第5話:異世界召喚:佐藤克也視点

「勇者様、よくぞ我らの願いにこたえてくださいました!」


 痛くない、胸が、心臓がぜんぜん痛くない!


「勇者様、どうか我が国をお救いください。

 魔獣のよって苦境に落ちている我が国をお救いください!」


 え、なに、どうして僕の前に金髪の女の子がいるの?

 病院で苦しんでいたはずなのに、どうなっているの?

 また気を失って夢を見ているのかな?


「勝手なお願いをしているのは、重々承知しております。

 お腹立ちはごもっともですが、勇者様に頼るしかなかったのです。

 王族待遇で迎え入れさせていただきます、どうか私たちをお救い下さい」


 何を言われているのか分からない……あ、もしかして!

 夢じゃなくて、タブレットで観ていた異世界召喚?!

 氏神様たちが僕のお願いを聞いてくれたの?


「無礼者、何を勝手な事を言っているのですか!」


 後ろから声がした!

 犬だ、いぬがいた、犬ってこんなに大きいの?

 タブレットで観た事しかないから、もっと小さいと思っていた。


「な、言葉がしゃべれる?!」


 え、さっきしゃべったのはこの犬なの?!


「初めて御意を得ます、勇者克也様のお供、イワナガヒメにございます。

 お見知りおき願います、勇者様のお供なのですから、言葉くらい話せます。

 そんな事よりも勇者様の待遇です、王族待遇とは無礼にも程があります!」


 すごい、犬が僕に話しかけた、話しかけたどころか、あいさつまでしてくれる。

 僕にあいさつしてくれたと思ったら、金髪に女の子を怒りだした。


「え、ですが、王族待遇ですよ、これ以上の待遇などありません」


「この国を救うために呼び出したというのに、王があいさつせずに王女にあいさつさせるなど、勇者様を見下しているからでしょう?!

 そのような無礼で思い上がった王家も国も、救う必要などありません!

 勇者様には元の世界に戻っていただきます!」


「そ、それは……」


「無礼者、呼び出された分際で、偉そうにしおって!

 何が勇者だ、思い知らせてくれる!」


 銀色に光る鎧の人が大声で怒鳴っている。

 剣を抜いて僕の方にやって来る。


「無礼者はお前だ!」


 銀色の鎧の人が壁に飛んでいった。

 僕に話しかけていた女の子の横を抜けて飛んでいった。

 ヒラヒラの服を着ていた女の子がその場に座っちゃった。


「直ぐに王を呼んで来い!

 勇者様を王に謁見させようと思っている事が不遜だ!

 勇者様が王の会ってやるのだ、間違えるな!」


 さっきとは違う声に驚いて後ろを見ました。

 今度は大きな鳥が目に入りました。

 犬も大きかったですが、鳥もびっくりするくらい大きいです。


「あの、あなたが話したのですか?」


「そうですよ、私が話しました。

 私たちは勇者様のお供です、もも太郎のお供と同じです。

 安心して王家との交渉を任せてください」


 そう言われてしっかりと見ると、犬と鳥以外にもお供がいました。

 もも太郎では猿もお供だったと思うけど、猿ってこんなに大きかった?

 タブレットで観ていたゴリラよりも大きい気がするのだけど……


 犬や雉と同じように、僕がまちがって覚えていたのかな?

 でも、もも太郎のお供は犬も雉も猿も1頭ずつだよね、4頭ずつじゃないよね?

 しかも猿だけ5頭で犬や雉よりも1頭多いし。


「13人もお供がいるの?」


 一番前に居た大きな犬に聞いた。


「はい、無理矢理呼び出そうとしているのに、単身赴任させるのは勝手過ぎます。

 誠意をもって来てもらおうと思うのなら、家族同伴にすべきです。

 まだ小学生の勇者様を1人呼び出したのは、この国の王の悪意です。

 勇者様には失礼な言い方になりますが、まだ小学生の勇者様だけを呼び出して、上手く使おうとしているのです、お気をつけください」


「そうなの、僕を利用しようとしているの?」


「はい、その証拠に、その騎士が勇者様に剣を向けました

 王家に仕える家臣の分際で、助けを求めたはずに勇者様に脅そうとしたのです。

 卑怯極まりない行いです、油断なされませんように」


「僕はどうしたらいいのかな?」


「好きになされたらよいのです。

 この世界で鬼退治されても良いですし、元の世界に戻っても良いです」


「嫌だ、元の世界に戻るのは嫌だ!

 心臓が痛くて胸が苦しくて、寝たきりの生活には戻りたくない!」


「大丈夫ですよ、安心されてください、元の世界に戻ったら元気な身体になっています、何の心配もありません」


「……信じられないよ、ずっとお願いしていたのに治らなかったんだよ。

 僕だってバカじゃないよ、心臓病が治らない事くらい知っているよ!」


「勇者様がおられた地球とこの世界を行き来する間に、身体が創り変えられました。

 その証拠に、全然心臓が痛くないでしょう?」


「痛くない、全然痛くない、凄く楽だよ。

 でも、戻ったら元の身体になっちゃうんじゃないの?

 寝て起きたら心臓が治っていたなんて、ありえないよ!」


「それは色々とやり方があるのです」


「……信じられない、異世界に召喚されるアニメはたくさん見たけれど、あれが本当になるなんて信じられない」


「確かに違う所はたくさんあります。

 この世界の事は全部忘れてしまいます。

 地球では心臓病が治ったのではなく、ドナーが見つかった事になります。

 この世界に無理矢理召喚された代価に、健康な心臓がもらえるのです」


「……信じられないよ、戻って心臓が痛かったら……

 これが夢なら覚めないで欲しいよ、この身体のままでいたいよ!」


「勇者様、いえ、克也様が望まれるのなら、無理に地球に帰らなくても良いですよ。

 この世界で命一杯生きてから地球に戻っても良いのですよ」


「本当に、本当にこの世界に居て良いの?」


「いいですよ、この国に居ても良いですし、他の国に行っても良いです。

 どこでもお供させていただきます」


「「「「「お供させて頂きます」」」」」

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