第33話:農地開墾・佐藤克也視点

「天国では暮らせない者たち、恨みを捨てきれない哀しき者たち。

 彼らの想いをそのまま受け入れる大きな心を持つイザナミノミコトよ。

 アンデッドが恨みを持ったまま暮らせる、ヨミの国の女王ヨモツオオカミでもあるイザナミノミコトよ。

 このままの彼らを受け入れてあげてください、お願いいたします、エントリ」


 僕は毎日この国の領地を周ってアンデットを移住させ続けた。

 イザナミノミコトが創ってくれた黄泉国に移住させ続けた。

 今では10個もの黄泉国があって、アンデットたちが幸せに暮らしている。


「悪しき神に目を付けられたかわいそうな者たち。

 この世界ではどこに行っても悪しき神に殺されてしまう者たち。

 そんな彼らに安住の地を与える大きな心を持つイザナミノミコトよ。

 ケット・シーが誰にも殺される事なく幸せに暮らせる場所、悪神に殺される事なく幸せに暮らせる場所、黄泉国の女王ヨモツオオカミでもあるイザナミノミコトよ。

 このままの彼らを受け入れてあげてください、お願いいたします、エントリ」


 悪神は性格が悪いだけでなく、あきらめも悪い。

 何度失敗しても新たな信者を手に入れようとする。

 自分よりも弱い神の信者を横取りしようとする。


 僕は、僕や僕の大切な人に手を出してきた時だけ戦うつもりだった。

 もの凄く性格の悪い神様でも、生きている命だから、殺さないと思った。

 魔獣を殺さないと決めている僕が、神様を殺す気にはならなかった。


 だけど、僕を守るためについて来てくれた氏神様たちは違った。

 あまりにもしつこく僕を狙う悪神に切れてしまった。

 短気なスサノオノミコトとヒノカグツチノカミが激怒して飛び出していった。


 そのまま悪神を追い回して殺そうとした。

 殺してしまっていたら、僕は心を痛めていたと思う。

 もしかしたら、罪の意識で寝込んでいたかもしれない。


 だけど、僕をこの世界に召喚させた悪い神は、悪神と言われるくらい多くの人や魔獣に憎まれているのに、他の神に滅ぼされていない。


 氏神様たちから様たちから逃げ回っているからたいして強くないのだろうけれど、悪運が強いのだと思う、スサノオノミコトとヒノカグツチノカミから逃げきった。


 ただ、スサノオノミコトとヒノカグツチノカミに追い回されたのがあまりにも怖かったのか、僕に近づかなくなった。


 これまではしつこく僕を狙っていたけれど、今は遠く離れた場所で信者を増やしていると、イワナガヒメが教えてくれた。


『今なら安心して国内と周辺を見て回れますよ』イワナガヒメがそう言ってくれたので、言ってくれた通り国中を周ってアンデットと魔獣を黄泉国に移住させた。

 イザナミノミコトが必要な黄泉国を創ってくれたので、全員移住させられた。


 ★★★★★★


「金狐殿、この切り株を引き抜けばいいのですか?」


 僕のパーティメンバーになったアレクサンダーが、金色の狐が人に変化した僕の従者に聞く。


 金色の狐は僕の代わりに異世界人と話をしてくれる。

 お供の氏神様たちや神使たち以外とは話さなくなったので、とても楽だ。


 森を切り開いて農地を広げるのに、農作業をするのに、両手がないと困るので、多くの神使が人に変化してくれている。


 氏神様たちは犬と雉と猿のままだけど、僕の護衛だから人に変化しなくていい。

 僕がそのままの姿の方が好きと言ったから、人に変化していない。


 アレクサンダーが護衛に守られながら切り株に近づく。

 僕には僕の護衛がいて、僕を護ってくれている。

 アレクサンダーたちにはアレクサンダーたちの護衛がいて、2人を護っている。


 主人のアレクサンダーが農作業をしているのに、家臣の護衛は農作業をしない。

 僕には普通の事だけれど、アレクサンダーたちは困っていた。


 身分のある世界と身分のない世界では常識が違うようだ。

 そうは言っても、生まれてからずっと病院で暮らしていた僕は、日本の常識も地球の常識も知らないから、全部僕が間違っているのかもしれない。


 間違っていてもいい、異世界に来たのだから好きな事を好きなようにする。

 森の樹木を切り倒して材木にするだけではなく、残った切り株も引き抜く。

 その後で大小の石を取り除いて農地にするのだ。


「はい、引き抜いてください」


 アレクサンダーが1人で切り株を引き抜こうとする。

 だけど家臣にかけてもらった身体強化だけでは弱くて引き抜けない。

 この世界の魔術は、僕が使う祝詞や呪文、魔術よりも弱い。

 

「私も手伝うわ」


 双子の姉、シャルロッテが手伝いに駆け寄る。

 二卵性で見た目が全然似ていない双子だけど、とても仲がいい。

 常に一緒にいて助け合っているのがうらやましい。


 2人それぞれに護衛騎士がいるけれど、同年代が1人ずつ。

 父親と同じ世代が2人ずつの6人しかいない。

 2人同時に守った方が効率的だとスサノオノミコトが言っていた。


 仲が良く見えているのはそのためかもしれない。

 直接話した事はないけれど、見ているだけで仲が良く見える。


「「いっせいのう」」


 2人で息を合わせて切り株を抜いた。

 飛び出した根の分だけ地面に大きな穴が開いている。

 切り株を引き抜けたのがうれしいのだろう、良い笑顔を浮かべている。


 僕も負けていられないので、14人分重ね掛けした身体強化を使う。

 2人のやる気がなくならないように、遠く離れた見えない場所にまで行く。


 氏神様のかけてくれる身体強化は、人間がかける身体強化とは比較にならないくらい強力で、人間がかけた身体強化では引く抜けない切り株を楽々と引き抜く。


 1人の神様がかけてくれた身体強化でも5倍は強いらしい。

 それを13人も重ね掛けしてくれるから、アレクサンダーやシャルロッテとは全く比較にならないくらい力強い。


 その力を使って予定している範囲の樹木を切り倒していく。

 切り株も引き抜き続け、じゃまになる大小の岩、大小の石を取り除く。


「克也様、これ以上は開墾しないでください。

 木々を残しておかないと、遠くから薪を運んで来なければいけなくなります。

 農地と森は適度な割合にしなければいけません」


 もっと開墾したいのに、イワナガヒメに止められてしまった


「もっと働きたいよ、他に開墾してもいい場所はないの?」

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