第22話 雨の恵みを讃える声

 目が覚めると、三人はボールの投げ合いっこをしていた。

 生前犬であったセイは、ボール遊びに大喜びだ。


「いつだったか、メイともこんなフウにアソんだなぁ。メイがナげるボールを、ボクはいつまでもオいカけていたっけ」

「そうなの?」

「うん……。メイがいなくなってからは、ただひたすらにホウチされていただけだったけど、こうして、またヘイワなニチジョウがモドってクるなんて、ボクはイマ、すこぶるウレしいよ。フタリトモ! ボクにもっとボールをちょうだい!」


 興奮気味なその様子に、ミコトはクスリと笑う。


「アナタ、妙にテンションが高いわね。そんなにボール遊びが好きだったの?」

「まぁね。ボールアソびだったら、どれだけアソんでも、まったくアきないよ」


 心の底から楽しそうに、リリーとボールを投げ合うセイ。

 しばらくそれを続けていると、ミコトが『ボールボール! あたしにもボールをちょうだい!』と大きな声で叫んだ。

 三人のあいだには、とても微笑ましい光景が浮かんでいた。


 遊び続けて、数時間が経った頃。


 突然、空から雨が降ってきた。

 三人は急いで家の中に入る。


「ふぃ~、テンゴクでもアメってフるんだね」

「そりゃそうよ。この世界なんて、花がいっぱいなんだから、特にね」

「まだ遊び足りない……。雨、止まないかな……?」

「とりあえず、少し様子を見てみましょう」


 家の窓から雨の様子を窺っていると、どこからともなく、透き通った歌声が聴こえ出した。


「きれいな声……」

「ミコト、このコエは?」

「この声はね、天使のさえずりよ。きっと、雨の恵みを讃えているんだわ」

「ボウソウしてないテンシって、こんなにもコウゴウしいんだ」

「メイとの異世界旅行で、アナタも本当の天使を見たことあるんじゃないの?」

「や、イチオウミたことあるけど、ボウソウしたテンシのインショウがツヨすぎて、ホントウのテンシがゲシュタルトホウカイをオこしてる」

「何よそれ」


 ミコトはプッと吹き出す。


「それにしてもいいコエだねぇ」


 天使のさえずりに、三人はうっとりと聴き惚れる。


「天使とは本来、神の次にありがたい存在なのよ」

「ついちょっとマエまでのことがウソみたいだ」


 暴走した天使は、とにかく恐ろしかったが、今となっては、まったくと言って、そんな面影は見当たらない。


「ボクはイマ、テンゴクにいるんだねぇ」

「あくまで死神だけどね」


 天使のさえずりを聴きながら、窓の外を見ていると、雨が次第に止んできた。


「あっ、アメがヤんだよ」

「セイ……! ミコト……! あれを見て……!」


 リリーが空を指差し、驚いたような顔をする。


「あれは――」


 そこにはきれいで大きな虹が架かっていた。


「スゴい! カクリヨのニジは、ウツシヨのニジよりもハクリョクがあるね!」

「ねぇねぇ……! 外に見に行こうよ……!」

「イこうイこう!」


 セイとリリーは、大はしゃぎで、外に虹を見に行った。

 その後をミコトも続く。

 家の外に出ると、たっぷりと水分を吸った、花紅柳緑かこうりゅうりょくな花々が、三人を優しく出迎えてくれた。


「うわー! オソろしいほどにきれいだね!」

「凄い……! 凄い……!」


 あまりの絶景に感動して、セイとリリーはその場に立ち尽くす。


「あたし、アナタたちとこの景色が見れて良かったわ」

「ボクもだよ」

「わたしもわたしも……!」


 三人は仲良く手を繋ぐと、いつまでもいつまでも、その場に立ち尽くしていた。

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