第26話:引っ越し・佐藤克也視点

「絶対の力を持たれる唯一の神様、私にアンデットを浄化する力を与えたまえ。

 けがれた存在であるアンデットを浄化して滅ぼす力を与えたまえ。

 ピュリフィケーション! ターンアンデッド!」


 シュテファニーが成仏や異界送りをあきらめた。

 僕の世界の神様に頼るのもあきらめた。

 自分の世界の神、自国の神、唯一神の力を借りて浄化する事にした。


 この世界の人間であるシュテファニーには、この世界の神があっていた。

 1度に1体だけど、ちゃんと浄化できるようになった。

 ただ、浄化されるアンデッドが凄く苦しそうだ。


 そんな、アンデッドを苦しませる浄化をするこの世界の神は、好きになれない。

 いや、ぐうぜん僕を助けてくれたけれど、イワナガヒメから色々教えてもらったので、絶対に許せないと思っている。


「克也様、もう浄化ができないくらいシュテファニーが疲れています。

 ここは1度城に戻った方が良いです」


 イワナガヒメはそう言うが、僕はまだ何もしていない。

 1体のアンデッドも成仏させていない。

 昨晩もの凄い戦いができたのに、今日は何もできていない!


「……うん……分かった」


 昨晩ワガママを言ったばかりだから、今日はガマンする。


 ★★★★★★

 

「克也様、アンデットが集まっている森を発見しました。

 足手まといのシュテファニーもいなくなりました、成仏させに行かれますか?」


「え、いいの、アンデットを成仏させても良いの?」


「はい、かまいません。

 シュテファニーにちょうど良い、弱いアンデットのいる場所は、克也様が成仏させると一瞬で終わってしまいます。

 あの場所はシュテファニーだけにやらせます。

 克也様の強さにあった場所を見つけましたので、そこに行きましょう」


「ありがとう、僕のために探してくれたんだよね?

 夜も寝ずに探してくれたの?

 昨日僕がワガママを言ったから、急いで探してくれたの?

 ごめんね、ワガママばかり言って、ありがとう!」


 イワナガヒメが連れて行ってくれたのは草原だった。

 

「ここは人の国とコボルトの国が戦った場所です。

 多くの兵士が殺し合い、死んでいった場所です。

 王や貴族に命じられた者たちが、無理矢理戦わされて死んだのです。

 その無念な想い、恨みと怒りが死者を天国に向かわせずアンデットにしました。

 彼らを天国に向かわせるよりは、恨みを晴らさせてやる方が良いと思います」


「それは、成仏させちゃいけないの?」


「はい、今はまだ成仏させてはいけません」


「だったら、いつ成仏させてあげられるの?」


「恨みを晴らさせてあげてからです。

 そうすれば、アンデットは自ら進んで成仏してくれます。

 今のままでは、黄泉の国に移住させるか、浄化で滅ぼすしかありません」


「え、浄化はダメなの、アンデットにはやっちゃダメなの?」


「この世界では普通にやられている事ですが、地球では悪しき事です。

 天国や黄泉の国に行けば、いつかは生まれ変わることができます。

 ですが、浄化という名目で滅ぼしてしまうと、生まれ変われないのです」


「分かった、そんなひどい事はできないね、浄化だけは絶対にしないよ。

 成仏させてあげられないのなら、黄泉の国に移住させてあげれば良いんだね?」


「はい、その通りでございます。

 成仏のようにはレベルが上がりませんが、ガマンされてください」


「そんな事言わないで、殺すのが嫌なんだから、滅ぼすのはもっと嫌だよ。

 ガマンするんじゃないよ、よろこんで移住させてあげるよ」


 イワナガヒメが教えてくれたので、僕は間違えずにすんだ。

 かわいそうなアンデットたちを滅ぼして、生まれ変わる事もできなくする。

 そんな悪い事をしないですんだ。


 「天国では暮らせない者たち、恨みを捨てきれない哀しき者たち。

 彼らの想いをそのまま受け入れる、大きな心を持つイザナミノミコト。

 アンデッドが恨みを持ったまま暮らせる、黄泉の国の女王ヨモツオオカミでもあるイザナミノミコト。

 このままの彼らを受け入れてあげてください、お願いいたします、エントリ」


 お供の1人イザナミノミコトは、光孝大爺ちゃんの神社の神様だった。

 13人のお供全員が、光孝大爺ちゃんの神社に祀られている氏神様だった。

 ただ本人ではなく、分霊という双子か子供のような人らしい。


 でも、分霊だけど、元の氏神様と同じ力を使えるという。

 光孝大爺ちゃんの神社に祀られている氏神様と同じではなく、大元のイザナミノミコトと同じ力を使えるという。


 だから、この世界に黄泉国と同じような異界を創ってくれた。

 その異界を、恨みを忘れられないアンデットの国にしてくれた。

 恨みをぶつけるべき相手を見つけるまで、移住させてくれる。


 だから僕は、力の続く限りアンデットを移住させてあげる。

 レベルはあまり上がらないけれど、そんな事はどうでもいい。

 自分のレベル上げよりも、かわいそうなアンデット助けてあげたい!


「イワナガヒメ、ここはもう大丈夫なの?

 かわいそうなアンデットは全部引っ越しできた?」


「はい、ここにいたアンデッドは全員移住しました。

 克也様の彼らを想う心が分かったので、よろこんで引っ越して行きました。

 別の古戦場にも、この世界の神にふくしゅうしたいアンデットたちがいます。

 彼らも助けてあげられますか?」


「うん、僕にできるなら、急いで助けてあげる」

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