第3話:プロローグ3・祝詞:戸田光孝視点

「「「「「ひーふーみーーー、よーいーむーなーやーーー、こーとーもーちーろーらーねーーーーー」」」」」


 僕が禰宜を務める神社の本殿に祝詞が響き渡る。

 とは言っても、思っていたほど人数が集まらなかった。


「「「「「しーきーるーーー、ゆーいーつーわーぬーーー、そーをーたーはーくーめーかーーーー」」」」」


 僕の直系は、子供、孫、曾孫、玄孫だけで100人以上いる。

 なのに、今ここに集まってくれているのは17人だけだ。


「「「「「うーをーえーにーさーりーへーてーーー、のーまーすーあーせーえーほーれーけーーーー」」」」」

 

 克也が生まれてから12年間、ずっと祝詞を頼んでいるとはいえ、もう少し集まってくれてもいいではないか!


「「「「「たーかーあーまーはーらーにーかーむーづーまーりーまーすーーーー」」」」」


 克也の心臓病が治るようにだけ、ドナーが見つかるようにだけ祈祷している訳ではない、集まってくれた者たちの願いも一緒に祈祷しているのだ!


「「「「「かーむーろーぎーかーむーろーみーのーみーこーとーもーちーてーーーー」」」」」


 とはいえ、これほど願いが叶えられないと、信用を失うのもしかたがない。

 祈祷で心臓病を治せると信じている者は、私も含めて誰もいない。

 だが、ドナーが12年も見つからないと、神も仏もいないと思って当然だ。


「「「「「すーめーみーおーやーかーむーいーざーなーぎーのーおーほーかーみーーーー」」」」」


 最初は集まってくれていた子や孫も、いくらお願いしても成就しなければ、いくら私が神主をしていても、神を信じてくれないくなる。


「「「「「つーくーしーのーひーむーかーのーたーちーばーなーのーおーどーのーあーはーぎーはーらーにーーーー」」」」」


 それに、神仏がいるなら大東亜戦争に負けていない。

 天皇陛下にあんな無念を味あわせる事もなかった。


「「「「「みーそーぎーはーらーいーたーまーうーとーきーにーあーらーまーせーるーーーー」」」」」


 僕も克也の心臓病を祈祷で治せるとは最初から思っていない。

 適合するドナーが見つかるようとだけ祈祷し続けた。

 それも叶えてもらえないのなら、何を願う?


「「「「「はーらーえーどーのーおーおーかーみーたーちーもーろーもーろーのーまーがーごーとーつーみーけーがーれーをーーーー」」」」」


 繁一は、克也に自分の心臓を移植できるなら自害すると言っていた。

 あいつの事だから嘘偽りのない本心だろう。


 あいつも私の長く生きた。

 100歳をこえて106歳となった、今更死を恐れる年でもない。


「「「「「はーらーいーたーまーえーきーよーめーたーまーうーとーまーおーすーこーとーのーよーしーをーーーー」」」」」


 ドナー登録してあるから、遺伝子が適合するように願えば良いのか?

 克也と遺伝子が合う子供が死ぬように願う訳にもいかない。


「「「「「あーまーつーかーみーくーにーつーかーみーやーおーよーろーづーのーかーみーたーちーとーもーにーーーー」」」」」


 ……誰にも言わず、心の中でだけ他人の死を願うか?

 家族を帰らせて、私だけ残って願うか?

 そんな事をしても、優しい克也はよろこばないだろうが……


「「「「「きーこーしーめーせーとーかーしーこーみーかーしーこーみーもーまーおーすーーーー」」」」」


 タブレットで観た正義のヒーローになりたいと言っていた克也だ。

 私や繁一が教えた桃太郎のアニメを観て、犬や猿、雉を連れて悪い鬼を退治すると言っていた克也だ、私が呪って手に入れた心臓で元気になろうとは思わないだろう。


「最後に大祓祝詞を唱える」


「「「「「はい」」」」」


「「「「「高天原に神留り坐す、皇親神漏岐、神漏美の命以て、八百萬神等を神集へに集へ賜ひ、神議りに議り賜ひて、我が皇御孫命は、豊葦原瑞穂國を、安國と平らけく知ろし食せと、事依さし奉りき、此く依さし奉りし國中に、荒振る神等をば、神問はしに問はし賜ひ、神掃ひに掃ひ賜ひて、語問ひし磐根、樹根立、草の片葉をも語止めて、天の磐座放ち、天の八重雲を、伊頭の千別きに千別きて、天降し依さし奉りき此く依さし奉りし四方の國中と、大倭日高見國を安國と定め奉りて、下つ磐根に宮柱太敷き立て高天原に千木高知りて、皇御孫命の瑞の御殿仕へ奉りて、天の御蔭、日の御蔭と隠り坐して、安國と平けく知ろし食さむ國中に成り出でむ天の益人等が、過ち犯しけむ種種の罪事は、天つ罪、國つ罪、許許太久の罪出でむ、此く出でば、天つ宮事以ちて、天つ金木を本打ち切り、末打ち断ちて、千座の置座に置き足らはして、天つ菅麻を、本刈り断ち、末刈り切りて、八針に取り辟きて、天つ祝詞の太祝詞を宣れ


 此く宣らば、天つ神は天の磐門を押し披きて、天の八重雲を伊頭の千別きに千別きて、聞こし食さむ、國つ神は高山の末、短山の末に上り坐して、高山の伊褒理、短山の伊褒理を掻き別けて聞こし食さむ、此く聞こし食してば、罪と言ふ罪は在らじと、科戸の風の天の八重雲を吹き放つ事の如く、朝の御霧夕の御霧を、朝風、夕風の吹き払ふ事の如く、大津辺に居る大船を、舳解き放ち、艫解き放ちて、大海原に押し放つ事の如く、彼方の繁木が本を、焼鎌の敏鎌以ちて、打ち掃ふ事の如く、遺る罪は在らじと、祓へ給ひ清め給ふ事を、高山の末、短山の末より、佐久那太理に落ち多岐つ、速川の瀬に坐す瀬織津比賣と言ふ神、大海原に持ち出でなむ、此く持ち出で往なば、荒潮の潮の八百道の八潮道の潮の八百會に坐す速開都比賣と言ふ神、持ち加加呑みてむ、此く加加呑みてば、気吹戸に坐す気吹戸主と言ふ神、根底國に気吹き放ちてむ、此く気吹き放ちてば、根國、底國に坐す速佐須良比賣と言ふ神、持ち佐須良ひ失ひてむ、此く佐須良ひ失ひてば、罪と言ふ罪は在らじと、祓へ給ひ清め給ふ事を、天つ神 國つ神、八百萬神等共に、聞こし食せと白す」」」」」

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