第21話 ド変態

 お風呂場は三人で入っても快適な広さであった。

 浴槽に限っては、三人全員が足を伸ばせるデカさだ。

 今セイは湯船に浸かりながら、ミコトの胸を見ている。


(……オオきい)


 そういうミコトの胸は、その大きさから、見事なまでに水に浮いている。


「ちょ、あまりジロジロ見ないでくれる?」

「ご、ごめん……」


 咎められたセイは、視線を横に逸らす。


「……アナタ、女のくせに、おっぱいが好きなの? こんなの、ただ邪魔なだけなのに」


 自分の胸を触って、ミコトは大きく溜め息をついた。


「オンナのコのムネには、ユメとキボウがツまってるって、どこかのエラいヒトがイってたよ」

「どこかの偉い人って、いったいどこの馬鹿よ……」


 『知らんわ』と言って、ミコトは湯船の中に沈んだ。


「ね、ねぇ、ミコト? ちょっとだけ触ってもいい……?」

「ハァ、別に触りたければ触ればいいけど、ちゃんと優しく触りなさいよ」

「う、うん……!」

「ド変態……。わたし、そろそろお風呂から出るね……」


 リリーの冷たい視線が、セイの心に深く突き刺さる。

 が、欲望を抑えきれないセイは、そのままミコトと二人きりになるのであった。


          *


 家の隅で恍惚の表情を浮かべているセイに、ミコトが『ほら』と〝ある物〟を差し出してきた。


「これは?」

「お風呂に入る前に言ったでしょ。ご褒美のとても良いことよ。甘くて美味しいから、飲んでみなさい。お風呂上りに最高の一本なんだから!」

「う、うん……」


 強気なミコトに促され、セイはコーヒー牛乳を口に運ぶ。


「わあ! オイしいね、これ!」

「でしょ? お風呂上がりは、やっぱりこれよね」


 ミコトは豪快に笑う。


「わたしはフルーツ牛乳派……」

「何よ、フルーツ牛乳なんて邪道よ。お子様にはコーヒー牛乳の素晴らしさが分からないようね!」

「むー……!」


 ミコトとリリーはいがみ合う。


「まぁまぁまぁ! スきなモノはヒトそれぞれだよ」

「そうね。ちょっとムキになり過ぎたわ」

「ごめんね、ミコト……」

「あたしもごめん……」


 喧嘩が勃発かと思いきや、あっさりと解決してしまったことに、セイは戸惑いの表情を見せる。


(や、ヘンにコジれなかったから、ヨかったとイえばヨかったんだけどね)


「さぁ、仲直りもしたし、歯を磨いて寝ましょう!」

「うん……!」


(ケンカするほどナカがいいってやつかな)


 一人納得したように、セイはうんうんと頷く。

 三人で歯磨きをした後、三人はベッドに潜り込んでいた。


「ねぇ、セイ……。絵本を読んで……!」

「あ、ごめん! ボク、モジはワからないんだ……」

「そうなんだ……。じゃあ、ミコト、お願い……!」

「し、仕方ないわね。何を読んで欲しいの?」

「そうだなぁ……。じゃあ、ミコトが好きなお話……!」

「分かったわ」


 ベッドの横に置いてあった本棚から、〝ずーっと ずっと だいすきだよ〟と書かれた本を取り出すと、ミコトは静かな口調で語り出した。

 子守唄のようなそれは、リリーを静かに眠りの世界へと誘うのであった。


「子供って可愛いわね」

「そうだね」


 静寂があたりを包み込むと、セイとミコトの二人も、深い眠りに落ちて行くのであった。

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