第16話 世界が狂った理由

 突如カバネが意味深なことを呟くと、セラフィムが変な反応をする。


「お前は?」

「うふふふ、まだ分からない?」


 セラフィムは首を傾げるが、数瞬したのち、ハッとしたような顔になる。


「も、もしかして、〝貴方様〟は!?」

「セイ、メイ、ミコト。迷惑を掛けてしまって、ごめんなさい」


 三人に頭を下げるカバネ。話はさらに続く。


「わたくしのわがままで、怖い思いをさせてしまいましたわね」

「……貴方は何者?」

「その方は――」


 セラフィムが怒ったように、その先をメイに告げようとする。

 しかし、カバネがその先を言わせない。


「……名無しにも悪いことをしてしまいましたわね。あの子には生まれ変わりを許しましょう」


 それを聞いたメイは、ようやくハッとする。

 ここまで来ても、ミコトはまだ分からない様子だ。

 そこにセイがポツリと口を開く。


「カミサマかい?」


 カバネはセイの顔を見ながら、『うふふ』と小さく笑った。


「セイ、わたくしの可愛いセイ。わたくしは神の身でありながら、あなた一人を愛してしまった。恋慕の妄執に囚われ、〝屍〟となってしまった。その為、今回のような大混乱を起こしてしまいました。そのことを深く謝らせてください。あなたとの、最初で最後のこの旅は、刺激的でとても楽しかった。たくさん怖い思いをさせてしまったけれど、わたくしは一度でいいから、あなたと〝恋〟というものを経験してみたかったのです」


 どこか嬉しそうに語るカバネを見て、メイは呆れ返ったかのように呆然とする。

 しばらくして、怒りが頂点に達すると、彼女の頬に平手打ちをかました。


「貴方の身勝手な思いで、みんなが迷惑を被った。たくさんの命が失われた。謝って済む問題じゃないわ」


 シンと静まり返った神の間で、セラフィムが怒り心頭に発する。


「この無礼者が! 神は万物の頂点に御座す存在! その神に平手打ちとは、貴様の命で持って償え!」


 セラフィムが攻撃態勢に入ると、カバネはすぐさまそれを止める。


「メイ、本当にごめんなさい。わたくしがやったことは、謝っても許される問題ではないですわよね……。それはよく分かっていますわ……」


 カバネは泣きそうな顔で、メイに深く陳謝すると、その手に何かを渡し、小さな声でポツリと言った。


「セイを任せます」


 そして、ゆっくりとその場を後にした。

 メイの手には〝生命石〟が握られていた。


「やった! ようやくここまできたわね!」


 念願が叶えられ、大喜びのミコトであったが、セイとメイは、どこか浮かない顔をしていた。


「どうしたのよ、二人とも?」


 ミコトは頭の上に疑問符を浮かべている。

 今ここに、世界は再び、正常へと戻って行くのであった。

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