幕間③

「メイの奴、ちゃんと生まれ変わったかしら」

「カミサマがチカラをツカってくれたんだ。タブン、ダイジョウブさ」

「アイツ、今度は何に生まれ変わるのかしら……。あたし的に植物だったら、素敵だなって思うんだけど、セイはどう思う?」

「ショクブツかぁ。それだったらハナにウまれカわってホしいな。ハナってキレイだし、メイにニアってるとオモうから」

「メイが綺麗かどうかは置いておいて、やっぱり植物って良いわよね」


 ミコトはうんうんと一人頷く。


「でも」

「何よ?」

「ボクとしては、ツギもまたニンゲンにウまれカわってホしいな。それでコンドこそシアワせになってホしい」


 泣きそうな顔で、セイは遠くを見つめる。


「……そうね。きっとそれが一番よね」


 ミコトは相好そうごうを崩すと、セイに倣って、同じように遠くを見つめた。


「メイのゼントにシュクフクがありますように……」


 セイとミコトは、祈るような仕草を取る。

 しばらくして、二人は祈るのを止めると、再び手を繋ぎ合う。


「このまま、こんなトキがずっとツヅけばいいのに……」

「あたしも同意見だわ。でも、あたしたちは死神……。これから、死者を導く仕事があるわ」

「ボク、シニガミとして、ちゃんとやってイけるかな……」

「何よ、そんな心配してるの? そこは先輩のあたしがしっかり教えてあげるから大丈夫よ」

「ヨかった。でも、ミコトがオシえてくれるんじゃ、ボク、ちょっとシンパイだな……」

「は!? 言うじゃないの。あたしのエリートっぷりを見たら、きっと目の玉が飛び出ちゃうんだから!」

「そうなるといいんだけど……」

「なんか腹が立つわね。アナタ、犬だったんだから、ご主人様に従いなさい」

「ボクのごシュジンサマは、これまでもこれからも、メイヒトリだけだよ」

「じゃあ、アナタにとってのあたしは?」


 ミコトにそう言われ、セイは深く考え込む。


「そうだなぁ、ミコトはボクにとって、〝イエ〟みたいなソンザイかな? いつでも、どこでも、ボクをアタタかくムカえてくれる〝イエ〟。イシッショウをトモにする、タイセツなソンザイだよ」

「ふふ、何それ。変なたとえ。でも、嫌いじゃないわ」


 満更でもない。

 そんな様子で、ミコトは朗らかな笑みを浮かべる。


「ミコト」

「急に畏まって、何よ?」

「ボクはキミとカゾクになりたい」

「はあ!? 突然なに言い出してるのよ、アナタ!?」

「キミはボクのことをどうオモってる?」

「えっ、そのまぁ……、あれね。……一応、好き……、かなぁ……」

「だったら!」

「駄目駄目! あたしたちは死神よ? 自由なんて許されない存在なの! アナタもあたしが番号で呼ばれていたの知ってるでしょ!?」

「だからなんだい! ムカシはそうでも、イマは〝ミコト〟じゃないか! フジユウなんてクソクらえだ!」


 セイは怒ったようにそう言うが、ミコトはただただ押し黙っている。


「おネガいだよ、ミコト。どうか、ボクとイッショになっておくれ……」


 懇願するかのように、ミコトに手を差し出すセイ。

 差し出した手は、かすかに震えている。


「あのね、セイ。アナタはあたしの全てを知らない。だから、申し訳ないけど、一緒にはなれないわ……」


『ごめんね』


 消え入りそうな声で、セイに謝罪するミコト。

 目は伏せられている。


「あたしの全てを知ったら、アナタはきっとあたしを嫌いになる。あたしはそれが、何よりも怖いの……」


 セイは差し出した手を、グッと握り締める。


「お勤めを再開するわよ。死者を在るべき場所へ……!」


 魔導列車が大きな警笛を鳴らす。

 セイとミコトは浮かない面持ちで、新たな死者の許へと向かうのであった。

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