事なの?」


「克也様が王となられてからは話し合っていませんが、前王家の時代には何度も話し合われています」


「僕は日本に帰るから、前王家の人が跡を継ぐんだよね?」

 

 シャルロッテとアレクサンダーの方を見ながら聞いた。

 一瞬シュテファニーの顔を思い出したけれど、直ぐに消えた。


「はい、克也様が望まれればそうなります」


「あの2人が僕の跡を継いでくれた時に困るんだよね」


「はい、どちらが国を継ぐことになっても困ります。

 私たちが望んだように物事が進めば、克也様とシャルロッテと間に生まれた子供が時代の統治者に成りますが、絶対ではありません。

 シャルロッテかアレクサンダー跡を継ぐこともありえます」


「……僕とシャルロッテが結婚するの?」


「はい、それが1番争いのない状態で克也様が日本に戻れる方法になります」


「結婚も子供も全然わからないよ」


「克也様は何も気にされなくていいのです。

 他の氏神たちや神使たちが考えている通りにしなくても良いのです。

 克也様は自分がやりたい事をやってくださればいいのです。

 何をなされても私が支えさせていただきます」


「でも、ここは開墾しない方が良いんだよね?」


「どうしても開墾したいと申されるのでしたら、止めません。

 隣国との争いを覚悟してお手伝いさせていただきます。

 ですが、戦争が始まって人が殺し合うのは嫌でしょう?」


「うん、嫌だよ、絶対に嫌だ。

 でも、それでも開拓したいと言ったらどうしてくれるの?」


「問題のない場所を探して開墾してもらいます。

 絶対ここでなければいけない訳ではないでしょう?

 開墾できるのならどこでも良いのでしょう?

 陳国と争いが起こらない森がいくらでもあります。

 この国に良い場所がなければ、他の国にも森があります」


「いつも僕の事を考えてくれてありがとう、そこに連れて行ってくれる?」


「はい、お望みならば今直ぐ連れて行かせていただきます」


 僕がワガママを言っても、イワナガヒメはかなえてくれる。

 意地悪な言い方をしても、優しく受け止めてくれる。

 僕が本当に嫌がっている事は絶対にしないし、誰にもさせない。


 僕がアンデットや魔獣を移住させたいと思っているのを知っているから、先にアンデットや魔獣のいる所を調べてくれている。

 イザナミノミコトは僕のために広くて安全な黄泉国をたくさん創ってくれる。


「連れて行って、思いっきり開墾できる場所に連れて行って」


「はい、では参りましょう」


 僕はイワナガヒメたちが連れて行ってくれた場所を開墾した。

 13人の氏神様が重ね掛けしてくれた身体強化を使って、全力をだして隅から隅まで開墾した。


 平野部の耕作しやすい場所から開墾した。

 開墾して種をまくまでは僕がやったが、その後は国民に任せた。

 だけど直ぐに人が足らなくなってしまった。


 僕が王様の代わりをするようになった国は、日本に比べたらすごく小さな国で、王都と近くの街や村しかない。


 1番人の多い王都でも5万人しか住んでいないという。

 王都の人は王都の周辺を開墾した農地で手一杯だ。

 

 普通の村で100人、都市と言われるような街でも500人しかいない。

 僕が開墾した村や街の周囲にある農地すら人が足らない。

『広い農地を少数で手入れするから効率が悪い』とワクムスビが言っている。


 このままでは、僕が開墾した街道脇の畑を手入れする人がいない。

 これまではアンデットや魔獣が怖くて人が住めなかった場所も、僕たちがアンデットや魔獣を黄泉国に移住させたので、とても安全な場所になった。


 でも、食べる物がないと人は生きていけない。

 安全な場所があっても、食べる物がないと生きていけない。


 だから開墾して食べる物を作れるようにした。

 とは言っても、最初の実りを収穫できるまでは何も食べる物がない。

 最初の収穫まで食べて行けるだけの食糧がないと、移住なんてできない。


 普通ならそうなんだけど、僕が氏神様たちに手伝ってもらって、もの凄く早く収穫した小麦や大麦、米やソバがたくさんある。

 氏神様たちの魔力を使ってもらって、ズルして早くたくさん収穫した穀物がある。


 なのに、人が食べる食糧はいくらでもあるのに、人がいない。

 僕が開墾した田んぼや畑を耕してくれる人がいない。

 また僕と氏神たちで育てて、収穫しなければいけないのかな?


「克也様、農地を耕す人手が欲しいのでしたら、他所の国で貧しい生活をしている者を集められますか?

 克也様は嫌がられるかもしれませんが、ドレイを買って働かせる方法もありますが、いかがなされますか?」


「ドレイは嫌だから、貧しい人を集める方が良いよ」


「では、人を集めに他の国に行きましょう」

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