第19話 特別な存在

 ガタンゴトン。

 ガタンゴトン。


 足元から伝わるリズミカルな振動が、現在魔導列車が走行中であることを教えてくれる。

 魔導列車内には、新たな死者が乗車していた。

 死者は後部座席に座りながら、深い眠りについている。

 魔導列車が大きな警笛を鳴らすと、死者はゆっくりと――その重いまぶたを開けて行く。


「此処は……?」


 妙に間延びした喋り口調で、少女は頭の上に疑問符を浮かべる。


 彼女の名前はリリー。

 まだ齢十にも満たない幼い年頃の女の子だ。


 金紗のように美しい髪と、紺碧の空のように青い瞳は、彼女を死者と思わせない、生気に満ち溢れた印象を抱かせた。

 それもそのはず、リリーは普通の死者ではなかった。

 なんと彼女は、〝神の力〟を以ってして蘇った、半生半死の特別な存在なのである。

 どういうことなのかと言うと、答えは単純なのだが、リリーは〝暴走したエンジェル〟に喰され、一度無になった死者なのだ。


 神は言った。


『あの時、エンジェルに喰された子……、リリーを完全に元に戻すのは無理でしたわ……。彼女は今、子供になって、記憶を失っている状態ですの……。そこで、セイとミコトにお願いがありますわ。しばらくのあいだ、どうかリリーの面倒を見てやってはもらえないかしら……? 問題を起こしたのはわたくしなのに、こんなことをお願いするなんて、筋違いだってことは重々承知しています。でも、リリーのことは、信頼出来るアナタたちにお願いしたいのです……』


 思い掛けない申し入れに、セイとミコトは、最初戸惑ったかのような様子を見せたが、神たって頼みごとということで、その願いを聞き入れることにした。


「「おはよう、リリー」」


 にこやかに彼女の名前を読んでみたが、きょとんとした顔で首を傾げられた。


「リリー……? わたしの名前はリリーというの……?」

「そうだよ。キミはリリー。そして、ボクはセイという」

「あたしはミコトよ。これからよろしくね、リリー」


 セイとミコトは、リリーに向けて、大きく破顔一笑する。


「あなたたちは、いったいわたしの何なの……?」

「う~ん、そうだな。タンテキにイうと、カゾクかな? ミコトはどうオモう?」

「右に同じ。それで間違ってないと思うわ」

「どういうこと……?」

「つまりボクたちサンニンは、これから、セイカツをトモにするってハナシ」

「よく分からないけど、そうなんだ……」


 何が何やらさっぱり分からない。

 呆気に取られた表情で、リリーはぽかんと口を開けた。


「ワルいようにはしないから」


 呆然と口を開けたままのリリーに、セイは優しく囁くように呟く。


 キーッ!


 しばらくして、魔導列車の停車音が聞こえた。


「目的地に着いたみたいね」


 外に出れる。

 そのことを知ったリリーは、落ち着かない様子で、目をらんらんと輝かせた。

 これから足を踏み入れる世界が、果たしてどんなところなのか――、セイも興味が尽きないところである。

 三人は仲良く手を繋ぐと、揃って車外へと出て行くのであった。

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