第14話:たおせない・佐藤克也視点

「イワナガヒメ、僕、スライムしかたおせないんだ。

 イノシシに似た魔獣やウシに似た魔獣をたおそうとしたら、胸が痛くなるんだ。

 僕、また心臓が悪くなっちゃったの?」


 3日間1人で心配していたけれど、不安で、怖くて、悲しくなった。

 また心臓が悪くなったと言われるのが怖くて、なかなか言えなかった。

 でも、思い切ってイワナガヒメに相談した。


「だいじょうぶでございますよ、心臓が悪くなったのではありません。

 克也様が地球の動物に似た魔獣をかわいそうに思っただけです。

 動物に似た魔獣を殺したくなくて、心が痛んだだけです。

 心臓は健康ですから、安心されてください。

 どうしても心配だったら、走ってみてください、元気に走れますよ」


 イワナガヒメにそう言われたので、思いっきり走ってみた。

 病院ではベッドで起き上がるだけで苦しかった。

 なのに、どれだけ走っても痛くなかった!


「痛くないよ、こんなに走っても痛くないよ!

 僕の心臓が悪くなったんじゃないんだね、心が痛いだけなんだね?!」


「はい、心臓が痛いのではありません、心が痛いのです、安心されてください」


「びっくりしたよ、心がこんなに痛くなるなんて知らなかった。

 あ、心が痛くなるのも病気なの?!」


「心が病気になって痛い時もありますが、今回は違います、だいじょうぶです。

 魔獣を殺すのがかわいそうで痛くなっただけです。

 魔獣を退治しなければいけないと思う心と、かわいそうだと思う心。

 その2つの心がぶつかって、痛くなっただけです、安心されてください」


「心臓が悪くないのが分かって安心した、ありがとう。

 でも、魔獣をたおせないのはいけない事だよね?

 僕が魔獣を退治しないと、たくさんの人が困るんだよね?」


「だいじょうぶでございます、安心されてください。

 この前イノシシに似た魔獣を退治せず、改心させる事になったではありませんか。

 他の魔獣も同じでございます、退治せずに改心させればいいのです」


「よかった、退治しないでも良いなら、心が痛くならないね!

 改心させる豆まきを、また一緒にしようね」


「はい、いつでもお手伝いさせていただきます」


「だけど、それだと、アニメで観ていたような冒険ができないね。

 冒険では、魔獣やモンスターをたおしてレベルを上げていたけれど、心が痛くなってたおせない僕では、レベルを上げられないね」


「そうですね、お優しい克也様は、魔獣やモンスターをたおしてレベルが上げられませんね、何か別の方法でレベルを上げられないか考えましょう」


「あるの、別の方法があるの?!」


「私では直ぐに良い方法が思い浮かびませんが、他のお供と一緒に考えます。

 少しお待ち願えますか?」


「うん、いいよ、いくらでも待つよ、でも無理しないでね」


「はい、無理はいたしませんので、ご安心ください。

 アマテラス、イザナミノミコト、スサノオノミコト、イザナギ、ミヅハノメ何か良い方法はありませんか?」


「魔獣やモンスターをたおさずにレベルを上げるなら、修練でしょう。

 きびしい修練する事で腕を上げていくのは、人間の基本です」


「アマテラスの言う通りですが、克也様に厳しい修練をしていただくのは……」


「だいじょうぶだよ、僕がんばるよ。

 アニメでも、主人公ががんばって練習していたから、僕もがんばるよ」


「克也様もこう言っておられるのだ、修練でレベルアップしていただこう」


「スサノオノミコトはそう言いますが、最近のアニメでは、何の努力もせずに最初から最強で無双するのが主流になっているのです」


「努力もせずに強くなって何がおもしろいんだ?

 そもそもなんでイワナガヒメがそんな事を知っているのだ?!」


「克也様の為に勉強したに決まっているでしょう。

 それに、何の努力もせずに強いのはおもしろくないと言いますが、スサノオノミコトもアマテラスも生まれもって強いではありませんか。

 イザナミノミコトとイザナギの間に生まれ、生まれた時から三貴神になっているではありませんか、生まれながらの最強が無双する事の何が悪いのです!」


「……いや……そう言われると……何も言えないが……」


 イワナガヒメがスサノオノミコトを言い負かしました。


「イワナガヒメの言う通りですが、克也様は冒険をして強くなりたいのでしょう。

 だったら何か冒険でレベルが上がる方法を考えましょう。

 その1つとして、少し修練して頂けばいいでしょう」


 アマテラスがイワナガヒメを言い負かしました。


「おお、そうだ、それがいい、冒険しながら修練して頂こう」


「私は最初からその冒険を考えてくれと言っているのです!

 他に何か考えはありませんか?!」


「克也様が胸を痛めない魔獣やモンスターなら良いでしょう?

 スライムがよくて、動物に似た魔獣がダメなのなら、魚はどうです?」


「良く言ってくれましたミヅハノメ、魚なら大丈夫かもしれません。

 克也様、魚の魔獣はどうですか、胸が痛みますか?」


「分からないよ、たおそうと思った事もないから、分からないよ」


「そうでしたね、草原に魚の魔獣はいませんでしたね。

 海に行きましょう、海に行って魚の魔獣をたおせるか確かめましょう」


 お供のみんなが僕のために考えてくれて、海に行く事になった。

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