第15話:閑話・たおせない・イワナガヒメ視点

(イノシシに似た魔獣をたおせない、胸が痛くなるんだ!

 また心臓が悪くなったのかな、怖いよ、助けてよ!)


 克也の悲痛な想いがヒシヒシと伝わってきます。

 愛し子の不安と恐怖が手に取るように分かります。

 直ぐに何とかしてあげないと、また夢の中でまで苦しみます。


 即座に安心させてあげました。

 何の問題もありません、本当の事を言ってあげるだけで良いのです。


 胸が痛いのは克也の優しさからくる心の痛みです。

 心臓が悪くなった訳ではないので、本当の事を教えてあげれば良いだけです。

 大人になって鈍くなれば何も感じなくなります。


「魔獣を退治しなくて良いなら心が痛くならないね!

 豆まきで改心させられるなら胸が痛くならないね、また一緒に豆まきしようね」


 克也と一緒に豆まきをして魔獣やモンスターを改心させる。

 何と楽しみな事でしょう、望むところです。

 今日にも一緒に豆まきしようと思っていたのですが……


「だけど、それだと、アニメで観ていたような冒険ができないね。

 冒険では、魔獣やモンスターをたおしてレベルを上げていたけれど、心が痛くなってたおせない僕では、レベルを上げられないね」


 かわいそうに、心臓が治って身体を使えるようになったのに、冒険ができない。

 何としてでも冒険ができるようにしてあげなければ!


「克也様が胸を痛めない魔獣やモンスターなら良いでしょう?

 スライムがよくて動物に似た魔獣が駄目なのなら、魚はどうです?」


 水神のミヅハノメの提案で海の魔獣を退治する事になりました。

 半魚人や人魚が出てくる場所はさけました。


 絶対に人型や魔獣型のモンスターが現れない海を選びました。

 魚や貝のモンスターしか現れない海を選んだのですが……


「かわいそうだよ、お魚を殺すのはかわいそうだよ!」


 ダメでした、魚型でもダメでした!


「こんなきれいな姿をしているなんて知らなかったよ。

 タブレットで観ていたよりもずっときれいだよ。

 仲間と一緒に群れを作っているのを皆殺しになんてできないよ!」


 失敗でした、もっと過去にさかのぼって克也の全部を見ておけばよかった。

 克也が食べていた魚が、全部切り身だった!

 ずっと病院にいたから、魚をさばく所を見た事もなかったのです。


 40年くらい前から、人の子が愚かになったと言われていた。

 子供に絵をかかせると、鳥を足を4本かいたり、魚に足をつけたりしていました。

 海に泳ぐ魚をかかせたら、魚の切り身が海を泳ぐ絵をかいた子供がいました。


 まさか、私の愛しい克也が、泳ぐ魚と食べる魚を別の生き物だと思っていたなんて、考えもしていなかった。


「克也様、だいじょうぶですよ、無理に魚のモンスターを殺さなくても良いですよ。

 海にもスライムがいますから、それを退治しましょう。

 陸のスライムよりも大きくて強いですから、良い経験になります。

 陸のスライムを退治するよりも早くレべルが上がりますよ」


 水神ミヅハノメが私たちに謝る克也をなぐさめてくれます。

 スライムさえたおせれば良いと言ってくれます。

 それで丸く収まれば良かったのですが……


「ダメだよ、できないよ、海のスライムてクラゲだよね?

 クラゲはかわいいよ、大好きだったんだよ。

 病院にいる時に、さみしくて悲しくて不安な時に、クラゲを観ていたんだ。

 クラゲを見てなぐさめられていたんだ。

 そんなクラゲを退治できないよ、殺せないよ!」


 克也が何度も謝って、もの凄く申し訳なさそうにします。

 私がもっと克也の事を分かってあげていたら、こんな事にはならなかった。

 克也を追い込んだのは私です、私が何とかしてあげないといけません!


「だいじょうぶですよ、克也様、何の心配もありません。

 クラゲがかわいいのは私も同じで、無理に退治する事はありません。

 話し合えるほど賢くないので、言い聞かせる事はできませんから見逃しましょう。

 弱いモンスターなので、人の害になる事もありません、安心してください」


「本当にだいじょうぶなの?

 僕が退治しなくても、弱い人が困らない?」


「困りません、大丈夫です、クラゲ程度で人は困りません。

 克也様は、人を食べたり困らせたりする魔獣を改心させましょう。

 海にも人を食べる魔獣がいるのです。

 陸の魔獣と同じように、豆まきして改心させましょう」


「うん、やる、みんなと一緒に豆まきして海の魔獣を改心させる!」


 上手く克也を誘導する事ができました。

 みんなと一緒に豆まきする事で、悲しい表情が笑顔に変わりました。

 その笑顔が失われないように、細心の注意を払いました。


 海には色んな魔獣がいますが、半魚人や人魚が現れない地域にしたのがよかった。

 こんな状況で半魚人や人魚に豆をぶつけたら、克也が泣いてしまいます。

 トドやアザラシが現れない場所なのも良かったです。


 克也が心から怖いと思える、サメの魔獣に豆まきできて良かった。

 克也が人間を襲うサメの映画を見ていてよかった。

 そうでなかったら、克也はサメに豆まきをするのも嫌がったかもしれません。


「イワナガヒメ、次の冒険まで時間を空けた方が良い。

 1度人の城に戻って、克也の心を休ませた方が良い。

 このままではスライムも殺せなくなってしまよ」


「はい、私もそう思っていました。

 何か良い方法があれば教えてくださいイザナミノミコト」

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