第12話:「鬼は内!福は外!」佐藤克也視点

「「「「「鬼は内!福は外!」」」」」


 お供の犬と雉と猿がイノシシに似た魔獣に豆をぶつけてくれます。

 話して聞かせようとした僕に襲い掛かって来たイノシシに似た魔獣たちに、豆をぶつけて動けなくしてくれています。


「ありがとう、イワナガヒメ。

 イワナガヒメが助けてくれなかったら、僕死んでいたよ」


 まだスライムしかたおした事がない僕では、イノシシに似た魔獣はたおせません。

 大きな牙を向けて襲い掛かって来るイノシシに似た魔獣は、とても怖かった。

 もっとたくさんスライムをたおして、強くならないといけません。


「お礼など不要でございます。

 お供する者たちは、克也様を守るために集まったのでございます。

 克也様が何をなされようと、必ず護らせていただきます。

 安心して思い通りにされてください」


 イワナガヒメはとても優しいです。

 柔らかな毛が温かい、大きな胸に抱きしめてくれます。

 とても安心できる、すぐ眠くなってしまう大きな胸です。


「うん、ありがとう、すごく助かったよ。

 でも、もう勝手な事はしないよ。

 僕が勝手な事をしたら、お供のみんなががんばらないといけなくなるんだね。

 みんなががんばらなくても良いように、もう勝手な事はしないよ」


 僕がイザナミノミコトの言う通りにしなかったから、みんなが大変だった。

 イワナガヒメの言う通り、直ぐに守ってくれたから危なくなかった。

 でも、やらなくても良い事をやってもらう事になって、忙しくさせてしまった。


「そんな事は気にされなくて良いのですよ、思い通りにされて良いのですよ。

 ですが、周りの者を想う気持ちは大切です。

 今の気持ちを忘れないようにされてください。

 そうすれば、克也様の周りにいる人々が幸せになります」


 イワナガヒメはとても優しくて、僕の失敗を正しい事のように言ってくれる。

 その通りだったらうれしいのだけれど、間違っていたら困る。

 厳しい事を言ってくれたイザナミノミコトに、正しいのか確かめないといけない。


「うん、忘れない、もう間違わないよ。

 僕を守ろうとして、お供のみんなが困らないようにする。

 魔獣たちが痛い想いをするのも、しかたがない事だと思うようにするよ」


「私たちも克也様の優しいお心を無にしないようにします、安心されてください。

 痛い思いをさせますが、できるだけ少ない痛みにします。

 今豆をぶつけているイノシシに似た魔獣たちも、できるだけ早く改心させます」


 イワナガヒメはとても優しくて、僕を大切にしてくれる。

 大切にしてくれるのが分かっているから、甘え過ぎてはいけない。

 過保護はいけないと、タブレットにもでていた。


「ありがとう、そうしてくれたらうれしいよ。

 だけど、みんなに危険がないようにして。

 僕がバカだったんだ、自分が殺されそうになって、初めて危険なのが分かったよ。

 実際にやってみるまでは、自分が殺されそうになるまでは、どれだけ危険な事をやって欲しいと言っていたのか、全然わかっていなかったよ」


「良く成長されましたね、うれしいです。

 克也様が成長するためなら、少々の危険など何ともありません。

 いえ、最初から危険などありません。

 私たち克也様のお供は、魔獣ごときには負けません。

 克也様は想いのままに振舞われたらいいのです。

 その過程で成長して頂けるなら、それが1番でございます」


 うん、甘やかされている、間違いなく過保護だ。

 イワナガヒメは僕を大切に思い過ぎて、過保護になっているんだ。


「ありがとう、イワナガヒメ、僕も豆をまくよ。

 自分がやりたくない事をイワナガヒメたちだけにやらせたりしないよ。

 鬼は内!福は外!」


 僕もイノシシに似た魔獣に豆をぶつけた。

 僕の投げる豆は軽くて、イノシシに似た魔獣は平気だった。

 でも、一緒に投げてくれるイワナガヒメたちの豆は重くて痛いようだ。


 イノシシに似た魔獣が必死で逃げ回るのだけど、どこにも逃げられない。

 11人ものお供が囲んで豆をぶつけるから、思い通りの場所に追い込まれる。

 遠くに逃げられたと思っても、直ぐに僕の前にやってくる。


 何度も僕の前からいなくなる、遠くまで逃げ回ってから、またやってくる。

 だんだん元気がなくなって、死んでしまわないか心配になった。

 もうやめてあげてと言いたかったけれど、がんばって言わなかった。


「「「「「鬼は内!福は外!」」」」」


 僕が止めてと言ったら、お供のみんなは止めてくれる。

 でもそれでは、またこの世界に人たちがイノシシに似た魔獣に食べられてしまう。


 お供のみんなは強いから食べられないと思う。

 僕は弱いけれど、お供のみんなが護ってくれるから食べられないと思う。

 僕たちは大丈夫だけれど、この世界の人たちは食べられてしまう。


 それがどれだけ怖い事なのか、自分が殺されそうになるまで分からなかった。

 安全な所から許してあげろと言うのが、身勝手なのを分かっていなかった。


 もう同じ事はしない、この世界の人たちだけが食べられるのは不公平だ。

 自分は安全な場所にいて、そんな事を言うのは、ひきょうだ。


「克也様、魔獣たちが克也様に仕えたいと申しております、いかがなされますか?」

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