第7話:閑話・凋落と恐怖・シュテファニー視点
「姫様、勇者王閣下にご挨拶されるお時間でございます」
「分かりました、直ぐ謁見の間に参ります」
王家を裏切った近衛兵に返事をするのは腹立たしいです。
ですが、裏切られるのも当然なくらい、父王たちが愚かすぎました。
勇者様に助けてもらう立場なのに、偉そうにして勇者様を激怒させたのです。
近衛兵たちの前で勇者様のお供に叩きのめされ、惨めな命乞いしたのです。
しかも、恐怖の余り近衛兵たちの前でそそうして、悪臭を振りまく情けなさです。
実の父上ではありますが、娘の私ですら情けなく思ったのです。
忠誠心などなく、自分たちの欲と王家の権力によって近衛兵になっていた者が、王を情けなく思って離れるのは当然です。
父王や側近の貴族たちは、魔獣に苦しむ国民を守る事なく、王城でぜいたく三昧の生活を続けていました、助けを求める多くの街や村を見捨てました。
王都の周りに魔獣が現れるようになって、ようやく騎士や兵士を送りました。
ですが父王に媚びて地位を得たような騎士や兵士では、魔獣に勝てませんでした。
王都の外にでた騎士と兵士は、全員死んでしまいました。
どうにもならなくなって、勇者様に助けを求める事になったのに、頭を下げるどころか偉そうに命令しようとして、逆に叩きのめされるような人です。
近衛兵だけでなく、ほとんど全ての家臣に見捨てられるのが当然です……
「シュテファニー王女殿下の御入場」
式部官が私の到着を謁見の間に知らせてくれます。
これまでは貴族や騎士が集まってから私が入場したのですが……
今は勇者王陛下に謁見していただくために、私が先に謁見の間に入るのです。
近衛兵が家臣用のドアを開けてくれます。
謁見の間には私よりも身分の低い貴族や騎士が先に集まっています。
ほんとが急に当主になった若い貴族です。
少数の年配者は、父に媚びを売らなかった誇り高き人たちです。
父王に媚びを売って権力を得ていた者たちは全員地下牢に閉じ込められています。
父王も母上も、ほとんどの王族が地下牢です。
これまでやってきた悪事やって来なかった必要な政策、全て明らかにされました。
父王や側近たちの無能だけでなく愚劣な悪事が全て明らかにされてしまいました。
心ある貴族や騎士は、それだけでも父王や王家を見放した事でしょう。
それだけなら、まだ王家を慕ってくれる貴族や騎士、民もいたでしょう。
無償の忠誠心を示してくれる者も、少しは残っていたでしょう。
ですが、勇者とお供の者たちは、父王や王家との格の違いを見せつけたのです。
父王が逃げ続け、貴族や騎士や兵士が手も足も出なかった魔獣たち。
民が飢えに苦しむ原因となった、魔獣問題をいとも簡単に解決したのです。
王都を囲んで人を喰らい続ける魔獣たちを皆殺しにしてくれたのです。
万を越える強大な魔獣を、たった4頭のお供が皆殺しにしたのです。
4頭のお供が戦っている間、残る8頭が勇者様を護っていました。
戦いに出た4頭が、13頭の中で弱いお供から順に選ばれたと聞いた時は、自分の耳を疑いました。
それだけでも武を貴ぶ騎士や兵士の心を得た事でしょう。
ですが、勇者様は武勇だけではありませんでした。
父王や側近たちに欠片もなかった、民を思いやる心まであったのです!
父王や貴族たちなら、皆殺しにした魔獣を自分たちのモノにしました。
飢えに苦しむ民の事など考えもしなかったでしょう。
飢えに苦しむ民に高い値で魔獣肉を買わせた事でしょう。
ですが、勇者様は違いました。
王都の民が飢えていると聞かれて、全ての魔獣を民に配られたのです。
心から情けなく思う事は、公平に配れと命じられた王家の騎士や兵士が、王家王国に仕えていた騎士や兵士が、魔獣を盗んで利益を得ようとした事です。
ですが、そのような者を見逃す勇者様ではありません。
少なくともお供の神獣たちは許しませんでした。
全員が捕らえられて、勇者様の私物を盗んだ極悪人として広場にさらされました。
身分を奪われ、ドレイに落とされ、王都の民にさらされた後で解放されました。
解放されましたが、許されたわけではありません。
真の罰は、解放された後で王都の民から与えられたのです。
家族、いえ、一族全員が王都の民に石を投げられ薪で殴られました。
侍女の話では、肉片になるまで薪で殴られ続けられたそうです。
王都の民の怒りは、それほどまで暗く深かったのです。
わたくしも心しなければなりません。
わたくしの態度1つで、父王と母上様の運命が決まるのです。
今はまだ地下牢に閉じ込められているだけですが、いつ罪人にされるか……
ドレイに落とされても勇者様に使われるのなら生きて行けますが……
勇者様はお優しいですが、お供の神獣たちは違います。
今も思い出す度に激しい震えに襲われ、そそうしそうになってしまいます。
勇者様に対して無礼な言葉を口にした時の、神獣たちの怒りに満ちた視線。
「勇者王陛下の御入場!」
父王の時よりも人数が増えた楽隊が、勇者様の入場を知らせます。
父王の時よりも長い音楽の後で、神獣に守られた勇者様が入って来られます。
神獣たちが殺意のこもった目で謁見の間にいる者たちをにらみます。
私を含めて集まっていた者たち全員がガタガタと振るえてしまいます。
分かるのです、神獣たちが私たちを殺したがっているのが分かるのです。
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