第11話:豆まき・佐藤克也視点

「どうして、仲良くしたいのに、どうして豆をぶつけるの?」


 魔獣に豆をぶつけろと言う黒くて大きな犬、イザナミノミコトに聞いた。


「魔獣は人を食べてしまう悪い生き物なのです。

 最初は力を使って、人を食べてはいけないと教えなければなりません。

 刀で斬ると死んでしまうので、死なないように豆をぶつけるのです」


「最初から豆をぶつけるなんて、かわいそうだよ。

 最初は言って聞かせようよ、人を食べないように言って聞かせようよ」


「魔獣さえも思いやる、克也様のお優しい気持ちは立派でございます。

 しかしながら、その克也様の優しさは、魔獣に伝わらないのです」


「伝わるかどうかは、やってみなければ分からないよ。

 僕にやらせてみてよ、想いは通じるはずだよ。

 タブレットで観たアニメでは通じていたよ。

 僕がこうしてアニメと同じように異世界に召喚されたんだ。

 アニメと同じように想いが通じるはずだよ」


「克也様が異世界に召喚されたのは、想いが通じたからではありません。

 異世界の神が神々の掟を破る悪事を行ったから、異世界に召喚されたのです。

 克也様の曾祖父が神主を務める神社に祀られている神々が、克也様を治すために異世界の神の掟破りを見逃したから、異世界に召喚されたのです。

 アニメと同じように想いが通じたからではありません」


「そんな!」


「イザナミノミコト、克也様に厳しく言うのはやめてください」


「何を言っているのですか、克也様を危険な目にあわす気ですか?!」


 白くて大きな犬、イワナガヒメが僕の味方をしてくれる。


「どこに危険があると言うのです?

 私やイザナミノミコトが護っているのですよ?

 イノシシ魔獣など、襲ってきたら直ぐに殺せるではありませんか」


「簡単に殺せますが、だからといって油断は禁物です、油断大敵ですよ」


「大切な克也様を御守りしているのです、油断などしません。

 誰が襲ってきても、指1本触れさせません。

 お優しい克也様の想いを踏みにじるようなら、八つ裂きにするだけです」


「イワナガヒメ、八つ裂きはかわいそうだよ。

 心を入れ変えない大悪人でも、殺さずに捕らえるのが優しい人だと、アニメだけでなくテレビ局の偉い人も言っていたよ。

 どれほどたくさんの人を殺した悪い奴でも、許して心を入れ替える機会を与えるべきだと、家族を殺された人たちに言っていたよ」


「克也様はそれが正しいと思っておられるのですか?」


「え、違うの、正しいからテレビでやっているんだよね?」


「それは……克也様がもう少し大きくなられてから考えてみてください。

 この世界に居られるあいだは、この世界のやり方に従われるべきです。

 克也様は、地球からこの世界に来られたお客さんです。

 この世界に人々に、自分のやり方を無理矢理押し付ける気ですか?」


「あ、そうか、僕が正しいと思っていても、この世界では違うのか?

 あ、でも、だったらこの国の王様や貴族が僕にあいさつさせようとしたのも、正しかったんじゃないの?」


「あ~、それは~、え~と」


 イワナガヒメが困っている、大好きなイワナガヒメを困らせたくない。


「克也様、あの王は、この世界に人々を苦しめていた、悪い王だったのです。

 だからこそ、多くの人が克也様に感謝していました。

 城のテラスから手を振った時に、多くの人々がよろこんでいたでしょう?

 この世界のやり方も、多くの人が思っているやり方が正しいのです。

 少数の人間が、多くの人を無理矢理従わせるやり方は悪いのです」


 イザナミノミコトが教えてくれた。


「知っている、僕それ知っている、多数決でしょう?」


「はい、その通りです、多数決です、多数決であの王が悪いと決まったのです。

 同じように、多くの人が豆をぶつけて魔獣を改心させる事を望んでいます」


「……そうか、多数決で決まっているのか……

 多くの人が望む通りにしないといけないのか……

 言い聞かせて改心させたいと思う僕は、悪い子なんだね」


「そんな事はございません。

 克也様の優しい想いは、とてもと尊いです。

 他の人を危険に巻き込まないのでしたら、克也様の思った通りになされませ。

 私たちが克也様を御守りしますので、安心してなされませ」


 僕が反省するとイワナガヒメが違うと言ってくれる、僕が正しいと言ってくれる。


「ありがとう、イワナガヒメ!

 人を食べないように魔獣に言って聞かせてくる!」

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