第14話 光あれ

 地下世界を抜け出し、地上世界へと顔を出した、五人の面々。

 五人は一路神の間を目指す為、ルシフェルを中心に円陣を組んでいた。


「神の間に行くには、空を飛ばなければならない。神から与えられた私の神通力で、お前たちにも空を飛ぶ力を与えてやろう」


 ルシフェルにそう言われ、五人は互いに手を繋ぐ。

 すると、五人の体は、ふわりと宙に浮かんだ。


「よし、無事私の神通力をお前たちに与えることに成功したようだな」


 ルシフェルが笑う横で、ミコトが驚いた顔ではしゃいでいる。


「ふぅ、馬鹿と煙は何とやらね……」


 メイはどうやら、高いところが苦手らしく、少々青ざめた顔をしている。


「いよいよこれから、カミのマにトツニュウするんだね」


 宙に浮かんだことを、まったく怖がりもせず、神妙な表情を見せるセイ。

 カバネもいつになく、神妙な顔付きになっている。


「さぁ、行くぞ、お前たち。神の間はすぐそこだ」


 ルシフェルがそう言うと、五人の体が、空高くどんどん飛び上がって行く。

 急速度で飛び上がって行き、やがて飛び上がるのが止まると、五人の面々は大きく息を呑んだ。


「「「「「これは……!」」」」」


 無限に広がる中空には、恐ろしいまでに寒々とした無数の扉があった。

 無数と言ったのは、誇張ではない。

 本当に数え切れないほどの、とんでもない数の扉が四方八方に存在しているのだ。


「なんか怖い……」


 一言で言って不気味。


 身体を震わせながら、小さな声で、それを呟くミコト。

 見る者に畏敬の念を抱かせる、荘厳な造りのその扉は、五人の面々に、只ならぬ神聖さを感じさせた。


 ルシフェルは言う。

 この中のどれかが神の間への入り口だと。


「こんなに扉があったんじゃ、どれがどれだか分からないじゃないの!」


 ここまで来て、再び訪れる艱難辛苦に、ミコトは意気消沈する。


「神の間まではあと少しだというのに……」


 意気消沈するミコトの横で、メイも思いっ切り肩を落とす。


「しらみつぶしはムリそうだね……。どうしようか……」


 元気をなくした二人の横で、セイも困った表情を浮かべた。

 そんな中、中位三隊の主天使・ドミニオンが、五人の前に立ち塞がる。


「なんてこと! こんな時に天使まで……!」


 動き辛い空中にまで天使が現れたことにより、顔面蒼白で焦るメイ。

 が、五人の中で一番焦っているのは、メイよりもミコトであった。


「天使とかそんな問題より、あれよあれ!! あたしの一番嫌いな蟲じゃないの!!」


 主天使・ドミニオンは、蟲の中でも凶暴な、ムカデのような姿を擁していた。


「ちょっと! 本当に勘弁して! あたし、ムカデに噛まれたことがあって、それからはもうずっとトラウマなのよ……!」


 セイはパニック状態のミコトをなだめる。

 ルシフェルは、金色の短剣を周囲に浮かび上がらせると、攻撃準備態勢に入った。


「お前たち、此処は私に任せろ! 早く神の間への扉を探すんだ!」


 間もなくして、ルシフェル対ドミニオンの戦いが始まった。

 残された四人の面々は、近くの扉をしらみつぶしに開けて行く。


「――違う」

「違う――」

「――違う」

「違う――」


 しかし、何のヒントもなく、神の間への扉を探すのは、無理に等しかった。


「メイ、アナタリーダーでしょ!? いったいどうしたら、いいのよ!?」

「わたしがいつリーダーになったのよ! こんな時に無茶言わないで!」

「じゃあ、今からリーダーになってよ! あたしたち、どうすればいいの!?」

「ええとええと! とにかく! 全部の扉を開けるつもりで、我武者羅に行きましょう!」

「分かったわ!」


 メイとミコトは、大慌てで、順に近くの扉を開けて行く。

 セイとカバネもその後に続いた。


「ねぇ、メイ! こんなトキだから、もういっそのこと、カミサマにおネガいしてみない!?」

「どういうこと!?」

「カミサマにカミのマまでミチビいてもらうのさ」

「そんなことが可能なの!?」

「ワからないけど、もうやってみるしかないよ。ココはカクリヨなんだ! きっとボクらのコエはトドくはずさ!」


 四人の面々は、声に出して、神様に祈り始めた。


「「「「どうか神様、わたしたちを神の間まで導いてください!」」」」


 セイは神様に祈りながら、ルシフェルの方を見る。

 ルシフェルは、数を増したドミニオンと、苛烈な戦いを強いられていた。


「「「「どうか神様、わたしたちを神の間まで導いてください!」」」」


 四人の祈りは続く。

 一方でどんどんと数を増して行くドミニオンたち。


「ええい! 小癪な!」


 その数はもはや数十匹と化していた。

 ここまで、苛烈な戦いを続けていた、ルシフェルであったが、次第にその神通力は衰えて行く。


「中級天使と言えど、さすがに数が多すぎる……!  もはやここまでか……!」


「「「「どうか神様、わたしたちを神の間まで導いてください!」」」」


 ルシフェルが窮地に追いやられる中、四人の祈りはさらに続けられる。


 ――限界ギリギリ。


 ルシフェルがその力を失おうとしたその時、


 奇跡は起きた。


 無数にある扉の一つが、虹色に輝き出したのだ。


 そして、何者かの声が聞こえた。


 〝光あれ〟


 瞬間、


 ドミニオンたちは、跡形もなくその場から消滅した。


「これは??」


 五人は顔を見合わせると、虹色の扉の前に立つ。


「ハイってみよう」


 セイがそう言うと、五人はゆっくりと、扉の中に入って行った。

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