第4話:プロローグ4・好機:石長比売視点
何度お願いされても、私には何もできないのです。
定められた人の運命を変える訳にはいかないのです。
真摯に願われても、氏神にもやれる事とやれない事があるのです。
神代の時代なら多少は融通が利きましたが、今は神々の協定があるのです。
我が子同然の神職の子孫とはいえ、運命を変える訳にはいかないのです。
ですが、死んだ後なら多少は融通が利きます。
何の罪も犯していない無垢な魂です、輪廻転生で手心を加えられます。
熊野十二所権現も、私と一緒に地獄の十王に話しに行くと言ってくれていますから、来世は健康な身体を与えてやれます。
『治してくれない、この世界で生まれ変わらせてもくれない……
だったら異世界に転生させてよ!
アニメの主人公のように生まれ変わらせてよ!』
克也、また無茶な事を言ってくれます。
まだ幼く、病院から出た事もない世間知らずですからね。
以前ならともかく、今の人界で神隠しなんてできません。
勝手な事を禁じた神々の協定の範囲は、この世界だけではないのです。
この世界から異世界に行く事も、異世界からこの世界の来る事もできないのです。
以前愚かな神が際限なくやって、多くの世界が大混乱したから禁じられたのです。
「あ、これは、どこの誰ですか!
神々の話し合いであれほどやるなと言われている、異世界召喚をするバカは?!」
「石長比売、気付かれましたか?!」
「ああ、天照大神、貴女も気付かれましたか。
他の熊野十二権現たちは気付いているのですか?
この神域の外にいる神々は気が付いているのですか?」
「はい、熊野十二権現たちは気が付いて激怒しています。
掟を破ったあの世界の神に罰を与えると言っています。
私たちの神域内での事なので、他の神々は知らないでしょう、知らせますか?」
「そうですか、それは好都合です。
掟破りに罰を与えるのは構いませんが、少し後にしませんか?」
「どういう事ですか?」
「克也ですよ、私たちを祀ってくれている神官の曾孫、克也の為ですよ」
「心臓病の子でしたね、曾祖父が熱心に祈祷していますが、叶える訳には……」
「神々の掟を破る訳にはいきませんから、私たちが癒してやる事はできませんし、他の氏神が護っている子を殺してドナーにする事もできません。
ですが、他の世界の神が異世界召喚する事で治るなら……」
「次元を渡る時に身体が創り変えられますが……心臓病を治すために掟を破るのを見過ごせと言われるのですか?」
「掟を破った加害者は向こうで、こちらは被害者です」
「そうですね、見て見ぬふりするだけで克也を救えるなら、他の神々にうかつを誹られるくらいは我慢できます。
しかし向こうは勇者として召喚するのでしょう。
克也に命懸けの戦いをさせるでしょう?
克也は優しい子です、敵と言われたからと言って人の命を奪えるでしょうか?」
「克也は昔話やアニメが大好きでした。
鬼退治や悪い魔物を討伐すると言えば、相手を同じ命とは思わないでしょう」
「後で知って苦しんだりしないでしょうか?」
「あの世界は種族の競争が激しい弱肉強食の社会です。
見た目も昔話の鬼以上に違っています、大丈夫でしょう。
それに、勇者として戦えなくてもいいじゃないですか。
異世界召喚で心臓病か治るのなら、それで良いではありませんか」
「そうですね、心臓病が治れば良いですから、戦えなくてもかまいませんね。
克也が戦うのを嫌がったら、直ぐに文句を言ってこちらに戻せばいい」
「問題は、こちらの戻した時に、心臓が治った事をどう取り繕うかです」
「それは掟破りの神に責任をとらせましょう。
向こうの神通力で、この世界の人間の記憶を変えさせます」
「それでは大々的に記憶を書き換えなければいけなくなります?
あの神がそれだけの神通力を持っているでしょうか?」
「それなら、向こうの死者をドナー提供者にしましょう。
身元不明の死者から摘出された心臓が、偶然克也と適合した事にすれば、記憶を書き換える人数も脳の領域も少なくて済みます」
「なるほど、そうすればあの神の神通力が少なくても大丈夫ですね」
「それと、克也には向こうで思いっきり暴れさせてあげたいの。
ずっと病院のベッドで寝た切りだったのです。
向こうでは身体を動かく幸せを味あわせてやりたいのです。
ただ、痛い思いも命を失いような危険も味あわせたくはないので、私の分霊をつけようと思います」
「それは、いくらなんでもやり過ぎではありませんか?!
それでは、あの神が掟破りの異世界召喚をしたのを知らなかったと言えませんよ」
「それは大丈夫です、掟破りの異世界召喚に気が付いて、誰がやったのか確かめるために、慌てて分霊を送った事にしますから」
「その言い訳は、かなり厳しいのではありませんか?」
「そうですね、疑われて色々言われるでしょう。
ですが実際に掟を破って異世界召喚をしたのは、私ではなく向こうの神です。
それに、この件は自分を祀ってくれる信徒の家族を別の神が攫ったのです。
私は助けるために追いかけるだけです、文句言える神がいく柱いますか?
卑怯姑息なやり方で掟の抜け道をつき、人の世に介入している神が私に堂々と文句を言えますか?」
「あの連中なら恥知らずに文句を言うでしょうが、少しでも恥を知る神は、陰では色々言えても、堂々とは言えないでしょうね」
「私たちが強く出れば大丈夫です。
文句を言う連中は嫌われていますから、大勢は私たちに有利に動くでしょう。
だから分霊して克也について行っても大丈夫です。
克也が無事に帰って来られるように、側で守ってあげるのです」
「だったら私たち熊野十二権現も分霊して見守ります。
石長比売の神通力は不老長生、戦う力ではありませんよね?」
「ですが、熊野十二権現も戦が得意な神は少ないですよね?」
「素戔嗚尊がいます、あの力なら異世界でも大暴れできるでしょう。
あの世界は魔術が発達していますから、軻遇突智命の火術と金術、埴山姫命の土術、彌都波能賣命と稚産霊命の水術、木術は彦火々出見尊と鸕鶿草葺不合命、埴山姫命と彌都波能賣命、稚産霊命が使えます」
「そう言われたら、そうですね、他の神々から陰で文句を言われるのは、私だけでも、貴方方熊野十二権現が一緒でも同じね。
だったらみんなで異世界を楽しみましょう」
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